日立の指静脈認証装置で 半導体実装マシンのセキュリティ強化を実現
情報セキュリティの強化をめざし、製造マシンの世界でも生体認証の導入が進んでいます。
FPD(*)関連装置や、ICカード/ICタグなどの半導体チップ実装装置で業界トップクラスのシェアを誇る大崎エンジニアリング株式会社(以下、OEC)は、新製品の高速ICタグマシン「UD-5000」において、
日立の指静脈認証装置を搭載した高セキュリティモデルを開発。
製造業のコアコンピタンスともいえる最先端の製造ノウハウや個人情報の漏えいを防ぎ、お客さま企業の価値を向上するシステムとして、グローバルな展開が期待されています。
1990年の創業以来、ファインピッチ(高精細)実装技術をコアとして、FPD製造メーカーやICカード/ICタグなどの半導体製造メーカーに、高効率な生産ラインを実現化する各種製造装置を提供してきたOEC。FPD関連装置では、携帯電話やカーナビ、PCモニターなどを対象とした小型FPD関連装置と、薄型テレビを対象とした大型FPD関連装置を、それぞれ一括ラインとして納入できる最先端技術によって業界をリード。またファインピッチ化と薄型化が要求される半導体関連装置では、高速・高精度化に加え、超音波接合技術や超低加重接合技術を盛り込んだ装置を開発するなど、常に業界ニーズに先駆けた最先端の技術開発を推進してきました。
「そしていま、当社が最も力を入れているのがフレイル実装技術です」と語るのは、代表取締役社長の夛田 治夫氏。Frailとは「極小・微細・壊れやすい」といった性質を持つ“ぜい弱”な半導体部品を指す言葉で、ますます薄型・小型化が進む携帯電話やモバイル機器、ICタグなどの高付加価値製品の開発では、いかにこれらの部品にダメージを与えず、低ストレスに実装できるかが重要な課題になっています。
「そこで当社では、0.01N≒1gからの加圧が可能なマイクロ加圧制御、薄さ30μmに対応した薄型チップピックアップ、加熱加圧接合で適正な温度プロファイルを実現する8段階温度制御といった、さまざまなフレイル実装技術を開発しました。そしてこれらの技術を適用した第一弾の製品として提供するのがリールtoリールのフリップチップボンダー UD-5000です」
[夛田氏]
電子決済やトレーサビリティ、セキュリティ用途などに欠かせないデバイスとなったICタグや、非接触ICカードの製造プロセスに幅広く適用できるUD-5000。従来機種に比べ、さらなる高速化とフレイル実装技術の投入が図られた同マシンは、もう1つ「高セキュアな指静脈認証装置の適用」という大きな特長を備えています。
「高機能製品の開発現場では、構造そのものがシンプルでも、開発プロセスがどんどん複雑化しており、どの作業をどのタイミングで、何度の環境で行うかといったノウハウが、製品の差別化を図る上での重要なポイントとなっています。このため製造マシンに蓄積された各種データをいかに管理し、不正アクセスや情報漏えいの脅威から守るかが、今まで以上に重要な課題となっていたのです」と語るのは、UD-5000の開発にあたった第1技術本部 開発・試作センター長の岡田 薫氏。従来、こうしたマシンではスイッチキーによる操作制限や、キーボードからのパスワード入力で一定のセキュリティを確保していたとのこと。「しかしICカードやICタグの需要が急速に拡大している海外市場では、製造現場での従業員の入れ替わりが激しいこともあり、設定値を勝手に変えて歩留まりを下げたり、情報流出を招くケースも少なからず発生していたのです」
[岡田氏]
そこで業界に先駆けた生体認証の導入により、「お客さまの不安やトラブルを解消するセキュリティ対策を導入しようと考えました」と夛田氏は語ります。
指紋や虹彩、手のひらなど、数ある生体認証の中から指静脈を選んだ理由を夛田氏は、「装置自体がコンパクトで実装スペースを取らない点、またクリーンルーム内でも使える可能性が高いことなどを評価したからです」と説明します。日立が開発した指静脈認証は、生体内部の情報を利用するため、偽造のリスクが少ないこと、肌あれなどの影響を受けにくく、高精度の認証をスピーディに実行できることなどから、銀行ATMや入退室管理、PCセキュリティなど幅広い分野で数多くの導入実績を誇っています。
OECは、こうした信頼性や操作性に加え、クリーンルーム内でクリーン服(無じん衣)を着用したままでも、指静脈認証なら容易に使えるのではないかと考えたのです。
「もともと限られた人間しか入れないクリーンルーム内での認証は、本来の認識率の高さより、いかに簡便に使えるかが重要です。その点、日立さんの指静脈認証装置にはソフトウェア開発キットが用意されており、パラメータ設定で認証レベルを柔軟にチューニングできます。当社で独自にテストした結果、薄いゴム手袋をしたままでも個人を特定できる可能性があることがわかりました」と語るのは、第4技術本部 本部長の川島 靖弘氏。岡田氏も「ソフトウェア開発キットを使えば、実装装置のタッチパネルと指静脈認証を連携させたアプリケーション開発が容易に行えます。テストでは、UD-5000を制御するソースコードに第三者がタッチできないようにするための認証、お客さまが独自のプログラム設定を行った際、権限者以外は変更できないようにするための認証など、さまざまな認証形態を容易に組み込むことができました」と評価します。
高速ICタグマシン UD-5000
UD-5000に搭載された
指静脈認証装置
最新鋭のICタグマシンに、指静脈認証によるハイレベルなセキュリティ機能が付加されることで、「製造プロセスにおけるさまざまなリスクを大幅に低減できます」と語るのは、本社営業部 参与の大図逸美氏です。
「例えば、ICカード製造メーカーは、製造・発行プロセスの中で、カードホルダーとなるお客さまの膨大な個人情報を扱っています。UD-5000ならその過程で、指静脈認証によって権限者以外は装置を操作できない状況を作ったうえで、どの作業を、いつ、だれが実行したか、この項目の設定変更はだれが行ったのかといった詳細なログ管理も行えます。このためトラブルの未然回避はもちろん、内部統制的な意味合いでも明確な証跡を残すことが可能です。情報漏えいのみならず、製造プロセスの管理品質を向上させるという意味でも、非常に効果的なソリューションになるのではないでしょ うか」
(大図氏)
OECでは今後、他機種への指静脈認証装置の適用や、指静脈情報のセンター管理、遠隔地からのネットワーク集中管理(利用者確認、ログ管理、装置の状態把握等)なども実現していきたいと期待を込めます。
「私たちは創業以来、常に新しい技術開発へのチャレンジを続けてきました。そこでは、最先端の製品開発をめざすお客さまの開発・製造プロセスをサポートしつつ、より高品質な製品を安定的に生み出していただくための自動化、インテリジェント化を重要なポイントに置いてきました。そして今回の指静脈認証により、お客さま企業の存亡をかけた技術や製品のセキュリティを、開発段階からトータルにサポートするという新たな価値の提供にも踏み出しました。これからも日立さんとのパートナーシップで、機能・品質・セキュリティをともに満たした製造装置を開発し、お客さま満足度をさらに向上させていきたいと考えています」。
(夛田氏)
新しい技術開発にチャレンジを続ける
OECの皆さま
製造現場で扱われるデータの価値や重要度が増す中で、開発・製造マシンにも時代のニーズを先取りしたセキュリティ機能の強化が不可欠だと判断したOEC。同社モデルへの指静脈認証装置の適用が、競合他社への大きなアドバンテージになることは間違いありません。これからも日立は、先進の技術開発とお客さま満足の向上に向けたOECの取り組みを、指静脈認証を核とした幅広い製品群とサービス で積極的に支援していきます
[本社] 埼玉県入間市狭山ケ原326
[設立] 1990年4月
[資本金] 16億8,442万200円
[従業員数] 155名(単体)、210名(グループ/連結)(2009年8月31日現在)
[事業内容] 液晶関連装置、PDP関連装置、
ICカード関連装置、半導体関連装置、省力機器の設計・製作・
販売