患者データ保護のために電子カルテ化、指静脈での多要素認証を先駆けて導入
厚生労働省発表の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」では、2027年度末までに新規稼働・更新する電子カルテなどの医療情報システムの運用に、二要素認証(多要素認証)を導入するよう記載されています。一宮医療療育センターでは、紙カルテから電子カルテへの切り替えを機にガイドラインへの対応も実施。新たに導入した電子カルテシステムへの認証手段として、日立の指静脈認証装置H-1を採用しました。
一宮医療療育センターは、尾張西部地区では初の重症心身障がい児者施設として、2016年1月に開設しました。障がいがあっても前向きで広がりのある心豊かな生活を利用者さまに送っていただけるよう「健康を守り生活を支える医療」「生活の充実のためのリハビリテーション」「個性を重んじ人権を尊重した医療」「開かれたサービス」を指針に、全128床(うち8床は短期入所)の体制で運営しています
「当センターは先天的、または子ども時代に重度の障がいを受けた方々にご利用いただいています。身体だけでなく、知的にも障がいを持つ方が多く、自分の心の声をうまく表現することが難しい場合がありますので、医師の私を含め、スタッフは利用者さまの多様な気持ちを尊重する支援を常々、心がけています」(上村氏)
一宮医療療育センターは地域医療を担う杏嶺会グループの一施設で、緊急の医療処置が必要な際はグループの病院と連携を取って対応しています。
「医療中心の施設ではないのですが、長期の利用者さまが多いので、記録自体は膨大な量になります。小児発達外来のカルテも増えていて、保管方法と場所の確保に大変、困っていました。PCに慣れているスタッフからは電子カルテを導入した方が良いという意見も出ていました」(服部氏)
臨床で上がった電子カルテ導入の声を実現するためには、2027年度末を期限として求められている多要素認証による運用を考えなければなりません。また今後もこのようなシステム面での制度対応が続くことを勘案し、同センターでは電子カルテ導入と同時に、アクセス端末ごとの多要素認証の採用を決定しました。多要素認証とは、ID、パスワードによる認証のほかに、別の手段で認証を行うことです。最近は、医療機関などへのサイバー攻撃が多様化、巧妙化しており、国が情報セキュリティの強化策を各機関に求めているのです。「気が付くと、愛知県内の障がい者施設7拠点の中で紙カルテは当センターだけで、規制に準拠しなければサービス報酬にも影響しますので、経営面からも臨床面からも早期に切り替える方が良いだろうとなりました。新システム導入の委員として大規模病院の診療情報部の方に来てもらい、検討に入りました」(上村氏)
導入の1年以上前から講習会などを開催し、同センターの要件に適したシステムの選考を開始し、重症心身障がい者施設への導入実績が多いなどの理由から東亜システムがベンダーとして選ばれました。「職員の業務負担軽減と、その分、利用者さまとのやり取りの時間を増やしてもらおうというのも今回のシステム導入の目的です。多要素認証に関しては、パスコードやバーコード認証の案も出ていましたが、パスコードでは他者がのぞけば見られますし、委員からバーコードは多要素認証に該当しないという指摘もありました」(尾関氏)
東亜システムは、電子カルテシステム*1への認証手段として日立の指静脈認証装置H-1を提案しました。近年、多要素認証の主流は生体認証といわれており、中でも指静脈認証は、指紋認証と異なり、皮膚内部の静脈を情報として利用するため、指の乾燥や肌荒れなどの影響を受けにくく、高い認証精度を実現します。そこで同センターでは、電子カルテにアクセスできる56台の端末に、認証装置を設置。医師や職員、216名の指静脈情報を一人あたり左右2本ずつ、計4本の静脈パターンを登録した後、予定どおり運用をスタートさせました。
「バーコードや二次元バーコードは、スマートフォンなどのPC以外の端末をベッドサイドに持ち込む必要があるので難しいと思っていました。ナースカートのPCにつながっている認証装置なら、どこでも手軽に、ストレスなく使用できます」(小塚氏)
「私は銀行の手のひら認証でうまくいかなかった経験があり、イメージが良くなかったのですが、この指静脈認証を実際にやり始めたら、認証のスピードが速くて煩わしさがなく、とてもスムーズだと思いました」(服部氏)
「指紋認証に比べると認証精度はかなり良いですね。皮膚内部にある静脈は、指紋のように擦れてしまうことがないからでしょう」(尾関氏)
「力を入れ過ぎたり、指の位置が悪かったりすると、まれに認証されないこともありますが、その場合は画面の指示に従ってやり直すとうまくいきますよね」(上村氏)
紙カルテの頃は、複数の医師、スタッフが1枚のカルテに記入を行うため、情報の追記やチェックが順番待ちになることもあったといいます。このたびの電子化で、情報共有がスムーズになっただけでなく、紙カルテの手渡しなどがなくなったため、その点のセキュリティも向上しました。
「長年使っていた紙カルテから電子カルテへの切り替えですので、医師も職員もなかなか慣れるのに苦労したというのが本音ですが、今後もマイナンバー対応などが必要になることを考えると、今回、思い切って多要素認証まで導入したのは良かったと思っています」(尾関氏)
「今後の話ですが、利用者さまが施設内で放射線検査などが受けられるよう検査棟を新設したいという構想があります。また、その検査設備を近隣の開業医院、クリニックの患者さまにもご利用いただけないかと考えており、このようなサービスの拡充には、電子化やセキュリティ向上が必要不可欠だと思いました」(上村氏)
同センターでは、まもなく効果検証アンケートを実施し、課題の抽出と運用の改善に取り組んでいく計画です。
[所在地] 愛知県一宮市冨田字流筋1679番地2
[設立] 2016年1月
[職員数] 280名(2024年9月現在)
[事業内容] 医療型障がい児入所施設、療養介護、短期入所 障がい児通所支援
[診療科] 小児発達外来、リハビリテーション科