社会
考え方・方針
日立は、バリューチェーン全体でサステナビリティを重視した事業活動を発展させていくことが、調達パートナーと日立グループの相互繁栄につながると考えています。その実現のため、サプライチェーンにおける調達パートナーの人権侵害や温室効果ガスの排出など、ビジネスのグローバル化に伴うサプライチェーン上の調達リスクを可能な限り事前に把握・軽減し、サステナブル調達を推進しています。
調達活動においては、準拠すべき最上位の業務規範として「日立グループグローバル調達規範」を定めています。本規範では、サプライチェーンにおける人権、労働慣行、安全、倫理、品質、セキュリティなどに十分な注意を払うとともに、調達パートナーにも同様の注意をお願いする旨を明記しています。
また、調達パートナー向けの行動規範として「日立グループ
サステナブル調達ガイドライン」を制定しています。本ガイドラインは、「労働」「安全衛生」「環境」「ビジネス倫理」「マネジメントシステム」「品質・安全性」「個人情報、および機密情報の漏洩防止」の7つの大項目からなる「日立グループ調達パートナー行動規範」の中で、調達パートナーに遵守いただきたい事項を網羅しています。本ガイドラインは、調達パートナーに、日立グループの取り組みを伝えるためのコミュニケーションツールとしても位置づけ、日立のサステナビリティに関する方針および取り組み内容についても記載しています。
これらの規範に則った調達活動を推進することで、調達パートナーとともにサステナブルな社会・事業を発展させていくことをめざしています。
日立グループ調達パートナー行動規範の内容例
大項目 | 内容 |
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1 労働 |
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2 安全衛生 |
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3 環境 |
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4 ビジネス倫理 |
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5 マネジメントシステム |
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6 品質・安全性 |
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7 個人情報、および機密情報の漏洩防止 |
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体制
日立は、本社調達の役割を担うバリュー・インテグレーション統括本部(執行役社長兼CEO直属の組織)の中にサステナブル調達本部を設置しており、同本部が中心となって、サステナブル調達に関する各種方針を審議・決定しています。
決定した事項については、国内外のビジネスユニット(BU)および主要グループ会社の各調達部門責任者が出席する「サステナブル調達推進会議」などの会議体を通じて、日立全体への周知を徹底しています。本会議では、サステナブル調達活動における戦略展開や、ベストプラクティスの共有などを通じて、環境や人権を含むサステナビリティ全般にかかわる調達施策の全社推進を行っています。
また、バリュー・インテグレーション統括本部は、調達の主要戦略や活動実績を定期的に経営会議に報告しています。取締役会メンバーで構成される監査委員会にも、毎年、調達の重点施策と、前年度の指摘事項およびその対応状況を報告しており、監査委員会からのフィードバックは、翌年度の活動に反映しています。
サステナブル調達マネジメント体制
日立は、BUおよびグループ会社の調達部門へのサステナブル調達の知識向上や実務支援を目的に、サステナブル調達推進会議を年に2回開催しています。本会議はグローバル全拠点の調達部門長を含む全調達部門員を対象としており、2023年度は計約550人が参加しました。会議では、人権デュー・ディリジェンスプロセスの構築、カーボンニュートラルに向けたScope 1、2、およびScope 3の上流の取り組み状況についての理解を深め、カーボンニュートラルへ向けた社内の先進的な取り組みを共有しました。
活動・実績
日立は、サステナブル調達ガイドラインを4カ国語(日本語、英語、中国語、タイ語)で提供しており、約3万社の調達パートナーに配布するとともに、サステナブル調達説明会などを通じて調達パートナーに遵守いただきたい事項の周知・浸透を図っています。
調達パートナーとともに積極的に社会課題解決に取り組んでいくため、東南アジア、中国、インドにおいては各地域の調達パートナー向けに、地域別サステナブル調達説明会を開催しています。2023年度は約270社の調達パートナーが参加しました。各地域で日立グループのサステナブル調達方針の浸透に向けて活動しています。
地域別サステナブル調達説明会
地域 | 内容 |
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東南アジア | 約60社の調達パートナーに対して、日立グループの環境・人権への取り組みをはじめとしたサステナブル調達方針と戦略、およびEcoVadis*1の導入促進やサステナビリティ監査の概要、エネルギーマネジメントなどについて説明 |
中国 | 約170社の調達パートナーに対して、日立グループの環境・人権への取り組みをはじめとしたサステナブル調達方針と戦略、およびEcoVadisの導入促進や中国におけるサステナブル活動事例を紹介 |
インド | 約40社の調達パートナーに対して、日立グループのサステナブル調達方針と戦略、およびインドにおけるサステナビリティ監査について説明 |
*1EcoVadis:企業の「環境」「労働と人権」「倫理」「持続可能な資材調達」の4分野を包括的に評価するサステナビリティ評価サービスプラットフォーム
日立は外部向けの調達Webサイトを2022年度に刷新し、調達におけるサステナビリティのコンテンツを拡充しました。具体的かつ体系的に、調達パートナーを含めた外部ステークホルダーへ分かりやすく情報を開示することを目的に、サステナビリティ調達に関する内容を定期的に更新しています。
調達Webサイト
日立は、リスクマネジメント強化ならびに調達パートナーとのエンゲージメントを目的に、書面調査の形式で、調達パートナーのサステナビリティに関する取り組み状況の評価・分析を行っています。
2022年度からは、調達パートナーのサステナビリティパフォーマンス評価およびモニタリングに、第三者評価プラットフォームのEcoVadisを導入しています。調達金額が大きく、事業戦略上重要な調達パートナーを評価対象とし、「環境」「労働と人権」「倫理」「持続可能な資材調達」の4分野の評価項目に基づき、サステナビリティへの取り組み状況を確認しています。
2023年度は、日立グループ全体で約3,000社の調達パートナーのサステナビリティ評価を実施しました。本評価結果から得られた情報に基づき、以下のような活動を行っています。
今後もEcoVadis評価対象社数をさらに拡大し、リスクマネジメントおよび調達パートナーとのエンゲージメントを強化していきます。
日立は、世界中に点在する調達パートナーの製造拠点を訪問し、定期的にサステナビリティ監査を実施しています。サステナビリティ監査の実施にあたっては、外部の評価機関を活用し*2、「労働・人権」「安全衛生」「環境」「倫理」を中心とした観点から、書面調査に加えて従業員インタビューや設備確認も行い、調達パートナーのサステナビリティへの取り組み状況を確認しています。
監査対象先は、書面調査の評価結果や、日立との調達取引規模・重要性などに基づき選定しており、2023年度は150社の調達パートナーに対してサステナビリティ監査を実施しました。本監査で指摘されたすべての事項について、調達パートナーへ内容を説明しています。特に、高リスク項目の指摘については、発生原因の特定や改善計画の策定を含めた是正対応を調達パートナーに依頼し、その後も改善に向けて指導・モニタリングを行っています。
今後も、監査の結果、リスクが高いとみられる調達パートナーに対しては、改善を支援するためのトレーニングの提供や対面でのフォローアップ監査の実施などを通して、調達パートナーのサステナビリティ取り組みの拡充、それに伴う日立のバリューチェーンにおけるサステナビリティリスクの低減を進めていきます。
*2一部グループ会社では内部監査員によるサステナビリティ監査を実施
2023年度 サステナビリティ監査の実施地域(14カ国、150社)
Note: その他は、アラブ首長国連邦、ブルガリア、日本、韓国、メキシコ、ベトナム
改善依頼を行った指摘事項の例
カテゴリー | 指摘事項の例 |
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労働・人権 | 従業員の残業時間が適切に管理されていない |
安全衛生 | 非常口・非常灯が十分に整備されていない |
環境 | 環境影響評価が適切に実施されていない |
倫理 | 公正なビジネスに関する教育が従業員に行われていない |
日立は、調達パートナーと誠実で公正な取引を推進するために、法令違反や「日立グループ 企業倫理・行動規範」への違反など、不正の可能性があるすべての事項に関して、調達パートナーを含むすべてのステークホルダーからの相談・報告を受け入れています。相談窓口として「日立グローバルコンプライアンスホットライン」を設定し、Webサイト上で相談先・手順などを公開しています。オンラインまたは電話を通じて24時間/365日アクセス可能です。
活動・実績
日立は、サステナビリティ調達に関する社内理解を深めるため、グローバルでサステナブル調達に関するさまざまな研修・教育を実施しています。
2023年度の会議体を通じた社内教育
地域 | 内容 |
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グローバル全拠点 | 人権デュー・ディリジェンスプロセスの構築、カーボンニュートラルに向けた取り組みや、社内の先進的なサステナブル調達に関する取り組みを紹介 |
タイ | EcoVadisやサステナビリティ監査の取り組み、タイにおける最適なエネルギー調達などについてのベストプラクティスを共有 |
米国 | 調達部門と企画部門、サステナビリティ部門の協働により、人権デュー・ディリジェンスの実施に関する知見を共有 |
欧州 | 欧州内で施行された環境に関連する各種法規制の概要、日立へのインパクトについて情報を共有 |
日立は、サステナブル調達の実務を担う調達部門の意識向上をめざし、国内外の調達担当者に対して、職位階層別のトレーニングを実施しています。
具体的には、サステナブル調達に関するeラーニングを通じて、サステナブル調達ガイドライン、グリーン調達ガイドライン、責任ある鉱物調達方針などの各種方針の徹底を図っているほか、カーボンニュートラルや人権デュー・ディリジェンスなど、重要なサステナビリティの取り組みに関する理解を促進しています。また、調達部門担当者に加えて、新任管理職に対しても同様のサステナブル調達の教育を実施しています。2023年度は、1,745人の従業員が受講しました。
さらに、2023年度は、調達部門を含めた日立グループ従業員の人権意識を高めるため、特定非営利活動法人ACEをお招きし、児童労働をテーマとした教育も実施しました。
日立は、調達パートナーとのエンゲージメント強化、調達パートナーのサステナビリティ評価、サステナビリティ監査・モニタリング、調達パートナー向けホットラインなどの施策を実施し、調達パートナー向けに人権デュー・ディリジェンスの取り組みを行っています。日立の人権尊重に関する考え方をご理解いただくことで、人権リスクの軽減に努めています。
調達パートナーへの働きかけ日立ヴァンタラは、幅広く多様な調達パートナーと相互利益となる関係の構築をめざしています。その施策の一環として、ダイバーシティの視点を調達パートナーの選定基準に含めていく活動を推進しています。具体的には、ダイバーシティに関する質問書への回答、方針を記載した文書や証明書の提出およびそれらへの署名を要請し、調達パートナーの選定を実施しているほか、日立ヴァンタラのダイバーシティに関する指標を満たした取引先への支出状況(マイノリティや、女性、LGBTQ+のオーナーをもつ企業への支出金額など)を把握できる「Diversity Supplier Dashboard」の運用を開始しました。
活動・実績
日立は、サステナブルな社会の実現をめざすために、環境長期目標「日立環境イノベーション2050」において「脱炭素社会」「高度循環社会」「自然共生社会」の構築を掲げ、環境に配慮した自社の取り組みを進めています。
一方で、日立は事業領域が広く、さまざまな製品・部品の調達において多くの調達パートナーに支えられています。これら調達パートナーに対しても環境負荷の低減を働きかけるために、関連するガイドラインの周知徹底や、説明会を通じた日立の環境方針の共有に取り組んでいます。特に「脱炭素社会」の実現に向けては、バリューチェーンを通じて2050年度までにカーボンニュートラル達成という目標を掲げており、バリューチェーン上流での取り組みについて、調達パートナーとの連携・協力を進めています。
バリューチェーン上流における購入した製品・サービスのCO2排出量であるScope 3
カテゴリー1の把握について、日立は、調達金額ベースで全体を網羅し、調達パートナーの1次データも一部反映する算出方法を用いています。調達パートナーの1次データ収集においてはエンゲージメントを意識し、第三者評価プラットフォームEcoVadisを活用しています。
2023年度の日立グループにおけるScope 3 カテゴリー1の排出量実績は、21,794,738トンでした。
日立の調達パートナーにおけるCO2排出量削減活動を促進していくため、2022年度においては「環境先進パートナー」として選出した21社との対話を通じ、CO2削減手段や算出方法、情報収集・分析方法とその活用方法を検討してきました。2023年度は、これらの知見や活用方法を用いて約100社に対象を拡大し、削減活動を進めました。
対象となる調達パートナーは、Scope 3
カテゴリー1の排出量上位の調達パートナーや日立の事業活動においても重要な調達パートナーの中から選出しました。選出した調達パートナーが所在する国・地域は多岐にわたり、業種や業界も、原材料、部品、装置などさまざまです。規模については大企業のみならず中小規模も含んでいます。日立は、調達パートナーの削減計画を入手し、その内容を分析することで日立のバリューチェーン上流におけるCO2削減量の把握を進めてきました。今後はさらに調達パートナーの対象を増やし、CO2排出量削減活動を拡大させていきます。
さらに、日立グループの製品・サービスのCO2削減に貢献するため、2023年度より国内向けに調達するすべてのアルミニウム新地金(AL≧99.7%、スタンダード塊)は、水力発電をベースに製造されたものを原則として採用しています。このように、再生可能エネルギーを活用した製品材料や新技術、あるいはリサイクル材料の活用など、環境に配慮した調達品の採用・検討を進めています。
日立は、環境配慮部品・製品の調達に関する基本的な考え方や調達パートナーへの要求事項をまとめたグリーン調達ガイドラインを調達パートナーに配布しています。ガイドラインには環境保全活動に関する事項(環境経営体制の確立、認証規格の取得推奨など)や、日立への納入品についての環境負荷低減に関する事項(省資源、省エネルギー、リサイクル、製品含有化学物質の適正管理、適切な情報提供など)を記載しています。
製品に含まれる化学物質については、サプライチェーン全体で利用可能な製品含有化学物質の情報伝達のための共通スキームであるchemSHERPA*1-CI/AIによる管理を推奨しています。
*1chemSHERPA:製品含有化学物質を適正に管理するため、サプライチェーン全体で共通の考え方に基づく情報伝達を行うことを目的に、経済産業省が主導して標準化を進めている製品含有化学物質の情報伝達共通スキームで、chemSHERPA-CIは化学品に含有する化学物質、chemSHERPA-AIは成形品に含有する化学物質を扱う
日立製作所は、2024年3月に国際的な環境分野の非政府組織CDPにより、「サプライヤーエンゲージメント評価」において最高評価である「サプライヤー・エンゲージメント・リーダー」に選定されました。日立のバリューチェーン全体でのCO2排出量の削減をはじめとする、ネット・ゼロ社会の実現に向けた一連の取り組みが評価されたもので、2021年から3年連続の選定となりました。
ESGに関する社外評価
日立は、国連グローバル・コンパクト・ジャパン(GCNJ)に参画しています。2023年度はサプライチェーン分科会やHRDD分科会に参加し、サステナブル調達に関するベストプラクティスなどについて日系企業と積極的に意見を交換しました。
また日立は、2023年度も継続して国連開発計画(UNDP)が主催する「ビジネスと人権アカデミー日本企業向け人権デュー・ディリジェンス(HRDD)研修」に参加し、日本企業およびその調達パートナーが直面しうる人権リスクへの対応方法などについて、各社と優良事例などを共有しました。
活動・実績
日立はビジネスのグローバル展開に伴い、調達パートナーのグローバル化も進んでおり、60カ国以上の約3万社の調達パートナーと取引をしています。地産地消の拡大を前提とし、地元の調達パートナーからの調達を推進するため、主要地域(中国・アジア・欧州・米州)それぞれに現地での調達活動を統括する「地域調達責任者」を設置しています。地域調達責任者は、各地域の調達パートナーに対して、サステナビリティに関するモニタリング、監査、調達説明会などを実施し、サステナブル調達への対応を強化しています。
主要地域の資材調達高における当該地域産品の比率(2023年度)
考え方・方針
日立は2013年度に「日立グループの紛争鉱物調達方針」を策定し、紛争鉱物に対する取り組み姿勢を表明しました。また、2016年度には同方針を改訂し、責任ある調達活動に取り組む方針を明確化しました。世界的な潮流として、紛争に加担するリスクに限らず人権リスク全般への対応、そして対象地域もコンゴ民主共和国およびその周辺国に限定せず、より幅広い高リスク地域へと、鉱物調達において企業に求められる責任の範囲が拡大している状況を踏まえて、2021年度にはさらに同方針を改訂し、「日立グループの責任ある鉱物調達方針」を策定しました。
日立グループの責任ある鉱物調達方針
BUおよびグループ会社ごとに営業部門、事業部、製造事業所、調達部門などが連携し、紛争鉱物に関する調査や問い合わせに対応しています。また、各国・地域の紛争鉱物に関する法規制動向やグローバルな要請の把握に努め、グループ内で情報共有を図っています。
また、BUおよびグループ会社ごとに紛争鉱物の使用状況などを調査するとともに、お客さまからの要請に応じて報告しています。サプライチェーンの調査にあたっては、各BUおよびグループ会社の営業部門、調達部門、サステナビリティ部門が連携・協力して取り組んでいます。このほか、日立製作所は一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の「責任ある鉱物調達検討会」に所属し、会員企業とともに紛争鉱物問題に取り組んでいます。本検討会のもと、2023年度は、責任ある鉱物調達調査に対して共通の課題を抱える企業等の調査実務担当者を対象に、オンライン説明会を開催し、約1,270社から総計約2,800人に、責任ある鉱物調達対応の背景などを説明しました。
日立の紛争鉱物対応体制
*13TG:紛争鉱物であるスズ(Tin)、タンタル(Tantalum)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)の略称
*2各BU/グループ会社により異なる場合あり
活動・実績
インシデント*1の発生によって事業が中断し、社会に甚大な影響を及ぼすことのないよう、グループ全体で調達BCPの充実に取り組んでいます。
*1インシデント:大地震等の自然災害など、事業を中断させる事象
調達BCPの取り組みNote :日立では、調達先(いわゆるサプライヤー、ベンダー、プロバイダーなど)を「対等な立場で一緒にビジネスをつくり上げるパートナー」に位置づけており、「調達パートナー」と表現しています。