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The Reality of DX/GX Vol.4

GXの焦点 実践編 
ESG経営推進の鍵はデータの収集・可視化 
徹底した現場目線でサポートサービスを提供

2023年2月 日経 xTECH Special掲載

GXの象徴 戦略編 カーボンニュートラルは「茨の道」か? 実現へのロードマップと、成功モデルにかかる期待

ESG(環境・社会・ガバナンス)の取り組みは、企業にとって喫緊の課題だ。その内容を効果的かつ継続的に情報開示していくことが国内外で求められる。ESG経営は、企業の持続可能な成長そのものに影響を及ぼしつつある。対応が急務だが、これを確実に進めるには、ESGに関する情報を全社規模で一元管理できるデータ基盤が必要だ。しかし、ESGの情報は多種多様で範囲も広く、定型データの大量処理を得意としてきた従来のシステムの考え方では実現が難しい。ではどうすべきか。具体的なソリューションについて見ていこう。


日経BP総合研究所 フェロー
桔梗原 富夫

将来の収益や持続可能性を高めるためにESG経営の推進は必須です。ここで先行し、業界内のリーダーシップポジションを取れれば大きなリターンも期待できます。ただ、取り組みが正当に評価されるためには的確な情報開示が必要ですが、決して簡単ではありません。新しい組織体制や情報システムの整備が求められることもあります。日立製作所は「データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現して人々の幸せを支える」を2024中期経営計画で掲げ、ESG経営を強力に推し進め、高く評価されています。そのノウハウを基にしたソリューション提供に期待したいと思います。

ESGの情報基盤には、従来と異なるシステムが必要

上場企業を中心にESG経営に取り組む企業が増えている。環境(Environment)・社会(Society)・ガバナンス(Governance)の3つの要素を重視する経営方法である。具体的に推進していくうえで、管理しなければならない情報は多岐にわたる。

ESGを着実に推進するための組織的な仕組みとしては、「サステナビリティ推進体制」が必要になる。経営陣、事業部門、コーポレート部門の3つが連携し、全社方針に基づいて取り組みを確実に進めていくための体制である。

自社のステークホルダーが求める情報を各部門が理解し、適切に管理し、必要な情報をいつでも社外に開示できるようにしたい。


日立が取り組んでいるサステナビリティ推進体制と各組織のミッション

そこで日立は、サステナビリティ部門をはじめ関係部門で、業務上の課題を解決できるシステムを開発した。必要なのは、ESGに関するあらゆる活動進捗を全社規模でスピーディに把握し、情報を一元管理できるデータ基盤だ。これを使って活動の改善サイクルを回していく。

ここでデータ基盤に求められる機能や拡張性は、従来の業務管理システムと大きく異なる。サステナビリティに関するデータは非常に幅広く、かつ常に変化し続ける。これを管理する情報システムも、従来とは異なる考え方になるというわけだ。要件定義に無かったような機能やデータ仕様を後からでも柔軟に追加でき、対象範囲の広がりやステークホルダーの変化にも対応できなければならない。

主な相違点は3つある。第1のポイントは、「管理すべき開示項目が変化していくこと」だ。

情報システムは元来、定型データの処理が得意。しかし、投資家や消費者の関心事は市場環境に応じて常に変化する。例えば、欧州委員会のCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)が企業に求める情報開示項目は、3年ごとに改定される見通しがある。こうした変化に対応し、取り扱うデータを柔軟に変更できるデータ基盤が必要である。

第2のポイントは「開示項目の対象範囲が広いこと」である。

従来の情報システムが扱ってきた情報は、特定の業務や部門に関する定型データが多かった。しかしESG経営に関する情報は、温室効果ガスの排出量やリサイクル使用量、人権方針と労働安全衛生、コンプライアンスに関する情報など多岐にわたる。さらに、自社だけでなくグループ会社やサプライチェーンも対象になるため、組織が改編されるたびに、データの組み換えを行わなければならない。海外の拠点や子会社まで広げるとなると、多言語への対応も必要になる。

そして第3のポイントは、「ステークホルダーが多いこと」だ。

従来の業務システムは通常、特定の部門内だけで利用する。ところがESGの情報管理システムは、経営層、IR部門、サステナビリティに関係する部門など、どこからでも利用できなければならない。場合によっては、調達先が利用する場合もある。

日立は早くからESG経営に取り組んでおり、こうした差異に対応できるデータ基盤の開発に努力してきた。そこで立ち上げたのが「ESGマネジメントサポートサービス」である。

実証された機能を統合、年間約34%の工数削減も

自社内の取り組みを通じて様々な試行錯誤を繰り返した結果、日立はある結論に達した。データを登録するインターフェースとして最も有効なのは、多くの人が長年慣れ親しんでいるExcel®、ということだ。

同社には、データやシステム開発の専門家が多数在籍している。サステナブル経営の情報収集・管理システムを構築するにあたり、まずはデータの自動収集を意識した独自システムの開発をめざしたが、多くの課題に直面した。

従来型のシステムでは、度重なる組織変更に柔軟に対応できないうえ、システムを利用する幅広いユーザーのITリテラシーやグループ各社のセキュリティポリシーの違いに対応しづらい。既に使用されているExcel®なら、トレーニングなしに多くのユーザーが扱えるうえ、データの組み換えも容易で、セキュリティポリシーの影響も受けにくい。ユーザーインタフェースにはなじみのあるExcel®を使い、バックエンドにクラウドを中心とする新しいテクノロジーを活用することで、柔軟かつ実効性の高い仕組みを構築する。最終的にこの戦略が奏功した。


日立が開発した業務プロセス。既存のExcel®を活用し、誰もがミスなく容易にデータを定義・登録できるようにした

「ESGマネジメントサポートサービス」の販売に先駆けて、建設機械メーカー大手の日立建機において、ISO45001のリスクアセスメント業務を対象とし、実証が行われた。大型重機を扱う生産現場での切れ・こすれや巻き込まれ事故など、多種多様な評価結果のデータをExcel®で定義、登録し、BIツールでグラフ化した。

その結果、情報収集の効率化(年間約34%の工数削減)と、現場でのリスク対策や優良事例などの情報共有による業務の品質向上など、大きな効果が得られた。

日立建機人財本部 安全衛生部は「ESGマネジメントサポートサービス」のニュースリリースにおいてコメントを寄せている。そこでは本サービスを活用し、労働災害防止の観点からリスクアセスメントの効率化、質的向上を図り「いつでも、だれでも」リスクを認識でき、「安全最優先」の行動に生かせる仕組みづくりをさらに推進していくと述べている。

日立は、効果が実証された確かな機能や業務フローだけを統合して「ESGマネジメントサポートサービス」を構築した。2022年9月から、外部企業への提供を開始している。同サービスの最大の特徴は、ESGの情報全体を一元管理できることだ。

ESGというと得てして「Environment:環境」への対策が喧伝されがちだが、それだけでなく、「Society:社会」や「Governance:ガバナンス」の取り組みも同じ基盤で管理できる。

「現場で使えるサービス」を基点に社内連携と協創を加速

「ESGマネジメントサポートサービス」の全体像を見てみよう。「定義」「収集」「取りまとめ」「開示」の各ステージで、サステナビリティ関連部署とあらゆる部署を効率的につなげ、スムーズなデータ連携を可能にする。


ESGマネジメントサポートサービスの全体像

これを実現するためのクラウドシステム、各種ガイドラインを活用した収集項目の定義とデータ収集の仕組み、可視化するためのダッシュボードなどをワンストップで提供する。日立グループ内での実証により、既に多くの課題が解決済みだ。

旧来のITシステムの延長ではない「現場で使えるサービス」をめざす。導入企業はブラウザから本サービスにログインするだけで、基本的な環境と機能をすぐに利用できるため、新たな環境を構築したり準備したりする必要はない。サービスのリリース後、幅広い業界から問い合わせが相次いでいるという。

日立はいま、グループ全体に本サービスの浸透を図っている。グループ各社がこのシステムを実務で使用し、機能の追加や改善を行いながら、継続的な強化をめざす。さらに、日立は自グループで得られたノウハウを基に、企業のESG経営の推進を支援し、長期的な企業価値向上に貢献していくという。今後の展開から目が離せない。

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Excel は、マイクロソフト 企業グループの商標です。

The Reality of DX/GX Vol.4 GXの焦点 戦略編 ESG時代の到来 複雑化する「情報開示」を味方にできるか?

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本記事は日経 xTECH Specialに掲載されたものを転載したものです。
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所属・役職等はすべて取材日時点のものです。
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