ページの本文へ

Hitachi

The Reality of DX/GX Vol.1

DXの実相 実践編 
シリコンバレーのプロフェッショナルと共に 
日本の巨大企業が今、動き出す

2022年11月 日経 xTECH Special掲載

Vol.1 戦略編では日本企業のDXが後れをとっている理由と課題を明らかにし、経営トップに求められるマインドセットについて解説した。Vol.1 実践編では、それを克服しようとする企業の取り組みを紹介する。「改善」を得意としてきた日本企業の典型ともいえる日立製作所は、DXの本質が「既存ビジネスの改善」にとどまらず「新たなビジネスモデルの創出」であることを早期に理解し、1兆円規模の大型投資によってこれを成功に導くためのプロセスを構築した。その実像に迫る。


日経BP総合研究所 フェロー
桔梗原 富夫

日立製作所は1兆円規模の投資によって、全世界で2万8000人を超えるデジタルのプロフェッショナル人材を擁する米GlobalLogicを傘下に収め、DXを成功に導くプロセスを確立しました。日立の文化や組織風土を変革するとともに、「Lumada」事業を強化しています。進まない日本企業のDX実現へ、日立は具体的な解決策を提示しています。それができるのは、覚悟を持った経営トップらが明確なビジョンを示し、具体的な行動指針を打ち出して、自らを大きく変革してきたからです。日立はこの10年で最も変貌を遂げた日本企業の一社であることは間違いありません。

日本企業の“巨星”、動き始める

DXの目的は「(デジタルでしかできない)新規ビジネスの創出」と「既存ビジネスの付加価値向上」だ。米スタンフォード大学経営大学院教授のチャールズ・オライリー氏は「日本企業は、このような変革が苦手だ」と指摘する。今の日本企業には、経営層が現場のことをよく把握していないがために、めざす姿やアクションを具体化して「行動指針」を全社へ浸透できていないという現状がある。

こうした状況の中、本気でグローバル水準のDXに取り組む日本企業がある。それが、日立製作所だ。課題克服のために、DXを推進する基盤を社内で構築。経済産業省と東京証券取引所が選定するDX銘柄の中で、デジタル活用の優れた実績を示している企業として「DXグランプリ2021」に輝き、2022年も連続でDX銘柄に選定された。「DXが変革のエンジンになっている数少ない会社の一つ」「自社でDXを推進する実験場を有している」などの評価を得ている。

社内での成果を、顧客企業のDX支援にも生かす。実績を示した日立は、DXの「サプライヤー」としても、企業価値向上を支援、実現する仕組みを整え、リソースを劇的に強化している。そしてAIツール、メソドロジー、ユースケース、ソリューションを統合したDXを推進する「Lumada(ルマーダ)」事業に取り組んでいる。


日立が考えるお客さまのDX推進のステップ
日立では、企業や組織がDXを進めるには4つのステップがあると考えている

第1ステップは「デジタルエンジニアリング」だ。まずデータ分析やインタビュー調査によって課題を見つけ出し、可視化する。そこから解決方法を導き出し、迅速なモックアップやプロトタイピングによってその効果を事前に確認。これにより経営幹部のコミットメントを引き出し、DXを前進させる。

第2ステップは、「システムインテグレーション」だ。第1ステップで効果を確認したデジタルサービスを素早く実装。デジタルツインやクラウドによるITシステムを構築する。既存インフラのモダナイズやハイブリッドクラウドへのマイグレーション、データインフラ基盤の構築、ストレージソリューション、ソフトウエアなどの開発を行う。

第3のステップは「コネクテッドプロダクト」だ。その企業が持っているハードウエア製品やサービス、事業にデジタル技術を掛け合わせ、新たな価値を創造する。例えば日立なら鉄道、電力、産業機器などが対象となる。これらの事業に人工知能(AI)やビッグデータ解析などのデジタル技術を加え、新たな付加価値を生み出す。

第4ステップは「マネージドサービス」だ。サービス開始後の運用、管理、保守を効率化、高度化する。そこから得られたデータを活用し、新たな経営課題を見出す。こうしてプロセスは第1ステップへ戻り、再び価値の創造に挑む。この4象限のサイクルを、データを活用して回すのがLumadaだ。

Lumadaを活用した4つのステップの実践事例として「電力設備の安定稼働とコスト削減を実現した、アセットマネジメント革新」がある。デザイン思考による課題発見からプロトタイピングする「デジタルエンジニアリング」で設備コストの最適化を検討し、「デジタルツイン」で設備診断・管理システムを実装した。運用面では、「画像診断AI」で設備点検を遠隔化・自動化し、各資産のパフォーマンスと性能を管理する「Asset Performance Management」で、コンディションベースのサービス提供を行っている。またLumadaでは、アライアンスプログラムによる仲間づくりにも取り組む。他の企業や組織とのアライアンスやエコシステムにより、一企業ではできない課題解決も可能になる。

投資は1兆円、これは酔狂ではない

日立はLumadaの進化を加速するため、DXの世界的なリーディングカンパニーである米GlobalLogicを2021年に買収した。同社は世界に2万8000人を超えるエンジニアとデザイナーを抱え、16カ国に39拠点のエンジニアリングセンターと9拠点のデザインスタジオを有する。DXの出発点となる第1ステップの「デジタルエンジニアリング」は、まさにオライリー教授のいう「知の探索」だ。GlobalLogicを傘下に加えたことで、日本企業が持つ「弱点」をカバーしていく。

GlobalLogicの価値の源泉は、このデザインスタジオにある。クリエイティブな感性とノウハウが、このスタジオを起点に具体的なプロダクトや体験に落とし込まれていく。

「知の探索」は従来、“多産多死”による事業開発が主流だった。数を打ち、残った事業を選び抜く。日本の、特に大企業はその“失敗できない”文化のためにここで苦戦する。ならば、徹底的なデジタルによるシミュレーションを行い、「知の探索」の成功確率を上げるのはどうか。GlobalLogicには、それを支援できる体制が揃う。デザイン、エンジニアリング、データサイエンスの3つの強みを生かし、企業のDXを実効性の高いものにしている。過去5年間、年率20%を超えて成長中だ。

具体的には、まずエンドユーザーが求めるプロダクト・サービスの価値をモックアップやプロトタイピングでアジャイルに検証。これをユーザーニーズと顧客の課題を財務面、組織面、戦略面から分析し、実行可能なプランを作る。そこで「ユーザーニーズ」「ビジネスの成立性」「技術的フィージビリティ」の3つをすべて満たすスイートスポットを見つけ出し、イノベーションを起こす。こうした事業を「アドバイザリー」と呼んでいる。

次に、「デジタルエンジニアリング」では、革新的なデジタル製品やプラットフォームを創造し、より魅力的なユーザー体験がどこにあるのか、ひとつずつ検証しながら、実際に具現化するところまでをサポートする。デジタルエンジニアリングの強みは、利用者の声を聞き続けて、市場が求めている方向にサービスや事業を近づけていくことであり、そのカギは「スピード感」と「データ駆動による正確な舵取り」である。

例えばあるペット商品の小売り事業者は、ペットのヘルスケア事業への進出を希望していた。GlobalLogicはエンドユーザーに対して丹念な聞き込みや膨大なデータ分析を行い、獣医によるヘルスケアによってペットと飼い主のエンゲージメントを強化する新たなWebサービスをアジャイルに短期間で開発。同社の業績を27%程度向上させている。また、オンライン教育と出版のリーダー企業である英国Pearson社との協創では、デジタル時代の新たなビジネスモデルを構築。学習コンテンツの提供モデルを、学習過程をインタラクティブに管理できるラーニング・アズ・ア・サービスへと変革した。

GlobalLogicは、ハードウエア製品とデジタルを掛け合わせるプロダクトエンジニアリングも得意だ。日立は、ストレージ製品のサービス提供に向け、国内協創拠点「Lumada Innovation Hub Tokyo」とGlobalLogicの3つのデザインスタジオを接続し、ワークショップを実施。クラウド対応の強化に向けた活発な議論を行い、事業課題の抽出とその分析に基づくアクションとアーキテクチャを検討した。また鉄道車両やエレベーター、エスカレーター、電力設備、家電といったハードウエア事業のデジタル化の検討を進めている。


「デジタルエンジニアリング」のワークフロー

DXの根幹、それは協創にあり

日本企業のDXには、「新規デジタルビジネスの創出」や「収益に直結する既存ビジネスの付加価値向上」に目を向けられていないという課題がある。不可逆の変化に適応して生き残るためには、これらの施策はもはや避けられない。経営層がめざすビジョンとアクションを具体化して「行動指針」を全社へ浸透できていない点も課題だ。今は、これまで正しいとされてきた行動を変えなければならない場面。必然、経営トップによる目標と行動指針の設定・浸透が必要になる。

日立は長年、顧客との協創を掲げ、その手法を進化させてきたが、GlobalLogicが新たに加わったことで、より一層強化された。GlobalLogicが得意とするデザイン主導の「デジタルエンジニアリング」によって、課題の可視化、解決策の早期確認、さらに経営幹部のコミットメントが得られ、DXを前進させることができるのである。

これが、日立が提供するDX課題の具体的な解決策だ。

GlobalLogicという強力なプレイヤーが加わったLumadaは、日本企業のDXを一気に世界レベルへと引き上げていくだろう。だが、日立が続けてきたDX支援の主軸は今後も変わらない。それは「顧客企業との協創」だ。日立は2022年4月「GlobalLogic Japan」を設立し、顧客企業のDX支援に向けて体制を強化している。

顧客とともにイノベーションを起こす。その中心にあるのがLumadaだ。日立とGlobalLogicの能力を融合させた新しいDX支援サービスを提供していく。デザインする力とデジタルエンジニアリングを武器に、課題の発見からビジネスモデルの変革に至るDXの全領域を強力に支援する。

経営者のコミットがDXの実現には必須。めざす姿やアクションを具体化し、全社方針にDX事業を取り込むことは避けられない。経営者のマインドと共に、組織のメカニズムを大きく変革するための戦略が必要だ。人材のダイバーシティを意図的に高め、これまでなかった越境を生み出し、新たな価値を創造する仕掛けも導入すべき。DXは個社による取り組みの枠を超え、企業や組織の協創が生み出す新たな価値を模索する段階に入った。日立はその有力なパートナーとして、日立グループ全体のデジタル戦略を立案し、Lumada事業のけん引役として、2022年4月に日立デジタル社を発足し、グローバルにあらゆる業界の企業と協創していく。

DXで収益向上を達成し、世界との後れを取り戻す。そのために日立は、協創の強力なパートナーとなるだろう。

DXの実相 Vol.1 戦略編 日本企業のDX、本当に進まないのか?現状と課題、経営トップに求められる変革の覚悟

*
本記事は日経 xTECH Specialに掲載されたものを転載したものです。
*
所属・役職等はすべて取材日時点のものです。
*
記載の会社名、製品名などは、それぞれの会社の商標もしくは登録商標です。