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Hitachi

The Reality of DX/GX Vol.2

DXの展望 実践編 
社会インフラ課題にデジタル基盤で挑む 
日本の10年後を見据えエコシステムを構築

2022年12月 日経 xTECH Special掲載

社会インフラの老朽化は深刻な社会課題だ。このままでは10年後、打つ手がなくなるかもしれない。行政やインフラ事業者のリソースが限られる中、デジタルを駆使した効果的なインフラ保守や防災・減災への備えが急務となる。日立製作所はIoTシステムやドローンを使った現場監視の省力化を進め、多数のインフラ事業者がデータを共有できるエコシステム化を行い、果敢に課題解決に挑んでいる。


日経BP総合研究所 フェロー
桔梗原 富夫

日立製作所が持つ視野は広いと感じます。山積みする日本の社会インフラ課題を解決するには、業種・業界を跨いだ連携が不可欠であることを早くから喝破。実際の行動に移してきました。こうした事業展開を支えているのが「Lumada」です。日立は、お客さま・パートナーとともに新しい価値を生み出すための豊富な知見や様々なアプローチを用意しています。知恵を結集しアイデアも掛け合わせてイノベーションを創出する協創活動が進展していくことで、困難と見られた社会課題の解決に希望の光が差すことでしょう。

デジタル基盤でインフラ保守の生産性を向上

1950〜1970年代、高度経済成長期に整備された社会インフラの老朽化が大きな社会課題になっている。少子高齢化で労働人口が減少する中、デジタル技術を駆使した生産性の高いインフラ保守システムの確立や、防災・減災への取り組みが期待されている。行政は、そこに生かせる技術を持つ民間の協力を強く求めている。

こうした動きを積極的に支援している企業の1つが日立製作所だ。同社は「社会インフラ保守サービス」を提供。データを活用した社会インフラの保守モデルを構築している。限られたリソースの中で社会インフラ保守を最大限支援するためには、修繕や改修が必要なインフラの状態を正確に見極め、優先順位を付けて効率的に対処しなければならない。

同サービスは、老朽化したインフラの詳細な情報を収集することから始まる。現場に設置したIoTセンサーやレーダー調査、ドローン、映像カメラなどからデータを収集。これらを統合データベースで一元管理し、適切な解析によって老朽化や破損の状態を正確に見極める。この解析結果を行政や自治体、インフラ事業者などに提供し、保守作業の計画や実践に活用する。


社会インフラ保守プラットフォーム。日立が提供する「社会インフラ保守サービス」を実現する土台となる。
社会インフラに設置したIoTセンサーからデータを自動的に吸い上げ、統合データベースで一元管理する

この段階で期待される効果は主に3つ。第1は「常設監視による課題の早期発見」だ。IoTセンサーによって監視を自動化するとともに、常設監視による課題の早期発見を実現する。第2は「暗黙知の形式知化」だ。熟練者の経験とノウハウに頼っていた現場の診断に、人工知能(AI)による予測シミュレーションを導入。適切な判断を下せるようにする。第3は、「データを活用した保守保全業務の高度化と効率化」だ。統合されたデジタル基盤から必要な情報を素早く提供することで、適切な現場作業が可能になり、保守保全活動を全体的に高度化、効率化できる。

複数のインフラ事業者を横断し、業界全体のDXを加速

こうしたサービスを支える社会インフラ保守プラットフォームにおける最大の狙いは、インフラ事業者全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)にある。これにより、複数事業者にまたがる業務のDXを可能にするエコシステムを創出。人材やリソース不足を解決し、省力化とコスト低減につなげる。

また、同プラットフォームは大規模災害への備えとしても有効に機能する。これは内閣官房が進める「国土強靭化計画」の方針に合致するものだ。日本は災害大国と言われるが、ひと口に災害といっても幅広い。災害の種類によって、必要な対策は異なる。

例えば、「漏水」だ。災害が発生するとその影響で、老朽化した水道管の漏水発生件数が増える傾向にある。漏水は広域的かつ不特定の箇所で発生することが多く、これまでは全体の状況把握に多大な時間と労力を要していた。日立の「漏水検知サービス」は、超高感度振動センサーと独自のアルゴリズムにより、高精度な漏水検知を可能にしている。


漏水検知サービスの概要。次世代IoT通信によって漏水状況の常設、自動的な監視を可能にする
(※「監視プラットフォーム」の画面はイメージです)

水道管のハンドホールに設置した漏水検知センサーで、漏水点から発生する振動を計測/解析し、漏水の疑いの有無を判定する。判定結果は、IoT通信によって監視プラットフォームに送信されるので、漏水が発生すれば現場に行かずに漏水発生エリアを特定できる。人手に頼る従来の漏水調査では、3〜5年に1度しか現場の状況を把握できなかった。試算によれば、この新システムで作業効率は約16倍にまで向上する。

実はこの超高感度振動センサー、もともとは違う目的で開発されたもの。

漏水を調査する熟練技術者の減少に危機感を抱いていた水道事業者からの相談が発端となり、日立がこの振動センサーをもとに独自の実験施設での検証などを経て一から開発を進めたものだ。

この漏水検知サービスの実現により、漏水そのものを早期に発見するだけでなく、水道管の老朽化の状態を継続的かつ面的に把握することで、膨大なコストを必要とする管路更新の精緻化にもつなげていきたい考えだ。

また「地中可視化サービス」は地下埋設物の情報をデータで可視化するシステムだ。地質調査業界の最大手、応用地質と日立が共同開発した。


地中可視化サービスの概要。地下探索レーダーを用いて地中のデータを収集し、AI解析を経て地下埋設物の情報を可視化。
収集したデータは統合プラットフォームに蓄積し、ユーザーの求めに応じて提供する

従来、上下水道管やガス管などの地下埋設物の情報は、図面によって管理されてきた。複数のインフラ事業者がそれぞれの埋設物を個別に管理しているため、必要な情報を集めるのに手間と時間がかかる。また、図面上の位置と現場の状況が異なっている場合も多い。埋設管に関わる工事の遅延や事故の原因になるだけでなく、災害時の復旧作業にも影響を与えてきた。

地中可視化サービスは、地下探索レーダーとAIによって地下の状態を正確に可視化することで、こうした課題を解決する。2022年9月までに自治体や民間のガス会社、電力会社など全国28の事業体で技術実証を行い、既に同プラットフォームを活用した情報提供を始めている。今後は対象範囲を全国へ拡大するとともに、1区画単位でデータを購入できるようにするなど、サービスの拡充に努める。

この他にも日立は大規模災害発生時に災害現場の状況を迅速かつ正確に把握可能にする「ドローン活用による広域状況把握映像解析システム」や、降雨情報から河川や氾濫の状況をシミュレーションにより予測する「リアルタイム洪水シミュレータ(DioVISTA/Flood)」など幅広いソリューションを提供している。様々な災害状況を想定し、その一つひとつに対応する最適解を求めていく考えだ。

日立のプラットフォームを軸に、エコシステムを構築へ

以上のように日立は、社会インフラ保守プラットフォームによって老朽化対策や災害対策を含む公共サービス業務のDXを推進している。これにより、全国のインフラ事業者による工事や保守業務の生産性を大きく向上させようとしている。

同時に、異業種間のデータ連携とオープンなデータ活用を進める。多数のインフラ事業者をまたぐ大規模なDXを実現する、エコシステムを構築していく計画だ。日立のLumadaによって各社との協創がさらに容易となり、この計画は加速していく。Lumadaとは、様々な事業者との協創によって新たな価値を創出するための、日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーの総称だ。リアルとデジタル双方の領域でセキュアな保守を実現し、多数のインフラ事業者が持つ知見をLumadaで掛け合わせ、新たな価値や機能を迅速に創り出せる。


社会インフラ保守プラットフォームを軸に、複数の事業者にまたがる業務のDXを実現するエコシステムを構築する

社会インフラの老朽化と熟練作業者の減少という社会課題を、AIやIoTなどのデジタル技術で解決する。それが社会インフラ保守プラットフォームの試みだ。多数の現場から自動的に収集したデータを価値ある情報へ変換し、社会インフラの保守や災害対応に生かす。また、多数のインフラ事業者をまたぐ大規模なDXを実現していく。これを平時と災害時の両方の備えに活用し、「国土強靭化」に資するソリューションとして機能させる。それによって社会インフラ保守を高度化し、地域住民の安心と安全な暮らしに役立てていく。

少子高齢化やインフラの老朽化が進む日本の社会課題は、もはや個社のレベルでは解決できない広さと深さを有している。社会インフラ保守プラットフォームに参画することで、多数のインフラ事業者が生み出す膨大なデータを共有し、社会課題の解決に生かす。もちろんその成果は、参画した各社のビジネス強化という形で還元されていくだろう。

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本記事は日経 xTECH Specialに掲載されたものを転載したものです。
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所属・役職等はすべて取材日時点のものです。
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