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The Reality of DX/GX Vol.2

DXの展望 戦略編 
深刻な老朽化、人手不足、高まる災害リスク 
日本の社会インフラは限界なのか?

2022年12月 日経 xTECH Special掲載

日本は既に危機的状況であるかもしれない。複数のデータが指し示すのは、このままでは日本の社会インフラは、八方塞がりという事実だ。それでもまだ間に合う。今、企業には何ができるのか? 本記事ではまず日本が置かれた状況と、行政が進める取り組みおよびその課題について紹介する。


日経BP総合研究所 フェロー
桔梗原 富夫

国土交通省が提示するデータの数々は、日本が直面する厳しい状況を如実に表しています。老朽化と自然災害の多発、それに対して予算も人手も足りていない。当然国も自治体も、手をこまねいているわけではなく、様々な施策を打っています。しかし補助金にも人材育成にも限界があるなかで、社会インフラの維持発展において、民間企業の活力に対する期待が高まっています。

日本の社会インフラ、このままでは “土俵際” に

高度経済成長期にその多くが整備されてきた、日本の社会インフラ。オリンピックや万博による特需に沸き、東海道新幹線や東名高速道路などの開通もこの時期になされた。まさに日本が飛ぶ鳥を落とす勢いだった頃から半世紀以上の時間が流れた今、インフラは岐路に立っている。


道路、橋、水道など生活に関わる重要な社会インフラの老朽化が進む

上図では建設後50年以上経過するインフラが、既に相当な割合を占めていることが分かる。約10年後の2033年には、さらに深刻化。道路、河川管理施設、港湾障壁の3つで、50年以上経過の割合が過半数を超える。

老朽化だけではない。大規模災害への備えも喫緊の課題だ。2022年は3月に宮城県や福島県で震度6強を記録。7月には同じく宮城県や、埼玉県で局地的大雨となり「緊急安全確保」が発表された。地震や豪雨がもたらす社会インフラへの影響は切迫したものとなっている。

問題は山積みだ。それなのに、熟練作業員の人員不足と高齢化に歯止めがかからない。保守を行う技術者が減少し、作業が追い付かない大きな要因となっている。


インフラ保守に関わる熟練作業員の過半数が45歳以上。今後は定年退職でさらなる人員不足が予想される

建設業を例にとってみる。国土交通省が2019年に発表した統計では、大半の建設技能者が10年後には引退する一方、若年層の入職が進んでいない現状が明らかにされた。


このままでは将来の担い手を確保し、技術を継承する取り組みが10年以内に頓挫する危険もある
出典:国土交通省『未来につなぐインフラ政策』(第2部)

資材や原燃料などの価格高騰が追い打ちをかける。帝国データバンクの調査によると、2022年度上半期の建設業における「物価高倒産」は40件。運輸・通信業の37件、製造業(29件)や卸売業(24件)を上回り、全体の25%を占める。


建設業では原材料高騰の他にも、コロナ禍の影響や人手不足などによる倒産が後を絶たない
出典:帝国データバンク『「物価高倒産」動向調査(2022年度上半期)』

老朽化する社会インフラの整備、重なる災害対策のため、平時から人員を割いて対応しなければならないという現状で、人手不足が喫緊の課題だ。若手入職者の確保や育成、長時間労働の是正や建設技能者の処遇改善といったあらゆる手段を用いて、働き手を確保する必要がある。

しかし、少子化もとどまる気配のない日本においては、こうした取り組みだけでも限界がある。もっとドラスティックな変革が必要だ。

コスト抑制・課題解決へ、新技術が処方箋

社会課題解決の切り札として期待されているのがデジタル技術である。日本が立ち行かなくなる前に、デジタル活用によるインフラ保守や防災・減災への取り組みが急務といえる。

実際、国も自治体も既に動き出している。国土交通省が2012年に立ち上げた「社会資本メンテナンス戦略小委員会」は2022年9月までに30回の開催がなされ、次世代に向けた日本のインフラ戦略について議論を重ねてきた。

そこでも改めて課題に挙がるのは「技術の継承・育成」だ。一方ではコロナ禍以降の変化も取り沙汰される。出勤抑制などの制限下においても、インフラメンテナンスを適切に実施しなければならない。少人数対応を可能とする取り組みを、さらに加速させる必要性が新たに認識されたという。

国土交通省ではコスト抑制のため「予防保全」型のメンテナンスサイクル確立をめざす。「予防保全」とは、施設の機能や性能に不具合が発生するよりも前に、修繕などの対策を講じることだ。被害が生じてからの「事後保全」と比べ、トータルでのコストを減らすことが可能になる。

そして「予防保全」型への転換に加えて推進を提言しているのが、民間企業のノウハウを生かした新技術を導入することによる、点検業務の高度化・効率化だ。コスト縮減・平準化、業務効率化をもたらす民間活力の活用および新技術は、人材や財源が不足する自治体にとっては頼もしい処方箋となり得る、というわけだ。

日本の10年後に、求む企業の活力

しかし新技術の活用は全国の市町村にとっては未だ、選択肢の一つとしては挙がってきていない。新技術に関する情報収集や、その有用性に対する評価が難しいなど理由は様々である。社会資本メンテナンス戦略小委員会の下の「新技術導入促進ワーキンググループ」はこうした課題を検討し、自治体の新技術導入促進につなげるために設置された。

取り組みを通じて、民間活用・新技術導入の実例が出てきている。例えば秋田、島根、長崎の3地区では、クラウド上に維持管理データベースを整備。2019年には、橋梁の維持管理情報について3地区の市町村間で連携を試行するとともに、3地区の維持管理データベースとインフラ・データプラットフォームとの連携試行を実施した。類似事例の損傷状況を参照し、健全度判定といった維持管理業務に役立てている。


維持管理分野におけるデータの利活用に関する検討例
出典:国土交通省「インフラメンテナンスにおける取り組むべき項目と当面の進め方(案)説明資料」

国土交通省は、新技術の発信と導入促進、社会実装を目的として、産学官民が情報交換を行う「インフラメンテナンス国民会議」も開催している。ロボットやドローンなどを活用した点検の高度化・効率化事例など、様々な情報が紹介されてきた。自治体と民間企業の架け橋となり、課題解決を後押しする。


効率的なインフラメンテナンスの実施に向けた取り組み例
出典:国土交通省「インフラメンテナンスにおける取り組むべき項目と当面の進め方(案)説明資料」

社会インフラの抱える課題を解決するには、デジタルの力と企業の力が必要不可欠だ。それを国も認識している。何もしなければ、日本は土俵際に追い込まれてしまうことは、火を見るよりも明らかだ。国も自治体も動き始めた。ならば企業は今、何をなすべきか?

まさに今の課題に正面から向き合い、かつ具体的なソリューションを提示する日本企業がある。「Vol.2 実践編」では、その取り組みの詳細を深掘りする。

DXの実相 Vol.1 実践編 シリコンバレーのプロフェッショナルと共に日本の巨大企業が今、動き出す

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本記事は日経 xTECH Specialに掲載されたものを転載したものです。
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所属・役職等はすべて取材日時点のものです。
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