eコマースやテレワークなどの発達によって、人々は買い物や仕事のために移動しなくても、快適に生活できるようになってきています。
これまでの街づくりでは人やクルマが安全かつ効率的に移動できるよう、多くの道路や駅を作ることで環境を整えてきました。しかし今後は、人の移動が減少してモノの移動が増えることが予測されます。すると、道路には小型物流カートの専用レーンが敷かれ、街の中ではそれらに対して歩行者に注意を喚起する標識が目立つようになるかもしれません。
しかし、その光景は本当に住民にとってうれしいものでしょうか。効率性が重視された街で、住民は10年後、20年後の将来に希望を抱き、安心して住み続けることができるのでしょうか。
新しい街づくりをするために、まずは、駅前を人が主役のスペースに変えてみましょう。たとえば多くの駅前にあるロータリーという大きなスペースはどうでしょう。バスは小型化されて、歩く人の間を縫って安全に移動し、自由に人を乗り降りさせています。その周辺には、駅前には入れない自家用車やシェアカーのための乗降スポットも多数設けています。自動運転車であればクルマの乗り捨てもできるので、駐車場を探す必要はありません。これまで安全や効率のために通る場所を分けられてきた人とクルマが歩調を合わせ、混ざりあう駅前を作り出せば、人に街を楽しむ余裕が生まれます。
こうしてできた駅前の自由に歩ける広いスペースには、荷物を運んでくれるカートが整備されており、駅までの移動や買い物などに自由に使うことができます。
さらに、このカートは自動運転で、ときには荷物を自宅に届けてくれます。買い物のあとの食事、また出かける途中の買い物などにも荷物を気にしなくてすむことから、人々はさらに自由に街を行き交えるようになります。
また、店も行き交う人々との接点を増やせるかもしれません。たとえば酒屋の店主が、カートにある商品を見て相性のよいワインをお勧めするなど、住民と店との交流が生まれます。隣り合う酒屋と八百屋がお互いの商品をセットで売るなどすれば、店どうしもつながります。街の主役となった人が媒介となって街のさまざまな要素をつないでいきます。
このように、自由な移動を妨げるものを取り除くことに技術を使うことで、人が主役になり、多様な住民の活動が生まれるかもしれません。
これまでは、駅前の至るところに禁止事項を示した看板や張り紙があり、スペースを勝手に利用することは厳しく制限されていたかもしれません。しかしこれからは、住民であれば、簡単な手続きでその一角を利用することもできるようになります。
まだ店舗を持たない個人が可動式店舗を使って気軽に店を始めたり、複数のベンチャー企業が集いシェアオフィスを開設したりするなどさまざまなチャレンジが行われ、次第に駅前は移動以外を目的とする多くの人でにぎわうようになるでしょう。
駅前という住民の目に付きやすい場所で、地域につながりがある人が起こす変化は、住民に“この街にずっと住んでいける”という安心感をもたらすのではないでしょうか。