EverFlex from Hitachi
ハードウェア基盤 / 仮想化基盤
連載コラム2
ITインフラの構築と運用においては、オンプレミス(以下、オンプレ)とクラウドの2つの選択肢があります。本コラムでは、全5回にわたり、ITインフラの構築と運用におけるオンプレとクラウドの課題とその課題を解決する理想的な方法、そして具体的な解決策について解説します。第2回となる今回は「クラウドリフトとオンプレ回帰とは?その課題は何か」について整理します。
クラウドリフトとは、オンプレ環境で構築・運用しているさまざまな業務システム・社内システムをクラウド環境にそのまま移行することです。システム自体はそのまま変わらないのですが、システムの設置場所がオンプレからクラウドに変わります。そのため、クラウドのメリットである運用コストや人員活用の最適化などが実現できる可能性があります。
クラウドリフトに対して、クラウドシフトとは、さまざまな業務システム・社内システムを新しいシステムに置き換えて、オンプレからクラウドに移行することです。ITインフラがオンプレからクラウドに変わるだけでなく、システム自体も新しいものに置き換わります。
このように、クラウドシフトとクラウドリフトはクラウドへの移行方法に違いがあります。この結果、クラウドリフトは、まずは既存のシステムをクラウドへ移行することを優先して、コストを抑えながらクラウド活用の足がかりにできますが、クラウドシフトは、システム改修を前提に置いているため、利用者の要望に応じたシステム構築を実現できますが、開発や構築に多大なコストが必要となります。
クラウドリフトを推進する場合、「第1回コラム:ITインフラをクラウドやオンプレで構築・運用するときのメリット・デメリット」でご紹介したように、下記のような課題が立ちはだかります。その結果、思うようにクラウドリフトが進まないというケースが発生します。
セキュリティリスクの対策 | オンプレ環境で構築していたセキュリティ要求をクラウド環境で構築することが難しく、クラウドリフトができないことがあります。このようなセキュリティリスクに対しての対策には、一般的にコストと時間を要します。 | |
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オンプレでカスタマイズしていた要件をクラウドで実現させるための対応強化 | オンプレで運用しているカスタマイズしたシステムが、クラウドでも問題なく稼働するとは限りません。クラウドで正常に動作するための手当には、セキュリティと同様にコストと時間が必要になります。 | |
増大するコストの対応 | クラウドサーバーに精通した技術者の不足 | セキュリティやカスタマイズへの対応コストだけではなく、過剰なリソースへの投資や、膨大な通信量による課金など、きちんと設計をしないと予想以上にコストが膨れ上がるケースも発生します。さらに、クラウドの構築・運用に精通した技術者の確保や、入門者への教育も必要となります。 |
クラウドサーバーに精通した技術者の不足 |
システムを実際に利用するユーザーや、社内の業務部門の目線でみれば、クラウドリフトはシステムが変わらないためメリットも大きいですが、ITインフラの構築や運用担当者の目線で見れば、このような課題を解決しなければ、クラウドリフトは進められないのです。
オンプレ回帰とは、その名の通り、ITインフラの環境をクラウドからオンプレへ戻すことです。かつてオンプレからクラウドに移行したさまざまな業務システムや社内システムを、何らかの理由で再びオンプレへ戻すことです。
オンプレ回帰と同じ意味合いの言葉に脱クラウドがあります。クラウドをやめてオンプレに戻すことを脱クラウドといい、オンプレ回帰も脱クラウドも、オンプレに戻すという行為は同じですので同じ意味です。オンプレに戻すことをクラウドから見れば「脱クラウド」となり、オンプレから見れば「オンプレ回帰」となります。
それでは、そもそもオンプレ回帰はどうして発生するのでしょうか?以下のような理由があげられます。
1点目の要因は、セキュリティです。事業がスケールしてより堅ろうなセキュリティが求められることや、法規制などによって社内のセキュリティ基準を改める必要があるなど、これまでとは違ったレベルのセキュリティ対応が必要となることがあります。しかし、クラウドでは実効性が不足しているため、オンプレ回帰をせざるを得なくなります。
2点目の要因は、レスポンスの速さです。クラウド環境に移行した後、システムのレスポンスが遅くなったなどのクレームが、「システムを使う社内の従業員」や「エンドユーザー」から発生し、対応を強化しようとすると予想以上のコストがかかってしまうといったことがあります。総合的に見てオンプレの方がコストメリットがあってレスポンスも良いとなると、オンプレ回帰の検討のきっかけになります。このオンプレ回帰の理由は、視点を変えてみれば、クラウドリフトの課題にもなり得ます。オンプレの方がレスポンスが早いとなると、クラウドリフトが推進できないためです。
3点目の要因は、障害発生時の対応です。クラウドでは、年に数回程度、大規模な障害が発生しています。その際、クラウド事業者側で復旧に向けて対応を行いますが、障害の内容や規模によっては長時間のシステム停止が発生することもあります。また、オンプレとは異なり、利用者では障害原因や再発防止策の検討ができないので、そういった対応に満足できない企業はオンプレ回帰を検討し始めることになります。
4点目の要因は、技術者不足です。クラウド活用するにはクラウドに精通した技術者が必要になります。そして逆にオンプレ環境の技術者が不要になります。その結果、オンプレ環境に精通した技術者の配属替えやリスキリングが必要になります。リスキリングするにも時間やコストがかかりますし、新しく採用するにも、日本国内ではご承知の通り、IT人材不足です。そのため、技術者が慢性的に不足しがちになります。これにより、クラウド技術者の人材確保やリスキリングが十分に進まず、逆にオンプレ回帰へと意識が向けられることになります。
5点目は、想定上のコストです。クラウドにかかる固定費に加え、クラウドに精通した技術者の人件費、またビジネスやシステムの規模に応じて増大するデータ通信量など、コストが想定以上に膨らんでしまうケースがあります。中にはクラウド化してみないと想定できないようなコストもあり、想像以上に費用がかかり、オンプレ回帰につながっていくことがあります。
このように、オンプレ回帰の理由は、さまざまなケースが考えられますが、その大きな要因は企業によって異なります。
オンプレ回帰のトレンドは、クラウドシフトやクラウドリフトが加速すると、今後さらに増えて行く可能性があります。しかし、だからといってクラウドからオンプレに簡単に回帰できる訳ではありません。オンプレ回帰をするにも3つのハードル(障壁)があります。「第1回のコラム:ITインフラをクラウドやオンプレで構築・運用するときのメリット・デメリット」でもご紹介したように、オンプレには、「管理・運用する人材の不足」「管理・運用コストの負担」といった課題があり、そのオンプレの課題がそのままオンプレ回帰の障壁となります。さらに、オンプレ回帰をスモールスタートでできないことも大きな障壁となります。
これらの障壁について詳しく解説します。
まず最初は、担当者不在です。これにより、オンプレ環境の構築やシステム移行、そしてその後の運用ができません。担当者不在の理由は、(1)もとからIT人材が不足していること、(2)上述したように、「クラウドシフト・クラウドリフトによる配置換えやリスキリング」の2つが主な要因となります。
次に予算確保の問題です。オンプレ回帰の前提として、自社でハードウェアやソフトウェアの調達、システムの設計や構築を行う必要があります。しかし、クラウドで毎月固定費を支払っている中で、別途オンプレ環境の整備のために大規模な予算を確保するのはキャッシュフローを悪化させる要因となり得ます。クラウドのように従量料金がオンプレでもできれば話は変わりますが、この初期費用の負担がオンプレ回帰のハードルを一段階上げています。
最後はスモールスタートです。クラウドシフトやクラウドリフトでは、システムを少しずつ段階を踏んでクラウド移行できるためスモールスタートが可能ですが、自社でハードウェア一式の調達が必須となるオンプレ回帰というユースケースにおいては、スモールスタートを取ることはできません。
クラウドリフトとオンプレ回帰の課題をまとめると下記表のようになります。
クラウドリフトの課題 | セキュリティリスクの対策 オンプレでカスタマイズしていた要件をクラウドで実現させるための対応強化 増大するコストの対応 クラウドサーバーに精通した技術者の不足 レスポンスが遅くなる(オンプレの方が早い) |
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オンプレ回帰の課題 | オンプレのシステム担当者が不在で、十分な運用ができない 従量料金に対応していないため一括での予算確保が必要 スモールスタートしたいけどできない |
このように、クラウドリフトの課題とオンプレ回帰の理由、そしてオンプレ回帰の課題をまとめると、クラウドに行くも課題、そしてオンプレに戻るも課題と、まるで八方塞がりの状態になっていることがわかります。
このようなクラウドリフトとオンプレ回帰の課題は、ITインフラの構築・運用に下記のような悪影響を及ぼします。
クラウドに行くも課題、そしてオンプレに戻るも課題という中で、どのようにこの悪影響を回避すべきでしょうか?その理想論と具体的な解決策を第3回以降でご紹介いたします。