日立独自のサーバ仮想化機構「Virtage」がどのような研究・開発の過程を経て生まれたのか、中央研究所 對馬(つしま)とシステム開発研究所 関口に聞いた。
株式会社日立製作所
中央研究所
プラットフォームシステム研究部
主任研究員 對馬 雄次
“仮想化(Virtualization)を新しいステージ(Stage)に導く製品”として名づけられたVirtage。この日立独自の仮想化機構Virtage Version 3.0を搭載したBladeSymphony BS1000は日刊工業新聞社の2008年(第51回)「十大新製品賞」を受賞。まさにブランド名にふさわしい先進性を実証したといえる。
このVirtageの最大の特長「ハードウェアベース」という設計コンセプトは開発当初から研究者の頭にあった。中央研究所でVirtageのプロトタイプ製作に従事していた對馬は当時を振り返る。
「1990年代後半に旧OSの延命用途としてサーバーの仮想化ソフトウェアが市場に登場し、それに少し遅れてVirtageの研究がはじまります。当時考えていたのが、この『仮想化』の流れはやがてメインフレームのオープン化が進むとともに広がっていくだろう、ということ。つまり、当時ストレージの仮想化技術はすでに成熟し、業務に応じて容量を可変させていたのですが、いずれサーバーの仮想化もこれに呼応していくべきだ、と思いました」。
サーバーとストレージが調和して変化に対応する――「統合サービスプラットフォーム」という名前はまだ生まれていないが、そのコンセプトはすでに当時から存在したのである。
関口が後を続ける。「日立がつくる以上、他社にはない信頼性が必要です。そこで障害分離性にすぐれた『ハードウェアベース』というコンセプトが導かれました」。
ソフトウェアベースでは一部に障害が起きると全体に影響が出やすい。ハードウェアベースなら障害部分を確実に切り離すことができる。ミッションクリティカル業務で仮想化を安心してお使いいただくためには、必然のコンセプトだった。
株式会社日立製作所
システム開発研究所
第二部 主任研究員
関口 知紀
メインフレームではマルチコアCPUの仮想化は成熟技術であり、日立はその分野で誇るべき豊富なノウハウを持っている。Virtageの開発は、まずそのテクノロジーの継承からスタートした。しかしもちろん、メインフレームのノウハウだけでは限界がある。そこでVirtageはインテル社と協業体制をとり、研究開発を開始する。
「CPUと緊密に連携しなければ、信頼性を極めた仮想化は実現できません。そのために両社でひとつひとつの問題点をアーキテクチャーのコアな部分まで踏み込んで協議し、徹底的に整合性を高めました」と関口。
「インテルさんとの協業と日立のメインフレーム技術の融合なしではVirtageはその信頼性を実現できなかったでしょう」と對馬も口を揃える。もちろんCPUとの整合性の他にもハードルは次から次へと現れる。「特に出荷を目前に控えた時の耐久試験は熾烈を極めました。Virtageの障害分離性は確かなのか。本当に他の部分に影響は出ないのか。お客さま環境を想定して膨大なチェック項目をつぶしていくわけですが、それは人間の耐久試験の様相を呈しました」(笑)と對馬。
予定していた性能が出ない。その時、現実の現象から推定できるあらゆる原因を割り出し、ひとつひとつ検証し、理論の溝を埋めていく。「特に『時計の精度』には、注意を払いました」と関口は語る。
仮想化環境では、1個の物理的なコンピュータの中で複数の仮想的なコンピュータが動き、それぞれが連携して仕事をこなしていく。その時、時計のわずかな誤差でその仕事は止まってしまう。
関口は言う。「これからミッションクリティカルな基幹業務も、クラウドコンピューティングで運用する時代になります。そこでは、サーバーはもちろんストレージやネットワークも仮想環境で緻密に連携します。その時、『時計の精度』が象徴するようにディテールまで磨き上げた仮想化技術でなければ、対応できないでしょう」。
そしてVirtageはそんな世界をもう織り込んでいるのだ。そして最後に對馬が語る。「お客さまの環境は、さまざまなシステムとの連携でできています。今後は『サーバーの仮想化』という狭い範囲でなく、他社システムとも共存する、知的でエコロジカルな統合プラットフォーム環境が重要になっていくでしょう。Virtageがその進化を牽引できるようサポートしたいと思っています」。