2017年4月3日 公開
chapter 2
矢野和男(株式会社日立製作所 理事 研究開発グループ技師長)
矢野 人工知能では米国企業が進んでいるなどとよく言われますが、大きな人工知能の対象のなかでごく一部の話だけをしているにすぎません。アルゴリズムの一部、しかもある目的に特化した検索や、一部に向けたものであって、全体をバランス良く見ていません。
なぜかというと、人工知能が働くためにはまずデータが必要ですが、データは実際のさまざまな事業やビジネスや社会の活動と結びついていないとだめだからです。いま起きていること、この15年くらい起きてきたことは、ビジネスの中でもネットに入りやすいところ、たとえばEコマースや検索、あるいはウェブサイトでのさまざまなサービス提供だったりします。こういうところでは、ITの技術はかなり発展してきました。
ところが、いま"人工知能"ということで起きている話は、この15年くらい進んできたネットおよびネット+αの領域だけに使う人工知能のものではありません。どちらかというと、いままでそれから距離があった銀行や、鉄道、建設現場、病院といった、まさにリアルワールドのさまざまな問題かつ現場あるいは経営と、データやAIをどう結びつけていくかがメインの話なのです。そうなってきたとき、今までのそれぞれの会社とか産業がやっていた、本業の部分を仕切り直さなければいけない、という話になってきました。
日立製作所あるいは日立グループは、人工知能およびデータについても非常にしっかりしたバックグラウンドを持ち、かつITの事業も約2兆円くらいの非常に大きなビジネスを行っています。それだけでなく、そのまわりにトータルで10兆円にのぼる、エネルギー、ヘルスケア、鉄道、エレベーター、産業分野、製造業といった、まさに社会の至るところのビジネスや社会活動に関わる、さまざまなお客さまやパートナーと連携してビジネスを日々やっています。このような会社は、世界中におそらく日立しかありません。これらはすべてITあるいはAI、データ活用のフィールドです。これらなしに、コンピュータの中だけで一生懸命プログラムをつくっても、実社会からのデータが入ってこないので、活動範囲がすごく狭まります。社会全体をフィールドにして活躍するには、日立ほどいい会社はないと私は確信しています。
いろいろな会社のAIの紹介を見てもらえば、日立が群を抜いてリアルなユースケースを数多く出していることにすぐに気づくでしょう。これこそがまさに日立の構造です。さまざまなお客さま、さまざまなデータに日々アクセスし、一緒に仕事をする機会に恵まれているというこの状況が、我々が先行して具体的なさまざまな適用で先行する下地になっています。本当の意味でのAIの技術ーー頭でのなかだけで考えた、あるいは学会で言われただけのアルゴリズムではなく、本当に使えるアルゴリズムーーで先行するところが我々のアドバンテージになっていると私は考えています。
矢野和男(やの・かずお)
株式会社日立製作所 理事
研究開発グループ技師長
1984年日立製作所入社。1993年単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功。2004年からウエアラブル技術とビッグデータの収集・活用技術で世界を牽引。論文被引用件数は2,500件、特許出願350件を超える。「ハーバードビジネスレビュー」誌に、開発したウエアラブルセンサー「ビジネス顕微鏡(Business Microscope)」が「歴史に残るウエアラブルデバイス」として紹介される。人工知能からナノテクまで専門性の広さと深さで知られる。著書『データの見えざる手~ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(草思社刊)はBookvinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。工学博士。IEEE フェロー。東京工業大学連携教授。文部科学省情報科学技術委員。2007年MBE Erice Prize, 2012年Social Informatics国際会議最優秀論文など国際的賞を多数受賞。
(※ 2017年4月3日 当時)