製造業のDX推進を成功に導くには、設計業務において「フィジカル空間」の情報を「デジタル空間」へフィードバックする「EngineeringDX」が必要になる。このEngineeringDXに積極的に取り組む日立製作所が、同社の成果を広く活用できるようにクラウドサービスとして構築したのが「日立クラウド型設計業務支援サービス」だ。「従量課金型プライベートクラウドサービス」と組み合わせれば、さらに活用のレベルを向上できる。
企業と消費者それぞれを取り巻く環境が急速にデジタル化される中にあって、ビジネスで競争優位を発揮するためにデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが急務となっている。それは日本の中心的な産業である製造業においても例外ではない。とりわけ製造業におけるDXでは、まずは設計業務を中心とする上流工程に重きを置き、製品やモノづくりの価値向上につなげる「EngineeringDX」こそが、大きなカギを握ることになる。
EngineeringDXでポイントとなるのが、いかにフィジカル空間の情報をデジタル空間へフィードバックして、品質向上のサイクルを構築するかである。そしてそれには、従来の部署や拠点ごとに分散されてバラバラだったシステムをシームレスにつないで、統合的なデジタルワークプレースプラットフォームをクラウド上に実現することが求められることになる。
現在、このEngineeringDXに積極的に取り組んでいるのが、日本を代表する製造業の1社である日立製作所および同社を中心とした日立グループである。そして、そんな日立グループにおけるEngineeringDXの取り組みの成果を、どの企業でも活用できるようにクラウドサービスとして構築したのが「日立クラウド型設計業務支援サービス(Hitachi Digital Supply Chain/Design Service:DSC/DS)」だ。
日立製作所 産業・流通ビジネスユニット デジタルソリューション事業統括本部 エンタープライズソリューション事業部 産業システム本部 DXクラウドソリューション部 主任技師の田中良憲氏
2016年に外販を開始した日立クラウド型設計業務支援サービスは、大まかに「3次元仮想デスクトップサービス」「設計業務ナビゲーション」「気付き支援CADシステム」に分けられる。さらに、これらを日立独自の「従量課金型プライベートクラウドサービス」上で展開することによってEngineeringDXのレベルをさらに高めることが可能になる。
日立製作所 産業・流通ビジネスユニット デジタルソリューション事業統括本部 エンタープライズソリューション事業部 産業システム本部 DXクラウドソリューション部 主任技師の田中良憲氏は「かつて多くの製造業と同じ課題を抱え、それを解決することに成功した当社グループにおける知見をふんだんに盛り込むことで、製造業におけるEngineeringDXを強力に支援するサービス・ソリューション群に仕上がっていると自負しています」と語る。
日立クラウド型設計業務支援サービスのうち、3D CADやCAEといった高い処理性能を求められる設計開発用のITツールをクラウド経由で快適に利用できるようにするのが「3次元仮想デスクトップサービス」である。同サービスは、いわゆるDesktop as a Service(DaaS)の形態となっており、後述する設計業務ナビゲーションと連携することで、3Dデータや製品仕様書、プロジェクト進捗といった設計業務に関連するデータを、クラウド上で集約、一元管理し、画面上に表示することが可能となる。これにより、設計業務に必要な機能を網羅的にクラウド上で実現するのである。
日立製作所 DXクラウドソリューション部 技師の高島洋介氏
日立製作所 DXクラウドソリューション部 技師の高島洋介氏は「これまでの設計業務はローカルのワークステーション上で行い、成果物である設計データは別途の方法でやりとりするのが一般的でした。3次元仮想デスクトップサービスにより、設計データなどの機密管理やデータ交換から、設計プロセス管理、CAE自動化などに至るまで、統一された環境の下で、いつでも、どこでも、シームレスに設計作業を推進できるようになります」と説明する。
また、3次元仮想デスクトップサービスを利用することで、運用費用の削減や、情報漏えいリスク低減、いつでもどこからでもアクセスして3D CADツールの利用が可能、さらに各種設計開発用ITツールのライセンスを共有する場合には、作業端末の台数や設計環境を最適化できるなど、さまざまなメリットを享受できる。
日立グループは、コロナ禍以前から業務のリモート化に注力しており、3次元仮想デスクトップサービスも複数の部門で先行的に利用が進められている。例えば、日立でサーバやストレージ製品の設計開発を担っているITプロダクツ統括本部では、設計業務のために専用の部屋に設置して利用していた高性能ワークステーションを3次元仮想デスクトップサービスに置き換えることで、マシン稼働率を40%程度から70%以上に引き上げることができた。さらに、設計者や設計量の増減に応じてマシンリソースを調整するなどして、マシン利用コストを従来比で30〜40%低減することに成功したという。「3次元仮想デスクトップサービスの利用により、コロナ禍においてもリモートワークへと移行しやすいことから需要が増加しており、当社グループ内でもユーザー数は従来比で3倍にまで伸びています」(高島氏)。