2023年3月27日
本記事は、2022年10月25日から27日に開催された、Hitachi Social Innovation Forum 2022 JAPANでの、ATM Genova President, CEO Marco Beltrami氏と、日立レール CDO Ludmil Neykovによる協創セッション「モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS):次世代の移動サービス」を基にしています。
所属・役職等はすべて講演日時点のものです。
Ludmil Neykov
日立レール
Chief Digital Officer
交通分野におけるスマートモビリティとデジタルトランスフォーメーションを推進
私たち日立レールは、未来を形作る上で都市が重要な役割を果たすと信じています。世界のGDPの80%、人口の60%、CO2排出量の70%を都市が占めており、ソリューションの都市への実装が大きく影響します。しかし都市と公共交通機関はいくつかの大きな課題に直面しており、その最大の問題は交通渋滞です。渋滞によって年間で一人当たり約150時間、都市全体で数十億ドルもの損失が発生しているのです。また、都市は新型コロナウイルス感染拡大による収益悪化や、人びとの需要の大きな変化に苦慮しています。そして毎年130万人が交通事故で亡くなっているうえ、公衆衛生上好ましくない排気ガスも出しています。CO2排出による気候変動は、人と物の都市間の移動による結果で、深刻な問題となっています。
これらは日立レールにとって特に重要で、脱炭素戦略の重要な柱になっています。脱炭素化は、車や飛行機での移動から列車に切り替えるモーダルシフトによって実現できます。そのために、まずは公共交通機関を改善し、乗客全員にとってより便利なものにする必要があります。その一つとしてデジタル技術を活用し、既存のインフラやハードウェアを改善し利便性を向上します。
最終的に移動手段を選ぶのは乗客です。数億人の乗客が毎日、移動手段を自由に選んでいますが、その際に多くの人はCO2排出量を気にしません。交通は適切な価格で、便利にかつ時間通りに動くことが期待されています。実際のところ、乗客の行動を変える2つの主な要因は料金と便利さです。
日立レールのビジョンは、持続可能な公共交通機関で炭素排出量の削減と公害を防止することです。しかし乗客の行動や技術的な変化で、これを達成することは困難です。気候変動というグローバルな課題に取り組むには、複数の事業者が提供しているさまざまな移動手段やサービスと連携し、もっと便利で費用対効果の高い多様な公共交通機関を提供することで、移動手段の切り替えを促す必要があります。日立はこうした課題に応えるために、デジタル技術を活用し環境に配慮したソリューション、Lumada Intelligent Mobility Management Suiteを開発しました。この統合ソリューションは、スマートチケッティング、モビリティ管理、電動化モビリティの3つの主要機能で構成され、包括的かつ360度の視野を提供して、スマートモビリティを次のレベルに引き上げます。これらの機能をサポートするのが、日立レールが開発した分析レイヤーである360Motionプラットフォームです。これにより広範な360アプリケーションスイートからのデータを大規模に一元化し、交通網全体のデジタルツインを作成できます。
日立レールのデジタル戦略への取り組みや実践を示す一例が、イタリアのジェノバ市でのMaaS実証実験です。GoGoGeと呼ばれるこのプロジェクトは、AMT Genova(以降、AMT)との共同作業でした。
このプロジェクトは2022年5月に開始し、360Passと360Motionによってお客さまの価値を大幅に向上しました。360Passのスマートチケッティングを使用する主な利点は、各アカウントの料金を自動的に徴収するバックエンド処理です。これにより、ユーザーは単一のプラットフォームを、複数の移動手段(地下鉄、バス、エレベーター、駐車場、タクシー)へのアクセスに利用できるのです。最先端のBluetoothビーコンベースのBe-in/Be-outチケッティングも含まれており、ゲートなしのハンズフリーで乗り物を利用できます。
あらゆる交通ニーズに対応するスマートフォンアプリは、ユーザーが、旅行の計画、チケットの購入と確認、リアルタイムの乗客向け情報サービスにアクセスするためのインターフェースです。アプリケーション内での人とマシンのインタラクションは簡単に拡張できる設計になっており、同じアプリケーション内にサービスを追加または統合することができます。これによりユーザーエクスペリエンスを低下させず高いアジリティを確保できます。
さらに日立レールとAMTはジェノバ市全域のモビリティ向上のため、360Motionプラットフォームを市内のバスで利用する実証実験も開始しました。交通網全体での渋滞状況をリアルタイムに提供します。利用者は各バスの混雑度を確認でき、AMTは車両の混雑状況と車両の位置を常に把握できます。また、サービスの設定変更、乗客ニーズの正確な予測、車両パフォーマンスの最大化も図れます。360Motionの付加価値サービスとして、当日の時刻表管理、交通の最適化、車両管理、リアルタイムでの輸送計画なども用意しています。
Marco Beltrami
AMT Genova
President, CEO
ビジネストランスフォーメーションとサービス向上を推進
ジェノバ市の公共交通事業者であるAMTは公共交通機関が都市の未来を形成する上で重要な役割を果たしていると考えています。交通サービスがより良いほど、その都市は世界的にも競争力が高くなるでしょう。テクノロジーが交通サービスを大きく変えるのは間違いありません。カスタマイズ可能で信頼性と効果が高いサービスが可能になります。スマートシティにはスマートモビリティが必要です。AMTはスマートカンパニーをめざしています。GoGoGeだけでなく、AIや5G、サイバーセキュリティなどの最先端の技術を使っていくつかのプロジェクトを開発しています。MaaSソリューションはAMTのビジョンを支える重要な柱であり、Lumadaによる実証実験はまさにMaaSソリューションです。
日立レールとAMTは長年にわたり多くのプロジェクトで協力してきました。今回のプロジェクトでは、2022年に開始され何か月にもわたる概念実証に、ジェノバ市にも参加してもらいました。具体的には、5月9日から1,000人のボランティアでテストを開始し、6か月間ソリューションをテストしました。
何よりも市内の移動がしやすくなりました。すべてのサービスをワンストップで提供できることが人々の高い評価を得ています。ハンズフリー技術が特に喜ばれています。決済も簡単です。世界初のハンズフリーチケッティングシステムは、乗客にとっても驚きでした。アプリケーションを入手してログインしBluetoothにつなぐだけで準備完了です。チケットの確認もクレジットカードでのタッピング操作も不要です。そのままバスに乗り降りするだけです。その日の終わりに移動行程に応じて一番安い料金が適用されます。このアプリケーションは、交通状況に関するリアルタイムの情報も提供し、ユーザーが移動していた時間を追跡しました。これらの機能を組み合わせることで、この種のものとしては初めての革新的な移動体験が実現しました。
市民やお客さまだけでなく、私たちAMTにとっても多くのメリットをもたらしました。大変重要で豊富な情報も得ることができました。市内に設置された7,000個のビーコンによって、さまざまな交通システムでのユーザーの詳細な移動状況を詳細に追跡できます。バス、地下鉄、カーシェアリングなど何を使用したのか、乗客の乗降地を示すデータを得ることもできます。交通渋滞をリアルタイムに確認することもできます。この情報を基にサービス設計を改善し、市民のニーズに合わせてカスタマイズできます。将来的なビジョンとしては、10年以内に需要に応じたサービスを精力的に提供していきたいと考えています。
ジェノバ市にとってもメリットがあります。GoGoGeは非常に強力なMaaSプラットフォームなので、市が提供しているすべての交通サービスをGoGoGeに統合しました。これにより決済が非常に簡単になりました。GoGoGeではバス、カーシェアリング、バイクシェアリングの支払いができます。
ユーザーはスマートトラベルプランナーで最適な旅行ルートとオプションをタイムリーに選択ができます。市民の生活を交通の面から変化させています。このパイロットプロジェクトを通じてジェノバ市は、将来の意思決定に活用できる情報を入手することができました。
GoGoGeは期待を上回る内容でした。これほどまでに、革新的なことをたった数か月で始動できるとは思っていませんでした。本当に感謝しています。
MaaSはあらゆる場で議論されている包括的なトピックですが、講義やスライドでの説明がほとんどです。しかしGoGoGeは実際のプロジェクトでした。我々は情報収集において実際の成果を上げています。収集している情報は将来の開発に役立つ貴重なものです。このようなすばらしい機会を与えてくださった日立に改めて感謝します。
日立レールは、新型コロナウイルスの感染拡大からの復興、交通渋滞に伴うコストや二酸化炭素排出量の削減などといった、都市や交通事業者による取り組み、そして利用者を何よりも優先する取り組みを一貫して支援しています。日立レールはスマートモビリティを総合的に捉えているグローバルリーダーです。日立レールのIntelligent Mobility Management SuiteはLumadaで実現しており、日立エナジーやGlobalLogicなどの日立グループ企業とも連携しています。日立レールは成功のために全力を尽くし、日立グループとともに、お客さま、社会、環境への価値提供をめざしています。
AMTはジェノバ市の公共交通機関の運営事業者です。バス、トロリーバス、ケーブルカー、公共エレベーター、地下鉄、保存鉄道、ボートバス、ラック式鉄道の7種類の交通機関を運営しています。
AMTは1895年に、当初の会社名UITE(Unione Italiana Tram Elettrici)として設立され、現在は電気を活用し輸送事業をめざしており、2025年までに公共交通機関を完全に電化することが目標です。