日立製作所(取締役社長:庄山 悦彦)は、東京電力株式会社(以下、東京電力)より受託した福島第一原子力発電所1号機(以下、1F-1)の1991年および1992年の原子炉格納容器全体漏えい率試験に関して、日立関係者が不適切な行為に協力していたことが判明したことから、事実関係の調査を進めてまいりました。このたび、その最終調査報告がまとまりましたので、10月25日に発表した再発防止策の進捗状況とともにご報告します。
このような行為により、信頼性と安全性を最も重視しなければならない原子力の信頼を失墜させ、立地地域の住民をはじめ、社会の皆様に多大なるご心配をおかけしました。原子力という社会的影響の大きい事業にかかわるメーカーにとってあってはならないことであり、深く反省し、お詫び申し上げます。
当社は、役員および関係者の厳正な処分を行うとともに、全社をあげて再発防止に取り組み、当社ならびに原子力に対する信頼回復に全力を傾注してまいります。
記
1.1F-1 原子炉格納容器全体漏えい率試験調査結果 1-1.事実の経過について |
(1) |
当社は、東京電力から1F-1の定期点検に関する業務を継続的に請け負っており、これには第15回(1991年1月〜7月実施)、第16回(1992年1月〜8月実施)の原子炉格納容器全体漏えい率試験(官庁立会い検査の支援業務)も含まれております。 |
(2) |
2002年9月25日、一部の報道機関から、1F-1における第16回の原子炉格納容器全体漏えい率試験において不適切な行為が行われた可能性がある旨指摘を受け、社内調査を開始しました。 |
(3) |
2002年9月30日、 経済産業省原子力安全・保安院(以下、原子力安全・保安院)から、当社が請け負った福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所の原子炉格納容器全体漏えい率試験に関し、調査協力依頼がありました。 |
(4) |
2002年10月4日、原子力安全・保安院の調査協力依頼に対して、当社が請け負った1F-1の定期点検に関する資料・データを提出しました。 |
(5) |
2002年10月11日、原子力安全・保安院の調査協力依頼に対して、当社が請け負った福島第一原子力発電所4号機および福島第二原子力発電所の定期点検に関する資料・データを提出しました。 |
(6) |
2002年10月25日、原子力安全・保安院に対して、本件調査の中間報告を行うとともに、再発防止策を提出しました。 |
1-2.社内調査委員会の設置について
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2002年10月1日に、調査の中立性を確保するため、取締役副社長 川村 隆を委員長とする社長直属の「社内調査委員会」を設置しました。さらに調査の公明性を高めるため、関係者へのヒアリングなど実際の調査活動は社外弁護士(3名)を中心に社内の法務部門、コンプライアンス部門を加えた「調査専門委員会」を設け、独立して実施いたしました。
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1-3.調査の方法について
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(1) |
当社日立事業所(茨城県日立市)、当社福島総括事務所〔福島第一事務所(福島県双葉郡大熊町)〕、株式会社日立エンジニアリングサービス本社(茨城県日立市)および同社大沼工場(茨城県日立市)に保管されている1F-1の定期検査に関わる書類を調査しました。
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(2) |
当社が受託した東京電力の各サイトの定期点検に関し、のべ170人の聞き取り調査を実施しました。
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(3) |
上記に加えて、「調査専門委員会」により、問題が指摘された第15回、第16回の関係者を中心に、のべ73人の聞き取り調査を実施するとともに、1F-1の現地調査を行いました。
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(4) |
東京電力が設置した「社外調査団」に対して、日立関係者の聞き取り調査に協力しました。
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1-4.調査結果について
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本件に関する調査の結果、当社において最終的に認定するに至った事実関係の概要は以下の通りです。 |
(1)
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1F-1の第15回定期点検における原子炉格納容器全体漏えい率試験において、昇圧完了後の圧力低下が前回定期点検に比較して大きかったため、東京電力職員と当社の現場責任者が協議し、試験における漏えい率を低下させるため、原子炉格納容器内へ主蒸気隔離弁リークテストに用いられる計装用圧縮空気(以下、IA)を注入し、このIA注入により漏えい率を低下させ、官庁立会い試験に合格させていました。
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(2) |
1F-1の第16回定期検査における原子炉格納容器全体漏えい試験において、試験のための昇圧開始後、東京電力職員から当社の現場責任者に対して、ドライウェル内機器ドレンサンプポンプ出口隔離弁から窒素が配管内に漏れているので、当該配管のフランジ部に閉止板を設置する旨の指示がなされました。この指示に基づき、当社により閉止板が設置され、これにより漏えい率が低下しました。
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(3) |
上記閉止板設置により漏えい率は低下したものの、依然高い水準にとどまっていたため、官庁立会い試験前日の早朝から東京電力の社内試験開始までの間に、東京電力職員および当社試験関係者の関与のもと、漏えい率に影響を与えるような形で所内用圧縮空気(以下、SA)の注入が行われた事実が確認されました。その結果、上記閉止板設置およびSAの注入により、漏えい率を低下させた状態で最終的に官庁立会い試験に合格させていました。
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(4) |
第16回定期点検において漏えいが確認された上記隔離弁については、当社から東京電力へ提出した1F-1第16回定期点検報告書(PCV全体漏えい率試験)の中の要望事項欄において当社が分解点検を提案し、その後、1F-1の第17回定期点検において、当社に当該隔離弁の取替工事が発注され、実施されました。
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(5) |
第17回定期点検における原子炉格納容器全体漏えい率試験では、昇圧直後から圧力安定時までの間に、第15回、第16回定期点検時のような圧力低下は見られず、官庁の立会い試験においても基準を充足していることが確認されました。検査関係者からのヒアリング、関連文書に基づく限り、第17回以降、直近の第22回に至る定期点検については、不適切な行為がなされたと疑われる事実は発見されておりません。 |
(6) |
1F-1以外の東京電力全てのプラントにおいて、不適切な行為がなされたと疑われる事実は発見されておりません。 |
1-5.不適切な行為が行われた動機・背景等
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原子炉格納容器全体漏えい率試験は、官庁立会い検査を含む定期点検の最終段階での試験であり、原子力発電所の点検・補修に携わる者にとっては、スケジュール通りに当該試験を終了させ、原子力発電所の通常運転を再開させることが重大な関心事であり、当社およびグループ会社の当時の試験担当者もそのことについて強い責任を感じておりました。
ただ、そのようなスケジュールの中で、誤った顧客第一主義や日程通りの試験終了を追求するあまり、本来最も優先されるべき法令順守がおろそかにされてしまったことは事実であり、残念ながら当社のグループ会社を含め、コンプライアンス精神が組織全体にまで充分に徹底されていなかったものと判断せざるを得ません。
また、当該試験に関する業務の元請である当社と、実際に作業を行うグループ会社との連絡体制が必ずしも充分でなく、また、責任の所在が一部曖昧であったため、作業に関するチェック機能が充分に働かなかったものと考えております。
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2.再発防止への取り組み状況について
当社は、以下の再発防止策を講じ、全社をあげて再発防止に取り組み、当社ならびに原子力に対する信頼回復に全力を傾注してまいります。
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2-1.原子力事業におけるコア業務の一体化 |
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現在、当社とグループ会社の日立エンジニアリング株式会社(取締役社長:永田 一良/本社:茨城県日立市/以下、HEC)および株式会社日立エンジニアリングサービス(取締役社長:矢内 勝也/本社:茨城県日立市/以下、HESCO)に分散している原子力事業のうちエンジニアリング、品質管理、サービスなどの主要業務を当社に集約、一体化します。この組織再編により、責任の所在、作業に対するチェック機能を明確化し、原子力事業における業務プロセスの最適化を図ります。12月1日付で当社電力・電機グループ原子力事業部の組織改正を実施し、 HEC約280人、HESCO 約140人、計約420人の社員を当社に受け入れ、組織の一体化を図りました。詳細については、以下の通りです。 |
(1) |
エンジニアリング部門の一体化
当社とHECで分担して担当してきたプロジェクト管理業務および基本計画、許認可対応、設計計画・評価等の主要なエンジニアリング業務を、当社に集約し一体化します。
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(2) |
品質管理部門の一体化
当社、HEC、HESCOで分担して担当してきた検査・試験業務、ならびに当社とHECで担当してきた非破壊検査業務について、当社に集約し一体化します。
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(3) |
サービス部門の一体化
当社とHESCOで分担して担当してきた工事計画・指導業務、ならびに当社とHECで担当してきた放射線管理業務について、当社に集約し一体化します。
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2-2.「原子力品質・業務監査委員会」の設置 |
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原子力事業全般の監査を行う社長直轄の組織である「原子力品質・業務監査委員会」を11月16日付で設置しました。
原子力機器およびプラントに関わる適法性の監査、原子力プラントの品質向上を目的に、法律に準拠した品質向上に資する業務プロセスの審査・承認等を行います。
本委員会の委員長には、品質保証本部担当の佐藤一男専務取締役を任命しました。また、構成メンバーは、当社の品質保証本部、コンプライアンス本部、法務本部および監査室から選任し、原子力部門から完全に独立した組織になっています。
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2-3.原子力部門コンプライアンス(法令順守)通報制度の設置 |
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原子力メーカーとしての社会的責任に鑑み、グループ会社を含む日立グループの原子力部門の従業員を対象に、記名・匿名の法令違反・規則違反等、不適切な行為を通報する「コンプライアンス(法令順守)通報制度」を10月25日から導入しました。
本制度は、匿名による通報を認め、さらに申告者および情報提供者が、情報を提供したことで不利益な取り扱いを受けないことを保証することで、原子力事業における不適切な取り扱いや社会正義に反する行為を見つけ出し、組織内の不正を正そうとするものです。
日立グループの原子力部門の従業員約7,700人に対して、11月15日を一旦締切とした通報用紙を配布しました。12月11日現在、約4,000人(回答率約52%)から回答があり、その中で意見・質問を含めた通報と考えられるものは約30件ありました。今後、事実確認を行い、報告すべき案件が発生した場合には、速やかに電力会社および原子力安全・保安院へ報告する考えです。
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2-4.企業倫理の徹底
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原子力事業部では「コンプライアンス推進タスク」を11月15日付で発足させ、コンプライアンス基盤の強化および業務プロセス改善策の策定と徹底を実施しています。
なお、顧客との関係で発生しうる不適切な取り扱いなどを未然に防止するため、11月18日付で、原子力事業部内に「原子力事業部企業倫理相談窓口」を設置しました。また、「企業倫理」「法令順守」の再徹底を図るため、社内教育の実施計画を立案し、実行します。
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3.役員および関係者の処分
今回の不適切な行為は、信頼性と安全性を最も重視しなければならない原子力の信頼を失墜させ、立地地域の住民をはじめ、社会の皆様に多大なるご迷惑をおかけしました。当社は、本件の重大性に鑑み、下記の通り、役員および関係者に対する厳正な処分を行いました。
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<役員の処分内容> ([ ]は、第15回、第16回定期検査当時の役職) |
◆株式会社 日立製作所 |
取締役社長 |
庄山 悦彦 |
減俸 10%(2ヶ月) |
専務取締役 電力・電機グループ長&電力部門CEO |
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住川 雅晴 |
減俸 10%(2ヶ月) |
取締役副社長 |
川村 隆 |
減俸 30%(2ヶ月) |
[日立工場副工場長] |
常務 |
河原 あきら |
減俸 30%(2ヶ月) |
[日立工場原子力設計部長] |
◆株式会社日立エンジニアリングサービス |
取締役社長 |
矢内 勝也 |
減俸 10%(2ヶ月) |
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<関係者の処分内容>
・ 当社およびグループ会社の従業員5名に対して、懲戒処分を行いました。
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