自律分散システムは、一般産業向け情報制御システムに適用されてきた、
ミドルウェア製品群を支える日立のシステムコンセプトです。
各サブシステムが自律的に機能し、
部分的な故障・修復・追加が全体システムに波及しない、
柔軟で強いシステムを実現します。
日立の自律分散システムは、生物を範として生まれた画期的なシステムコンセプトとして1977年より開発が始まり、以来、鉄道や鉄鋼などの一般産業向け情報制御システムに適用されてきました。
1993年には、第一回の自律分散システム国際会議(ISADS)が日本で開催され、世界16カ国286人が参加し自律分散システムの可能性についての議論が交わされ、その後、継続して進められています。ISADSは、その後、米国(1995)、ドイツ(1997)、日本(1999)で開催され、以降、2年毎に開催されています。
自律分散システム国際会議(ISADS)開催
文部省の科学研究費重点領域研究の対象にも選ばれ、全国の大学研究者とともに日立も参加を要請され、研究を進めました。アメリカのカリフォルニア大学やアリゾナ州立大学との共同研究や、米国産業界とは米国次世代生産システムプロジェクトでの交流を行ってきました。また、自律分散システムをより多くの分野でお役立ていただけるように、その応用技術を磨き、国内外に300件に及ぶ特許を提案してまいりました。
1994年にEthernetベースのオープン自律分散システム(およびネットワーク)を製品化、1996年にネットワーク仕様を公開し、国内のFA標準化推進を図りました。この公開された仕様を用いて、MSTC((財)製造科学技術センター)/JOP(FAオープン推進協議会、現FAOP)にて、大学・ユーザー・ベンダーが参加して標準化および実証プロジェクトが進められました。JOP仕様として、Ethernetベース自律分散ネットワーク(ADS-net)の仕様が制定され、1999年にそのプロトコル仕様書(和文版・英文版共)がMSTC/JOP(現FAOP) のホームページより無償公開されました。この仕様に基づいて、世界中の誰もが自由にロイヤリティフリーで、ADS-netを開発・販売・使用できるようになりました。真の意味でオープンな分散型システム向けコミュニケーションプラットフォームとして、今後のますますの普及が期待されています。
さらに、国際標準化としては、ISOにて、ADS-netを含むEthernetベースの制御ネットワークのフレームワーク標準化提案がNWIP(New Work Item Proposal)として採択されました。その後、2003年には、ADS-netは国際標準(ISO 15745)となりました。さらに、2019年にはフィールドバスの国際規格(IEC 61158シリーズおよびIEC 61784シリーズ)にも採用されました。ADS-netは日本発の国際標準ネットワークとして、世界をリードしていくものと期待されています。
人々のニーズは、常に変化し続けています。製造業・サービス業においては、その世の中の流れに迅速に呼応した物やサービスの提供が求められています。即ち、従来からの少品種多量生産の形態から多品種変量生産へと移行してきています。
また、計算機やネットワーク技術の進歩と、それらのオープン化に伴い、パソコン・サーバー・シーケンサ・イーサネットなどの汎用機器によるシステム構築、即ちシステムのダウンサイジング化が多く行われるようになっています。
更に、システム開発の生産性や、使いやすさの面で、優れたユーザインタフェースを持つ市販流通ソフトの採用が増えてきています。
上記のような市場動向に伴い、システムには下記のような要件が求められています。
このように、まず最低限度の設備を投資し、経済状況、需要動向、顧客ニーズに応じて、短期間に設備を変更・拡張できるシステムが求められています。
日立の自律分散システムは、それらに柔軟に対応できるシステムを提供致します。
システムコンセプト
生体としての概念「生体は細胞というサブシステムから成り立つ1つのシステムである」
この概念から自律分散の思想はスタートしました。
生体における細胞とは、同じ構造・同じ情報を持つ最小単位のサブシステムです。それらを統合して制御する上位の要素は存在しません。
頭脳といえども細胞には命令できないのです。そして、それら独立した細胞が集まることにより、機関としての機能が生じているのです。
また、生体の成長や新陳代謝のプロセスを考えると、古くなった部分を取り替えるのではなく、壊れたからといって活動を止めて直すわけでもありません。サブシステムの集合体である生体では、「作りながら壊し」「壊れながら直す」という作業を常に続けているのです。
自律分散システムでは、生体の概念に基づき、トータルシステムの分割されたものとしてサブシステムを考えるのではなく、まずサブシステムが存在し、それらが統合された結果としてトータルシステムが成り立つという考えをシステムコンセプトとしています。
全サブシステムが正常な時は勿論、1部のサブシステムが故障した時や新たなサブシステムを追加する場合に置いても、システム全体の機能を損なわないこと。つまり、各サブシステムが自律的に稼働し、あるサブシステムが不稼働状態(停止・拡張・保守)になってもトータルシステムへは影響を与えないこと。こうしたシステムを実現するのが自律分散という新しいアーキテクチャなのです。
これらを実現するために、すべてのサブシステムはデータフィールドとだけ接続され、サブシステム間の直接のやりとりはありません。
サブシステムは、データの内容を表すTCD(トランザクションコード)を付加したメッセージを宛先指定をせずに、データフィールドに放出するだけです。
自律分散システムをC/Sと比較した、概念図を以下に示します。
C/Sは、今更言うまでもなく、PC(パソコン)・サーバーといったハードウェアの高性能化・低価格化、またはソフトウェアプラットフォームの標準化(オープンプラットフォーム)により普及してきたシステムアーキテクチャです。
C/Sでは、システム構築の柔軟性・拡張性が最大のメリットとされてきました。しかし、実際には各クライアントはネットワーク上のサーバーに管理されているため、クライアント増設時のサーバー設定変更やハード/ソフト不良によるサーバーダウン等の場合に、システム全体を停止せざるを得ませんでした。
自律分散システムは、こうしたC/Sのメリットを継承しながら、デメリットを排除したアーキテクチャです。
つまり、PCやサーバーさらにはシーケンサといったハードウェアをオープンプラットフォーム上で用いながら、各コンポーネントをサブシステムとして同時並列的に稼働させる。すべてのハードウェアはクライアント・サーバーの両機能を持ち、自律的にその機能を使い分ける。これにより、自律分散システムでは、一部のサブシステムが停止した場合でも他に影響を与えないシステムを構築可能としているのです。
拡張性
(Small Start System Architecture)
新しくシステムやプラントを作りたいが市場の動きが見えないため現段階で全体を計画できない。
保守性
(High Maintenance Ability System Architecture)
市場の変化に対応しつつシステムの変更コストをできるだけ抑えたい。
信頼性
(High Reliable System Architecture)
運用開始後も重要度と予算に応じて部分的に信頼度を向上させたい。
接続性
(Open Connection Architecture)
できるだけオープンな環境で最適な機器を使ってライトサイジングシステムを構築したい。
開発メリット
運用メリット
NX ACP
コントローラー上の自律分散ネットワーク
環境を提供するソフトウェア
S10V、S10mini、HIDIC -Hシリーズ
NX NetMonitor
生産技術部門などPC(OA機器)の多い
ネットワークを、不正なPCの接続から
守ります。
Windows搭載マシン、Linux搭載マシン
自律分散(NX Dlink)を導入される開発者の方々のために、以下のサポートを致します。
日立製作所では、主に次のサポート(有償)を行っております。
なお、ユーザを対象とした講習会(有償)につきましては、(株)日立ドキュメントソリューションズ 研修センタにて承っております。定期コースに加え、オーダーメイド研修や訪問研修などご要望に応じた研修をご用意いたしますので、お気軽にご用命ください。
自律分散システムは、さまざまな産業システムに適用可能であり、特に下記のようなシステムにおいて、大きな導入効果が期待できます。
日立製作所は、従来よりの自律分散を一層発展させ、オープンな環境で構築されるFAシステム向けの自律分散ソフトパッケージを開発し、FAシステムに適用しました。
このシステムは、最近のFA分野の流れであるカスタマドリブン型の生産方式を世界に先駆け実現したものです。長年培われた現物現場主義の思想をシステム化し、工場のBPR (Business Process Reengineering)を実現したものと言えます。
本システムは、まず工場にて部分稼働を開始し、その後各工場へ展開中です。
なお、工場では当面の設備能力向上50%アップのほかに、設計手法の変更やソフトの可視化による生産性の向上、自律分散ソフト自動生産ツールの利用などにより、遠隔タスク管理、リモートメンテナンスなどの開発・保守の費用削減も実現しています。
表彰年月 | 表彰団体 | 表彰名 |
---|---|---|
昭和63年12月 | 毎日新聞 | 毎日工業技術賞(第40回) |
平成2年5月 | 発明協会 | 全国発明表彰発明賞 |
平成4年8月 | 計測自動制御学会 | 計測自動制御学会技術賞 |
平成6年4月 | 科学技術庁 | 研究功績者表彰第20回科学技術庁長官賞 |
平成6年4月 | 新技術開発団体(市村財団) | 市村産業賞本賞 |
今日、製造業に代表される産業界は、社会・市場ニーズの急速な変化への対応が求められています。経済状況、需要変動、環境問題へ迅速に対応し、それに合せた生産設備やソフト・サービスの変更が必要であり、これらの神経系統となる制御システムについても、段階的構築、短期間での変更等、一層の柔軟性が求められています。また、昨今のダウンサイジング、オープン化の浸透は制御システムにも大きなインパクトを与え、システム構築にあたっての要求仕様は、より細密化・低価格化へと進んでいます。こうした状況を踏まえ、当社では1994年にEthernetベースのオープン自律分散システムおよびネットワークを開発しました。これは、従来の自律分散が備えているシステムの柔軟性、信頼性に加え、パソコンや汎用LAN等に対応した汎用性、オープン環境での接続性、分散開発環境の充実等の向上を図ったものです。
その後、日立製作所は、それまで当社独自のシステムアーキテクチャであった自律分散を、よりオープンな環境で幅広い分野へ適用を図るため、1996年に仕様公開(有償)を実施しました。また、同時にワークステーションやWindowsパソコンなど、各コンポーネントごとの自律分散ソフトウェアパッケージの販売も開始しました。こうしたオープン化への活動により、多数の制御機器メーカーやサーバーメーカー、流通ソフトウェアメーカーなどが、公開仕様に基づき対応製品を開発してきました。これらを活用することにより、最適な機器構成による一層使い勝手の良いシステム構築が可能となりました。
MSTC((財)製造科学技術センター)/JOP(FAオープン推進協議会、現FAOP)では、この公開された規格をベースに、大学・ユーザー・ベンダーが参加して、オープン化・標準化が進められました。 その結果、Ethernetベースのオープン自律分散ネットワーク(ADS-net)のインタフェース仕様が、JOP仕様として策定されました。MSTC/JOPでは、ADS-netを用いて実際にマルチベンダーシステムを構築し、その接続性や性能評価、そして、自律分散の持つ柔軟性等を実証しました。ここで標準化された新しい規格および実証システムは、各種展示会等で紹介され、注目を浴びました。その標準規格は、自律分散プロトコル仕様書(和文版・英文版共)として、MSTC/JOP (現FAOP) のホームページより1999年に無償公開されました。この仕様に基づいて、世界中の誰もが自由にロイヤリティフリーで、Ethernetベース自律分散ネットワーク(ADS-net)を開発・販売・使用できるようになりました。
今後、当社では、自律分散システム応用技術の更なる展開、MSTC/JOPでの標準化・機能強化の支援、オープン自律分散を活用した各種製品レパートリーの強化、自律分散を導入される開発者へのサポートなどを通して、エンドユーザー/システム開発者双方に対する利便性をより一層向上させるよう、ご支援させていただきます。
OA系でのネットワーク接続の標準化に比べ、遅れていると言われるFA系での情報制御の標準化が求められています。特に、最も接続が困難とされているシーケンサー接続の標準化への期待が大きいようです。一方、製造業や非製造業などのエンドユーザーの立場からは、先行き不透明な市場に迅速に対応するための段階的システム構築や、低価格パソコン・シーケンサーを用いた低価格システム構成、さらに使い慣れた市販のOAソフトを活用した利便性に優れたシステム開発などのニーズがあります。
オープン自律分散システム(およびADS-net)は、こうしたエンドユーザーニーズに対応するとともに、Ethernet・TCP/IPといったOA・FAを問わず業界標準となっているネットワーク上でマルチベンダー・マルチコンポーネントのシステム構築の実現により、システム開発者の負担も軽減します。特に、シーケンサーに対してもパソコンやワークステーションと同じ感覚で接続・制御が可能となりますので、アプリケーション開発者にとっては開発工数の大幅削減が期待できます。オープン自律分散システム(およびADS-net)の導入により、特別なハードウェアやOS、ネットワークを用いることなく、FA分野におけるユーザーニーズへのソリューションの提供が可能になります。
MSTC/JOPにおいて、日立が公開したオープン自律分散の規格が昨今のFAシステムのオープン化、ネットワーク化の要求に応えるものと評価され、1996年から1999年にかけて、標準規格の策定と、この自律分散の有効性を確認するプロジェクトが推進されました。その規格書は英訳されMSTC/JOPのホームページを通して世界に公開されました。さらに、国際標準化としては、ISOやOMGなど国際標準化団体への提案が行われ、標準化に向け活動推進中です。ISO関連では、ISO/TC184/SC5/WG5にて、ADS-netを含むEthernetベースの制御ネットワークのフレームワーク標準化提案がNWIP (New Work Item Proposal) として日本より提案され、国際投票の結果、標準化推進の方向で採択されました。その後、2003年には、ADS-netは国際標準(ISO15745)となりました。さらに、2019年にはフィールドバスの国際規格 (IEC 61158シリーズおよびIEC 61784シリーズ*)にも採用されました。ADS-netは日本発の国際標準ネットワークとして、世界をリードしていくものと期待されています。
また、日立はODVA (Open DeviceNet Vendor Association, Inc.)にファウンディングメンバーとして参加し、DeviceNetの普及活動および仕様の補強を行いました。ここでも、自律分散システム技術は、信頼性の向上・保守性の向上・拡張性の向上のために種々の仕様に採用されており、DeviceNetの適用範囲を広げることに寄与しています。
さらに、自律分散システムは、自律分散システム国際会議(ISADS)を始めとして、国際的標準化活動も推進しています。
オープン自律分散システム(およびADS-net)は既に世界中の多数のシステムで活用されており、今後も、自律分散システム技術を適用した機器の種類が国際的にさらに広がり、その結果として、FAシステムの構築がより一層容易になるものと期待されています。