HDSLの具体的なイメージはこうだ。両方のサービスを有機的に組み合わせて、「現場の見える化」「知識化・共有」「高度化(効率化)」で価値を提供する。第1段階として、輸配送の現場(トラック運行履歴や拠点・納品先、地図、荷物など)の実態を可視化して実績値を収集する。続く第2段階では、こうした実績値を「形式知」(誰にでも認識可能な客観的な知識・ノウハウ)化することで、配送状況をモニタリングする。さらに第3段階でそのデータを分析して数々の「パラメータ」を設定する。輸配送業務では「距離」「渋滞」「速度」「時間帯」などの条件を設定し、「この時間帯ならこの経路が最短だ」「ここは走行実績がない道路だから避ける」などの判断をしながら、第4段階として実効性の高い高精度な配送計画を自動で立案する。それを配車結果としてドライバーに出力して伝達する(第5段階)という流れだ。
▲HDSLの強みを説く後藤慧央氏
ロジスティクスイノベーション部の後藤慧央氏によると、この流れはいわゆるPDCAサイクル(品質管理などの業務管理における継続的な改善方法)なのだという。配車結果に基づいて配送した結果はトラック運行履歴として実績として収集され、サイクルが第1段階に戻る。「何度も回転することで、さまざまな条件下のデータが蓄積され、自動で生成される配車計画の精度がどんどん高まっていく」(後藤氏)のだ。
日立製作所が物流支援ビジネスの基幹サービスと位置付けるHDSLで、特筆すべきなのが、配送計画の立案から確定結果を出力して配車結果を自動連携する過程だ。「荷主から配送会社へ、つまり別の組織(系)への自動連携は、ソリューション構築のうえで障壁の高い部分だったが、そこを『ひとつのシステム』とすることで、シームレスに接続してハードルを乗り越えた」(平林氏)。せっかく計画を立案しても、その後の実行系に直接アクセスできなければ、まさに「絵に描いた餅」になってしまう。冒頭の事例のとおり、ここの連携が同時に進むことで、輸配送の一連のサイクルがスムーズに回転すると言うわけだ。
このサイクルがうまく回ることで、具体的に効果が期待できるのか。後藤氏によると、「まず車両の走行実績を考慮した移動時間の精度向上が実現できる」という。
過去の走行実績を統計処理しデータ化することで、到着時刻を予測できるのだ。日々集計される情報に基づいて統計交通情報が生成され、配車計画にフィードバックされる。そのサイクルが繰り返されることで、到着時刻のほぼ正確な予想が可能になる。そこまで移動時間の精度が高まるというわけだ。
次に、これを応用して配送先ごとの滞在時間を統計情報として蓄積し分析して配送計画を立案。複数店舗への配送のような複雑なスケジュールも正確に策定できるようになる。移動パターンのデータ化は、人間の頭脳でも正確に予測できない行程を、見事に「形式知」化してしまう。なんとも恐ろしいほどの解析力だ。
輸配送の高度化を力強く支援するHDSLは、プラットフォームゆえに汎用性が極めて高いのも特長だ。HDSLの提供開始後は、新型コロナウイルス感染拡大やそれに伴う「新しい生活様式」の広がりで、物流業界は人手不足と取り扱う荷物の少量多品種化、さらにECサービス普及拡大による物量増など、まさに激変の最中にある。結果として、物流現場の効率化が待ったなしの課題となり、その解決法として物流DX化が叫ばれている。汎用性が高く高精度な日立製作所の輸配送ソリューションは、こうしたDX化を待望する社会に非常に親和性が高いと言えるだろう。
そんな状況下で、日立製作所が物流支援ビジネスの新たなパラメータとして着目しているのが「環境」だ。輸配送の効率化という実務面に注力していた日立製作所の物流支援ビジネスだが、環境対応を推進する機運の高まりを顧客ニーズと捉えて、HDSLにもその要素を反映させようとしている。同社の平林氏は「CO2が発生しにくい配送経路を示せる配送計画の立案など、環境要素をパラメータに加えることができるのも、HDSLの強みだ」と自信をのぞかせる。
社会の動きを敏感に察知してシステムに反映させながら、物流現場の課題に切り込む日立製作所の取り組み。総合電機メーカーならではの細部にこだわったシステム策定力と、それを実行できる技術力。あらゆる現場の実情に合わせた仕様にカスタマイズできる提案力。これら全てを結集し、さらに日立製作所の物流支援ビジネスは進化を遂げていく。
制作:LOGISTICS TODAY株式会社/掲載日:2021年10月26日