ある夏の夕方。北関東にある加工食品会社の営業所で、女性担当者が30台の配送車両を手配していた。夕方はスーパーやコンビニエンスストアで食品がよく売れる時間帯で、少し遅れただけでも店舗から苦情が入る。「急いで配送の手配をしなければ」。女性はスマートフォンを取り出すと、過去に蓄積された実績などから自動的に生成された配車計画に基づく最適ルートの確定結果を出力する操作を始めた。わずか数分で完了すると、ホッと一息ついた。時計は17時30分をさしている。「今日もこれで間に合った」
ちょうど同時刻。営業所から10キロ離れた配送会社のセンターでは、今から配達する食品をトラックに詰め込む作業がほぼ完了。30台のトラックが出発を待つ。まだ日差しは強い。その時、ドライバーたちのスマートフォンが一斉に鳴った。画面には、今からの配送順リストが掲載されている。ドラッグストアからコンビニ、スーパー、コンビニと定時に回って戻ってくるルートだ。ドライバーは、各自の配送ルートを確認すると、次々とセンターを出発していった。
食品会社から配送会社へのデータ自動連携。こうした配車計画の自動生成を含めた配送最適化サービスが、物流現場における業務効率化に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)化の先進事例の一つとして、総合電機メーカーの日立製作所が開発した「Hitachi Digital Solution for Logistics」(日立デジタルソリューション・フォー・ロジスティクス、HDSL)なのだ。
ITやエネルギー、モビリティなどの製品・システム群で広く知られる日立製作所だが、安全・運行・動態管理の物流支援ビジネスへの本格参入は2008年と、意外に最近のことだ。産業向けソリューションを手がけるインダストリーセグメントの一角を占める物流支援ビジネスは、幅広い事業領域で蓄積されたシステム開発力を元手に、わずか13年間で物流DX領域における存在感を着実に高めている。その象徴が、2019年4月に提供を始めたHDSLだ。
HDSLの内容について語る前に、話は1998年にさかのぼる。産業向けの業務支援ビジネスの一環として、日立製作所が得意とするセンサーによるデータ収集や分析、可視化による課題解決を促す「安全・運行・動態管理システム」(テレマティクス)事業がスタートした。この事業はルート探索向け交通情報の提供サービスなどを端緒とする取り組みで始まったが、2008年の配送車両向け動態管理端末の開発を契機として、物流支援ビジネスへの本格参入が明確化した形となる。
2010年代に入ると、業務用ナビ端末やクラウド型経路探索など、物流現場の業務効率化を意識したサービスが具体化してくる。そのころと言えば、社会に宅配サービスが普及し始めた時期に当てはまる。近い将来のEC(電子商取引)の隆盛を予感しているかのような、物流支援サービスの拡大ぶりだ。この時期の日立製作所の物流支援サービスの方向性は、動態管理を中心としたいわゆるラストワンマイル輸送に焦点を当てている。
東日本大震災をはじめ、多くの災害が列島を襲った2010年代は、物流が社会に不可欠な「インフラ」として認識され始めた、まさにターニングポイントとなった年代でもある。テレマティクスで実績を積み上げ始めていた日立製作所は、新たな新サービスに動き出す。配送計画サービスを主軸としたサプライチェーン全体の支援ビジネスに領域を広げ始めたのだ。
▲HDSL誕生の意義を語る平林重幸氏
物流サービスをフルラインで支えるソリューション展開に舵を切った日立製作所は、両方のサービスを集約し連携させることで、本格的な物流フルライン高度化支援サービスの確立を推進する方針を明確にした。それがHDSLの誕生だった。
「動態管理と配送計画のサービスを連携させることで、輸配送の効率化・高度化を推進するサービスが整った」
日立製作所 産業・流通ビジネスユニット エンタープライズソリューション事業部 ロジスティクスイノベーション部 主任技師の平林重幸氏は、HDSL誕生の意義についてこう語る。