ページの本文へ

Hitachi

コラム・インタビュー

課題の抽出は、自分たちの弱点を知ることから

まず「課題の抽出」ですが、これは取り組みの方向を決める大切なフェーズですね。

長瀬

はい。まず念頭に置いていただきたいのが、取り組みの本質は、QCD*1、E*2、S*3といった重要なKPIを課題解決によって向上させることであり、IoTはそのための手段の一つに過ぎないということです。IoT化を進める際に陥りがちなのが、「現場の見える化」が目的化してしまい、課題の抽出をおろそかにしたまま取り組みが進んでしまうパターンです。そのままシステム構築まで走ってしまうと、改善に結びつかない「見える化のための見える化システム」が生まれてしまいます。この最初の「課題の抽出」が、取り組みの成否を決める最も重要なフェーズだと言っていいと思います。

*1
QCD:Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(工期)
*2
E:Environment(環境)
*3
S:Safety(安全)

とは言えお客さまからは、現場を見渡すと課題はあちこちにあり、どのように整理すればいいのか分からないという声も聞きます。

長瀬

私たちの場合は、まず自分たちの弱点を見つけることからはじめました。世界トップクラスの同業者と比べて自分たちは何が劣っているのかを調査し、今回のプロジェクトではその一つである「在庫」を重要な指標と捉え、在庫の圧縮をめざして管理部門および現場が改善すべきポイントを洗い出しました。例えば組み立て作業を止めてしまう部品切れはないか、各工程のリードタイムに無駄はないか、工程間の仕掛り在庫は正常か、試験工程はもっと短縮できないか、リペアに時間をかけすぎていないか、など生産現場のすべてを見渡し、課題を抽出していきました。

インタビューの様子

PoCを推進するのは、データ活用と現場の知見

課題の抽出がすんだらPoCへ進むわけですが、このフェーズでよく聞くお客さまの悩みが、PoCで成果が出ない、というものです。

長瀬

まさに私たちも直面しました。品質試験のリードタイム短縮に取り組んだ際、さまざまなデータをAIで分析するのですが、最初は短縮できるという結論には結び付かなかったのです。そこで再度AIの有識者と現場の方々たちでブレインストーミングを行いました。そして、短縮したい工程のリードタイムには他の工程が関連している可能性があると仮定し、データを採取する工程を大幅に広げたのです。AIならばデータ量を増やすほど、仮説の幅は広がります。その結果、関連する工程全体を最適化することで、試験リードタイムを約30%低減することに成功しました。

データを最大限に活用することで、突破口が開いたのですね。

長瀬

はい。「PoCで成果が出ない」ということは、基本的に「PoCの内容が課題に有効ではない」ということであり、採取するデータの種類など実施内容を関係者とよく協議、検証することが重要になります。その時に、閉じられたメンバーで考えるより、生産ライン、設計、品質保証などさまざまな現場の業務視点から生まれたアイデアの方が確かだと実感しています。現場の知見はとても重要です。

冒頭でも「現場主体」という取り組み方の大切さについてお話がありました。しかし現場の意欲がなかなか上がらないという悩みを持つお客さまもいらっしゃるようですが。

長瀬

私たちは、現場の方々が、緊急対応が減ったり、品質が向上したり、取り組みの価値を実感できるよう考慮しています。例えば、取り組みの成果を現場のみんなが確認できる見える化の環境づくりです。成果が出るまでは苦しいのですが、努力の結果が明確に見える化できると、あれもできるかも、これも可能性がある、と活動はより活発化しますし、さらにまた結果が出ると、じゃあ次はこれを、とその積み重ねで私たちの取り組みは加速していきました。

また、現場の方々が自分たちの手で成果を出した、という手応えも大切です。そのために私たちは、現場の方々と議論をして出て来たアイデアは、基本的には「やってみる」方向で検討します。そもそも「改善」という活動は、なにが正解かやってみないと分からない部分がかなりあります。そのうえで、目標や目的から外れていないかを検証して実行する施策を絞り込んでいきました。

格好のいいことを言っていますが、実際にはいろいろな壁に直面し、試行錯誤しながら改革・改善を継続し、成果に結びつける活動をしてきました。これからもそれは変わりません。

現場の皆さんが画面を見ている様子

現場の「改善マインド」を育てることも、プロジェクトマネージャーの重要な仕事なのですね。

ページの先頭へ