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環境

自然共生社会の実現

自然共生社会の実現に向けて

考え方・方針

私たちの社会生活や経済活動は、自然がもたらす多くの恵み(生態系サービス)によって成り立っています。一方で、この生物多様性の喪失が大きな経済上のリスクとして認識され始めています。世界経済フォーラムが2020年に公表した「Nature Risk Rising」では、世界のGDP半分以上に相当する約44兆ドルの経済価値の創出が自然資本と生態系サービスに依存しており、生物多様性の破壊による損失のリスクにさらされていると指摘しています。
こうした中、2022年12月にカナダ・モントリオールで開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」では、2030年までに「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる」ことを掲げ、23個のグローバルターゲットが設定されました。企業にかかわるものとしては、ターゲット3の「陸と海のそれぞれ少なくとも30%を保護地域及びOECM*1により保全すること(30by30目標)」、ターゲット15の「事業者が、特に大企業や金融機関等は確実に、生物多様性に係るリスク、生物多様性への依存や影響を評価・開示し、持続可能な消費のために必要な情報を提供するための措置を講じること」などがあります。
また、ESG投融資などへの関心の高まりを背景に、民間主導で生物多様性に関する情報開示を求める動きも活発になっています。「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」では、資金の流れをネイチャーポジティブに移行させるという観点で、自然関連リスクに関する情報開示フレームワークを構築し、企業や金融機関に自然資本および生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価・開示することを求めています。
日立は自然共生社会の実現に向けて、このような世界的な動向も踏まえ、事業活動全体による生物多様性への依存と影響、ならびに生物多様性に関するリスク評価と開示に向けた取り組みも進めています。

*1OECM: 保護地域以外で生物多様性保全に資する地域。Other Effective area-based Conservation Measuresの頭文字をとったもの

自然資本へのインパクト最小化に向けた取り組み

活動・実績

マテリアリティ

生態系が適切に保たれ、自然の恵みを将来にわたって享受できる自然共生社会を実現するため、日立は「環境長期目標」に自然資本へのインパクトの最小化という目標を設定しました。
自社の事業活動に関して、温室効果ガスや化学物質の大気への排出や廃棄物の発生などを「負のインパクト」、生態系の保全に貢献する自社の製品・サービスの提供や、生物多様性や生態系の保護活動などを「正のインパクト」として分類、数値化し、2050年までに正負のインパクトの差を最小化するための取り組みを促進しています。
自然資本への「負のインパクト」を低減していくための活動としては、まず、自然資本に関する環境影響評価を実施しました。評価手法としては、事業活動に伴う負のインパクトを特定し、日本版被害算定影響評価手法(LIME2)と日本の主要なインベントリデータベース(IDEAv2 *1)を採用しています。 その結果2023年度は、負のインパクトのうち気候変動が約45%を占めました。この負のインパクトの低減のために、気候変動については脱炭素社会に向けての取り組みを促進しました。また、都市域大気汚染、資源消費については、影響評価に調達原材料のインパクト評価が現れてきている現状を考慮して、高度循環社会の実現を視野に入れた取り組みを加速させていきます。加えて、自然資本への負のインパクトを最小化するために、これまで推進してきた製品・サービスの省エネルギー性向上、ファクトリーにおける効率化、資源の有効活用、化学物質の管理といった環境負荷を低減するさまざまな活動を継続して強化していきます。
また、「正のインパクト」を拡大する活動には、森林保全などの社会貢献活動や、水処理プラント構築のような生態系保全に直接貢献する事業活動があります。これらの活動を推進しつつ、自然へのインパクトの数値化について検討を進めています。
なお、日立の森林保全活動については、林野公共事業などで用いられている評価手法で、森林保全活動によって得られる便益(洪水防止、流域貯水、水質浄化、土砂流出防止、炭素固定など)を継続的に評価しています。また、森林保全活動の評価に必要な保全活動対象森林面積データも収集しており、2023年度に調査した森林保全活動対象面積は0.93m2でした。

*1IDEAv2:負のインパクト算定のためのLCAを実施する上で必要な、日本の主要なインベントリデータベースの一つ

「負のインパクト」算定範囲

インパクト最小化の概略図

図:インパクト最小化の概略図

自然資本への負のインパクト(2023年度)

グラフ:自然資本への負のインパクト(2023年度)

Note:IDEAv2を用いてLIME2日本版被害算定影響評価手法により算出

自然資本への負のインパクトの推移

グラフ:自然資本への負のインパクトの推移

*12022年度は、素材系および建設機械系会社の非連結化に伴い大幅に減少しています

*22023年度は、2020年度から連結対象となったエネルギー系会社を含めたため、増加しています

Business for Natureの「行動喚起(Call to Action)」への賛同

2020年にBusiness for Natureは、世界の政策決定者に対して「これからの10年間で自然の損失を逆転させる」ための政策を採用するよう働きかける「行動喚起(Call to Action)*1」を行いました。日立製作所はこれに賛同、署名しています。

*1行動喚起(Call to Action):健全な社会や回復力のある経済、繁栄するビジネスは自然に依存しているとした上で、各国の政府に対し自然の損失を逆転させるための政策を採用するよう求め、自然資源を保護し、回復させ、持続可能な形で利用することの呼びかけ

Business for Nature′s Call to Action

環境省・生物多様性のための30by30アライアンスへの賛同

ロゴ:生物多様性のための30by30アライアンス

30by30とは、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)というゴールに向け、2030年までに自国の陸域・海域の少なくとも30%を保全・保護しようとする目標です。
2021年G7サミットにて合意された30by30目標の日本国内での達成に向けて、行政、企業、NPOなどの有志連合「生物多様性のための30by30アライアンス」が発足しました。国立公園などの拡充、里地里山や企業林などのようにさまざまな団体によって生物多様性の保全が図られている土地の国際データベースへの登録とその保全促進、それら取り組みの積極的な発信が発足の目的です。
日立製作所は活動の趣旨に賛同し、自らも取り組みを進めています。

30by30アライアンス

環境省・自然共生サイトに認定

自然共生サイトとは、ネイチャーポジティブの実現に向けた取り組みの一つとして、環境省では、企業の森や里地里山、都市の緑地など民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区間を自然共生サイトとして認定する取り組みを2023年度から開始しました。認定区域は、保護地域との重複を除き、OECM(Other Effective area-based Conservation Measures:保護地域以外で生物多様性保全に資する区域)として国際データベースに登録され、30by30目標の達成に貢献します。
日立では、2023年度に3サイトが自然共生サイトとして認定されました。

会社名 サイト名称 場所 サイト概要
日立製作所 国分寺サイト 協創の森 東京都国分寺市 主な植生はミズキ、サワラ、コナラ森の中には湧水、池、自然林、竹林、草原など自然環境に特徴的な多様な生態系が広がっており、多種多様な生物が生息している。
日立グループ水戸事業所 茨城県ひたちなか市 自生するアカマツ高木が事業所創設時の森の姿に近い形で維持されるとともに、サギ山地区と呼ばれている緑地帯には、当該地域の潜在自然植生と推定されるタブノキ林やエノキ林を中心とした高木林がまとまって維持・管理されている。
日立ハイテク 日立ハイテクサイエンスの森 静岡県駿東郡小山町 敷地内の緑地を、より豊かな生物多様性を育む森林となるように、整備と保全に取り組んでいる。取り組み内容は、1.緑地の維持・再生、2.人工林の自然林化、3.ススキ草地の再生、4.外来植物の駆除である。

水および生物多様性に関するリスクへの対応

考え方・方針

活動・実績

日立の水リスクへのエクスポージャーは、地域と事業内容で程度が異なるため、それぞれの水リスクを特定し、リスク対策を推進することが重要です。リスク対応を円滑化するため、水リスクの特定および対策にかかわる手続きを「水リスクガイドライン*1」としてまとめ、グローバルで約100ある環境管理区分Aの主要製造事業所がこれを遵守しています。
また、さまざまな国際的な水リスク評価ツールと併せて、日立の「ESGマネジメントサポートシステム(ESG-MSS)」および地域と事業運用上の水リスク特定チェックリストを活用し、BUとグループ会社別、国・地域別およびグループ全体での水リスクを年1回特定・評価しています。
近年は、水リスクの特定・評価において、生物多様性の観点も重要であることが、国際的な情報開示枠組みであるTNFDから指摘されています。そのため、水リスク評価ツールの一つであるWater Risk Filter*2および水リスク特定チェックリストにおける生物多様性関連データのみを抽出して分析することで、生物多様性に特化したリスク評価も進めています。
これらの評価結果をもとに、より効果的な水リスクおよび生物多様性に関するリスク低減活動を推進していきます。

*1水リスクガイドライン:国連グローバル・コンパクト、CEO Water Mandate、Pacific Institute、WRI、WWFなどのメンバーが作成した、流域の状態を考慮した水関連目標設定のためのガイドを参考に作成。

*2Water Risk Filter:世界自然保護基金(WWF)とドイツ投資開発会社(DEG)が開発した水リスク評価ツール

ESGマネジメントサポートシステム(ESG-MSS)を利用した水リスクおよび生物多様性に関するリスクの特定

  地域の水リスク 事業運用上の水リスク
生物多様性に関するリスク 生物多様性に関するリスク
水資源、水質、水害、規制、評判リスクなどに関する評価項目数 約50 5(左記内数) 約70 13(左記内数)
リスク特定方法 さまざまな水リスク評価ツール(Aqueduct*1、Water Risk Filter、Flood Hazard Map of the World*2)を組み合わせ、住所情報よりリスクを特定 Water Risk Filter 事業所の取水量や排水量、事業所の取り組み内容などの情報からリスクを特定 事業所の取水量や排水量などの情報から生物多様性に関するリスクを特定
リスク判定 Low~Extremely-highの5段階*3で判定 Low~Extremely-highの5段階*3で判定 Low~Extremely-highの5段階*3で判定 Low~Extremely-highの5段階*3で判定
リスク結果 8事業所でHigh 7事業所でHigh 左記8事業所含め、すべてLow~Low-medium 左記7事業所含め、すべてLow~Medium-high
総合的に高い水リスク・生物多様性リスクに直面している事業所はない

*1Aqueduct:世界資源研究所(WRI)が開発した水リスク評価ツール

*2Flood Hazard Map of the World:欧州連合(EU)が公開している洪水リスクマップ

*3Low、Low -medium、Medium-high、High、Extremely-highの5段階

2023年度の取り組み

2023年度は、地域の水および生物多様性に関するリスクを評価した結果、環境管理区分Aの主要製造事業所のうち、インド、エジプト、ブラジル、ベトナムで操業している8事業所が水リスクがHigh、イタリア、米国、ドイツ、チェコ、コロンビア、ブラジルで操業している7事業所が生物多様性に関するリスクがHighと特定されました。
それを踏まえ、事業運用上の水リスクおよび生物多様性に関するリスクを評価した結果、先にリスクを特定された事業所含めすべての事業所の事業運用上の水リスクおよび生物多様性に関するリスクは、Medium-high以下となりました。
そのため日立には、総合的に高い水リスク・生物多様性リスクに直面している事業所はないと考えています。
なお、地域の水リスクが高い8事業所の水使用量は0.4百万m3であり、日立の主要製造工程の水使用量11百万m3の約4%を占めています。

サプライチェーンにおける水リスクの把握

日立は、安定的に部品や製品を調達するためにも、調達パートナーの水リスクを把握することは重要だと考えています。
2023年度は、2023年度の環境重点パートナー(取引実績や、所在国などの要素を鑑み選定した約3,000社を選定)のうち、環境に関する取り組み調査に回答いただいた2,100社の地域の水リスクを、AqueductとWater Risk Filterを用いて特定し、結果を関連部門と共有しました。今後は、調査対象を拡大するなどして、調達パートナーの水リスクのさらなる把握に努めていきます。

責任ある調達

化学物質の管理

考え方・方針

日立は、都市域大気汚染の原因の一つである揮発性有機化合物:Volatile Organic Compounds(VOC)をはじめとする化学物質の管理と削減には、大気・水環境への汚染物質排出を抑制するだけでなく、その使用量を適正に管理することが、自然資本へのインパクト最小化のために重要であると考えています。
こうした考えのもと、日立では、「環境CSR対応モノづくり規程」を制定し、製品の設計・開発から、調達、製造、品質保証、出荷までの各段階で化学物質を管理しています。製品に含有される化学物質は、禁止物質群、管理物質群に分類して管理し、製品の輸出先の法規制への対応に活用しています。事業活動で使用する化学物質についても、禁止・削減・管理の3段階で管理しているほか、化学物質の取扱者や管理者に対して法規制やリスク評価などの教育を行うなど、リスクの低減に努めています。

製品の含有化学物質管理

活動・実績

日立は、製品に含有される化学物質の中で管理対象となる物質を「日立グループ自主管理化学物質」として定義し、原則として規制の厳しいEUの基準を標準とした上で、輸出先や業種・用途に限らず管理対象物質を決定・管理しています。
管理対象とする化学物質や管理レベルの区分は、欧州REACH規則*1をはじめとする各種規制物質の改定に合わせ、原則として法令で規制される半年前には自主管理化学物質に指定するなど随時見直しを図っています。例えば、2025年2月、POPs条約*2としてデクロランプラスおよびUV-328が新たに規制されることに合わせ、「日立グループ自主管理化学物質」を改訂しました。

*1REACH規則:Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicalsの略称。欧州連合規則の一つである「化学物質の登録、評価、認可および制限に関する規則」

*2POPs条約:Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutantsの略称。「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」

日立自主管理化学物質(製品含有化学物質)

区分の具体例

禁止物質群(レベル1)
日本国内外で製品(包装材を含む)への使用が原則的に禁止されているものの、調達品に使用される可能性のある物質

管理物質群(レベル2)
使用実態の把握と管理を要求されている物質およびリサイクルや適正処理を考慮すべき物質

事業活動における化学物質の管理

活動・実績

工場などから排出される化学物質は、削減推進対象物質*1および対象範囲を拡大するなどの管理強化を通じて、排出量の削減に取り組んでいます。
削減事例は英語・中国語に翻訳し、日立グループでグローバルに展開することで情報共有を図っています。各事業所所在地の法令により測定が義務づけられている硫黄酸化物(SOx)と窒素酸化物(NOx)、生物的酸素要求量(BOD)と化学的酸素要求量(COD)については、その排出量*2を法規制に基づき測定・管理するとともに、さらなる排出抑制に取り組んでいます。
「2024環境行動計画」(2022–2024年度)の中間年度である2023年度は、化学物質大気排出量原単位において基準年度の2010年度比6%改善を目標に掲げ、改善率22%と目標を達成しました。排出量低減にあたっては、VOC含有塗料から水溶性塗料や粉体塗装への変更や適用の拡大、塗装工程や洗浄工程のプロセス変更などの施策を実施しました。

*1削減推進対象物質:ハザードと大気排出量の観点から選定した50物質。2023年度の排出量実績においては、約100%がVOCに分類されます

*2排出量:事業所別のデータ(測定値、排風量、含有率、排水量など)より算出

事業活動における化学物質投入量と排出量

2024 環境行動計画 管理値 化学物質大気排出量原単位(日立グループ)

図:2024 環境行動計画 管理値 化学物質大気排出量原単位(日立グループ)

*1活動量:事業所ごとに定める化学物質大気排出量と密接な関係をもつ値
(例:取扱量、売上高、生産高など)

化学物質大気排出量の推移(日立グループ)

グラフ:化学物質大気排出量の推移(日立グループ)

Note:VOCを含む化学物質の大気排出量は、材料に含まれる含有率などから算出

*12022年度は、2020年度から連結対象となった自動車部品系会社の化学物質大気排出量を含んでいます。素材系および建設機械系会社の非連結化に伴い減少しました

*22023年度は、自動車部品系会社の非連結化に伴い減少しました

生態系の保全の取り組み

考え方・方針

活動・実績

日立は、事業活動による自然資本への負荷(負のインパクト)の低減と、自然保護に関する社会貢献活動や生態系保全に貢献できる製品・サービスの提供(正のインパクト)を通じて、2050年度までに自然資本へのインパクトを最小化することをめざしています。
また、数値化が困難とはいえ重要な活動である希少種の保護や、投資判断基準に生物多様性への配慮を盛り込むことなど、具体的な活動内容を明示した「生態系保全活動メニュー」に則り、事業所ごとに目標を設定して活動を推進し、自然共生社会の実現に貢献していきます。

生態系保全活動メニュー概要

  区分 活動例 活動メニュー数
事業所 生産 再利用ができない資源利用量の低減 4
輸送 生態系に配慮した梱包材の使用 7
回収・廃棄・リサイクル 製品含有有害物質の削減 2
製品企画・開発・設計 研究開発時に、製品のライフサイクルにおける生物多様性への影響を推計し、必要に応じて、軽減策を実施 3
敷地管理 在来種の採用、ビオトープの設置 17
水利用 雨水の利用 1
バリューチェーン 出資・買収 出資・買収判断時に生物多様性への影響を確認し、影響を最小限にするための施策を実施 1
新規進出・拡張 投資判断基準に生物多様性への配慮を盛り込む 1
事業開発 水、空気、土壌を浄化する製品・サービスの開発・事業展開 1
調達 生物多様性に配慮していることが確認された紙など事務用品の優先調達 17
輸送 海上輸送におけるバラスト水に関する対策を実施 2
販売 “生物多様性に配慮した製品”の拡販活動の実施 9
回収・廃棄・リサイクル 部品のリユース・リサイクル 7
バリューチェーン全体 再生可能エネルギーの導入促進 1
コミュニティ コミュニケーション 従業員による社外活動の推進 3
社会貢献 砂漠緑化、植林や森林育成活動の実施 12
流域生態系に配慮した水利用 取水 生物相の観測または情報収集(取水量による生態系への影響) 14
排水 生物相の管理指標の設定、観測(生息生物種・個体数) 14

Note:日立では、調達先(いわゆるサプライヤー、ベンダー、プロバイダー等)を「対等な立場で一緒にビジネスをつくり上げるパートナー」に位置づけており、「調達パートナー」と表現しています。