超電導磁石の冷却電力半減を達成
2019年10月8日
株式会社日立製作所
日立は希少資源である液体ヘリウムを使用せずに冷凍機による冷却のみで使用可能な線材長さ8kmの二ホウ化マグネシウム(以下、MgB2)超電導線材を開発しました。開発した線材を用いて、マイクロ波発生装置(以下、クライストロン)用の超電導磁石を製作し検証した結果、温度20K(マイナス253℃)で磁束密度0.8テスラを達成しました。本技術により小さな電流でも強力な磁場を発生できるため、超電導磁石内部への熱侵入量が削減され、従来の超電導磁石と比べ冷却電力の半減化を実現できます。今後日立は、より強力な超電導磁石を本線材を用いて実現することでMRI*1などの現行超電導機器の消費電力を削減するとともに、エネルギー、交通分野への応用展開を進めることで、環境負荷低減に貢献します。
図1 MgB2超電導線材(線径0.67mm)の断面写真および外観
MgB2はマグネシウムとホウ素の混合粉を加熱することで得られますが、その際混合粉を適切な金属で覆って保護する必要があります。従来は、その金属保護層を維持したまま細線化することが困難なため、線材長さは数百メートル程度に留まっていました。今回開発した線材の金属保護層は約30µmの厚さですが、この保護層が破れにくい線材断面構成および加工条件を明らかとすることでMgB2超電導線材細線化技術を開発しました。結果、線材長さ8kmにわたって均一なMgB2線材を実現しました。線材長さが長くなることで、超電導磁石作製における線材接続数が減り、超電導磁石のコスト低減も可能となります。
超電導磁石が作る磁場の大きさは、電磁石に通電する電流値と、電磁石形状に巻線された超電導線材の巻数(すなわち超電導線材の長さ)の積に比例します。クライストロン用超電導磁石において、今回開発した線材のうち約6kmを用いて超電導磁石を形成することで、小さな電流でも強力な磁場を発生できました*3。電極における室温部から冷却部への熱侵入量を低減*4した超電導磁石を温度20Kで運転することで、従来の超電導磁石(NbTi)と比べて半分以下の冷凍機消費電力(3kW以下)で超電導状態を維持できることを確認しました。
図2 MgB2超電導線材および超電導磁石における、冷却電力半減に向けた課題および解決策