橋本 実典
株式会社日立製作所 Lumada Data Science Lab.
株式会社日立製作所が2020年4月に設立した「Lumada Data Science Lab.」(以下、LDSL)に集う一人ひとりに光をあてるインタビューシリーズ。今回話を聞いたのは、LDSLの橋本実典です。自身の強みである吸収力を生かしながら、計画最適化業務を通して日々お客さまと向き合っている橋本。仕事の面白さや難しさ、そして将来の展望を聞きました。
前職ではデータ分析や画像解析業務に携わり、ITやAIを専門としてキャリア形成したいと考えるようになりました。より専門的、実践的な知識を身につけたいと思い、勉強のために私生活で競技プログラミングを始めましたね。競技プログラミングとは、与えられた課題を正確に解くプログラムの作成時間を競う競技です。競技に取り組む中で、課題として「組合せ最適化」と出会い、興味を持ちました。組合せ最適化の問題では、多くの選択肢の中から、ある指標を最も良くする変数の組み合わせを求めます。
この技術を仕事で生かしたいと考えていたところ、日立が「組合せ最適化」でビジネスをしていることを知りました。ちょうどこのLDSLのメンバーインタビューを読んだことが転職の決め手でしたね。専門的な知識を持っている方や、外部講師を務める方などがおり、「組合せ最適化」のプロ集団だと感じました。このプロ集団の中で知識をつけ、キャリアを積みたいとワクワクしたことを覚えています。
計画最適化業務を行っています。数理最適化の手法を使い、お客さまの計画業務に関するお困りごとを解決するのが仕事です。
そもそも計画最適化とは計画立案者が行う計画業務を、AIシステムを使い最適化すること。例えば、スタッフのシフトを組む、トラックの荷台に効率よく荷物を積み込み、かつ重量オーバーにも気をつけるなど、人はさまざまなところで計画業務を行っています。
これらの業務は往々にして、計画を立てる人独自の思考や経験に頼ってしまっている場合が多くありました。業務が属人化、つまり“この人にしかできない仕事”になってしまうと、万が一立案者が業務を行えなくなると代わりに対応できる人がいない可能性があります。また、未経験者や後任の業務習得にもかなりの時間が必要になります。
そのような計画を立てる工程を、数式やアルゴリズムに置き換え、AIで自動化し汎用性をあげることが計画最適化を行う私たちの仕事です。
計画立案業務は、いろいろな制約やルール、暗黙知が複雑に絡み合っています。配慮しなければならない点が多く、立案者が何を見て、どのように考えを巡らせて業務を行っているかをひとつずつ紐解き、整理することが難しいですね。
ですが、日立ではこれまでの事例に基づいたノウハウが豊富にあるため、過去の実績に則って対応することができます。過去事例が当てはまらない場合でも、プロフェッショナルな先輩方の知見を活用することで、解決の糸口を見つけられます。
お客さまからヒアリングした内容をもとに、どういうアプローチがあるのか、どのような数式に落とし込めるのかを検討し、システムを構築していきます。
「どのようにしたらAIが計画業務の役に立ち、お客さまに喜んでいただけるか」を、関わる方々と密にコミュニケーションをとりながら考えられるところ、ですね。
社内であれば、アルゴリズムの研究者、プログラマー、データサイエンティスト、ビジネスとして応用できる方など、さまざまなスキルをもった方々と連携しながら業務を進めています。
また、お客さまとのコミュニケーションも密です。最初のヒアリングから始まり、実装、実務での利用まで、ともに案件を進めていきます。
主にウォーターフォール方式とアジャイル方式を活用しています。ウォーターフォール方式はヒアリング後、最初にシステム全体の機能設計と計画を詳細に立て、立てた計画に従い開発、実装していく手法です。上流工程から下流工程までを順に進めていくため、大規模なシステム開発に有効です。
一方でアジャイル方式は、小単位でシステムを構築し、実装を進めていく手法です。すべてを一度にAI化するのではなく、必要なシステムの優先度を検討し、段階的に実装していくため、実装されたシステムの使用感や出来の評価をお客さまと話し合いながら進めることができます。いただいたフィードバックから修正を行い、また新しいシステムを実装する。お客さまと一歩一歩、完成形をめざして着実に前進できるやり方です。すでに既存システムがあり、機能の追加やシステムのカスタマイズをする場合に特に有効です。
このようにお客さまにとっての最適な手法を選び、対応できるのも日立の豊富な知識や技術があるからこそ。会社の総力をもってお客さまを支援していると自負しています。
先輩方の知見やノウハウを吸収し、社会に貢献していきたいです。技術は、目的達成の手段のひとつ。技術を活用して目的達成ができたり、達成までの障壁が減ったりすることで、初めて役に立つのです。
いつかは、社会の基盤を支えているインフラ系における課題や第一次産業の課題など、もっと大きなスケールの課題に日立の技術をもって挑戦していきたいですね。
私は、今後ますます機械と人の得意分野の棲み分けができるようになればいいなと思っています。機械は計算が得意で、さまざまな可能性を考慮したうえで最適を導くことができます。一方で人は、相手の気持ちを汲み取り、その業界の暗黙のルールに気がつくことが得意です。
技術は、人にとって補助輪のような存在。すべてをAI化するのではなく、人が考慮しきれない部分や、機械で対応したほうがスムーズなところを機械が網羅し、お互いの得意で補い合う関係が理想です。AIに作業を任せることで、人は人にしかできないことに注力できるようになる。人間本来の価値を引き出し、向上させることに技術を役立てていきたいと考えています。