野宮 正嗣
株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス
サービス&プラットフォームビジネスユニット
Lumada CoE AIビジネス推進部
技師
日立製作所が2020年4月に設立した「Lumada Data Science Lab.」(以下、LDSL)に集う一人ひとりに光をあてるインタビューシリーズ。今回話を聞いたのは野宮正嗣(ノミヤ マサツグ)です。業界の異なる多数の組織・企業と共にサービス開発を推進する野宮。データ分析だけでなく、お客さまに寄り添って、業務課題の明確化や課題解決に向けた取り組みについて語ってもらいました。
金融事業部の企画部門に所属している時に、金融分野における新たなセキュリティソリューションとして「生体認証」を中心とした技術の適用に取り組みました。
キャッシュカードの不正利用を背景(社会的ニーズ)に、キャッシュカード(磁気ストライプ)のセキュリティ強化(ICカード化)が望まれていたことと、日立の中央研究所側の生体認証の技術が、顧客に提供できる状態であったこと(シーズ)が、うまくかみ合って生体認証の導入となりました。
業務を詳細化すると、AI技術を金融機関向けに最初に紹介する「企画業務」と、それを実現するために、金融機関としてどういう設計をすれば良いのかという「業務設計」、例えば、カードの発行はどうするのか?、生体認証の登録はどうやるのか?、生体認証の公開はどうするのか?など、生体認証を利用するための業務フローの整備に取り組んでいました。
この開発では、AI技術の開発が核とはなっているのですが、キャッシュカードのIC化の技術ですとか、色々な業界にまたがる技術を1つのサービスとして提供したというのがポイントなのかなと思います。
異業種間を結ぶ"ハブ"的存在な「野宮さん」はここから始まっているのではないでしょうか。
新しいサービス開発に当たって、サービスを組み立てていこうとすると、システム自体が必要なのは当然ですが、実際には現場で動くモノ、サプライチェーン(製品の原材料・部品の調達から、生産、物流、販売)に関わることなどやることの幅が広いんです。そのため、様々な背景を持つ事業者が共同でチームを組んで取り組む、異業種協業が必要とされます。
新たな価値の実現にあたり、プロトタイプ手法法を適用して実施
異業種協業で新しいことに取り組む際に問題となるのが、各業種での言葉や、常識、考え方が異なり、同じことを話していても想像するゴールイメージが異なってしまうことです。
例えば、ドローンで100kgの荷物を運ぶと聞くと、ある人は空を飛ばすことを考え無理だと言い、ある人は安全性を考え500kgまでは運べる装置が必要だとい言う、といったことです。
そのため、3つの要素(ファンクション、コンテクスト、リアリティ)を使ってゴールイメージを共有することで、異業種協業のメンバーの意識を統一する取り組みなどを行っています。
要素の1つであるリアリティでは、1/1のモックアップを作る前に、1/10のモックアップを作って評価したり、1/1のモックアップの時点ではシステムがなくても一通りの業務の検証ができるため、素早く検証して課題を抽出して対策することができます。
ロジスティクスを中心としたSCM(サプライチェーンマネージメント)など、社会的に重要な課題かつ、複数事業者が協力しないと解決できない分野に取り組んでいます。
物流を例にとると、今物流にはとても負荷がかかっているんです。モノを運ぶこと自体はなくならないですが、実は積載効率でいうと48%ぐらいで、トラックの半分は空なんです。ここを、低炭素化や、エネルギーを効率的に使用するための先進的な取り組みをしようとすると、一社だけでは出来る範囲は限られるため、複数事業者間で連携する仕組みが必要になります。そこを調整しながら、新しい価値を作っていくという所に取り組んでいます。
また、業界横断、異業種横断での課題に取り組むため、ヒアリングしたお客さまの課題を構造化し、Lumadaに蓄積されたナレッジを用いた取り組みも行っています。課題を構造化するとともに、データ利活用からどの様に解決していくかの両面からお客様と一緒に議論し整理していくことで、共通のゴールイメージを持つことが出来て、新しい価値創造にも繋がっていくと考えています。
異業種協業でないと解決できない問題などに取り組みたいと思っています。今は先が見えない時代だと思っていて、課題解決に向けて模索しながら、新しく切り開いていくことが好きなんです。日立の創業理念にある「開拓者精神」ですね。
ある事業者での概念、手法を、横転換することで新しい価値が出せるのではと思っています。例えば、モックアップなどは建築業界や製造業界がやる手法ですが、完成形であるプロトタイプがあれば、めざすべきゴールが明確になるため、認識のズレが生じにくく、チームメンバー全員で共通の認識を持てるのです。このように、色々な業界の持っている手法とか、価値を横展開するだけでも新しい価値を出せるのではないかと思っています。
今後は、お客さまやパートナーなど業界の枠を越えた協創の場である「LIHT(Lumada Innovation Hub Tokyo)」で、新しい価値への取り組みをしていきたいと思っています。