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Hitachi

新しい技術の翻訳者。
変革期に立ち会っている世代の挑戦と若手への思い

2021-03-31

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松本 茂紀

株式会社日立製作所 Lumada Data Science Lab.

主任研究員

日立製作所が2020年4月に設立した「Lumada Data Science Lab.」(以下、LDSL)に集う一人ひとりに光をあてるインタビューシリーズ。今回登場するのはLDSLでデータサイエンスのナレッジ蓄積・利活用推進やデータサイエンティストの育成、先端分析案件への参画に取り組んでいる松本茂紀です。それぞれの取り組みの具体的な中身や若手への思いについて聞きました。

2020年4月からデータサイエンス分野で取り組んでいることについて教えてください。

担当業務は大きく分けると3つあります。1つ目は、日立が持っているデータサイエンスに関係するノウハウや知識を蓄積し、利活用していくことです。2つ目は、データサイエンスを実際に活用しながら仕事をしているフロントのエンジニアたちにデータサイエンスの肝になる技術や知識を教育するため、OJTを実施することです。データサイエンティストの育成ですね。3つ目は、お客さまの課題を解決するために先端事例にチャレンジすることです。その3つが大きな軸になっています。

1つ目のノウハウや知識の蓄積・利活用の推進についてお話します。さまざまな業種でDXが進む中で、日立が昔から関わっている製造業には、デジタルを活用できる大きな余地があります。ノウハウ自体は保有しているので、そこにデータサイエンスの知見を生かしていくことをめざしています。DXを成功に導くために、日立が今まで培ってきた、OTナレッジと呼んでいる製造業のオペレーションに関する知識が役立ちます。“One Hitachi”を掲げているように、そのためにみんなでまとまって知識の基盤を作っていくことがミッションになっています。

2つ目は教育。お客さまと直接やり取りをするビジネスユニットの人財をLDSLで育てています。特にこれから第一線に出ていく若手に1年間くらいバックグラウンドの知識やデータの見方などを教えます。そこでの私の役割はデータサイエンスに関する知見を、実際の課題に対してどのように適用するのかを一緒に解きながら伝えていくことです。

3つ目は先端事例。日立が持っているソリューションに何かプラスアルファすることで、お客さまのチャレンジングな課題を達成できる場合があります。そのようなケースに対し、データサイエンスが道を切り拓く可能性がないかを模索します。「難しい課題かもしれないけれど、こういう切り口でいくともしかしたら解が見つかるかもしれない」と相談しながら、私たちも手を動かして分析していきます。実際にお客さまとも向き合いながら分析をしていくのがミッションです。私もお客さまの課題やデータを共有頂き、方法の提案だけではなく実際に分析し効果を検証するというところまで一緒に取り組んでいます。

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日立に入った理由と今後取り組みたいことを教えてください。

学生時代は計算統計力学の分野で研究をしていました。自然現象から社会現象まで世の中で起こっているさまざまな現象について、それらを引き起こす一つひとつの構成要素がどのようにして相互作用しながら動いているのかをモデル化します。そして、それがたくさん集まったらどんな面白いことが起きるのかを解き明かす、現代物理学の柱となる学問に取り組んでいました。

一つひとつのモデルの数式だけを見ていてもわからない、コンピューターを使うことで初めて見えてくる現象をひたすら突き詰めていました。例えば、原子分子の目に見えない小さな粒がどうやって渦のような大きな流れを生み出すのか、というような話から、動物の捕食行動で、彼らが群れを成したときどうやって食う・食われるのゲームをしているのか、などのさまざまな分野の研究をしていました。語り始めると長くなるので、この辺で止めておきます(笑)。

このように、学生時代から世の中のさまざまな現象をコンピューターを使って解き明かすのが好きでした。日立を選んだのは、幅広い産業やビジネスを扱っているので、色々な分野に触れ知見を広げられるだろうと思ったからです。実際、機械・材料・エネルギー・ITと多様なジャンルにチャレンジできていますね。

個人的には人の暮らしを豊かにしていくためにデータサイエンスやこれまで培った知識を使いたいので、フードテックに興味があります。食の分野にももっと技術を展開したいですね。どう適用していくのかは考えないといけないですが(笑)。

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今後、どのようなキャリアプランを描いていますか?

ライフワークである研究を今後もやっていきたいですね。ただし、社会が変革期を迎えているので、今までのやり方では価値を生み出せないという危機感を持っています。世の中の変化のスピードについていき、価値を生み出し続けるには、新しい技術を翻訳することが求められていると考えています。

翻訳というのは、専門性の高い技術を一般の人へ価値を伝え、実際の問題解決に役立てられる技術に落とし込むという意味合いです。解決したい課題を持っている人に新しいAI技術を結びつけるまで、今はまだ大きなギャップがあります。

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その役割を担えるのは、変革期に立ち会っている我々世代。昔のことも新しいことも分かっている世代だからこそ挑戦できると思います。翻訳をする役割を担っていくことで自分のやりたい研究の幅がもっと広がると思っています。

特許や論文、学会発表の実績が目を引きます。

半年に1回はアウトプットするという大学生時代からの習慣を続けてきた結果で、恩師たちの指導のお陰だと思っています。ただ、大学での研究と会社に入ってからの研究は全く違うと実感しています。会社では自分のやりたい研究だけを突き詰められるわけではありません。社会に役立つ研究をすることがミッションになってきます。研究のどの部分で特許を取るのか。事業貢献に持っていくのはどこか。そして学会発表するのはどの部分か。ビジネスの観点で課題を分解しながら目標を持ってやれるようになってきたことが、このような成果につながったと考えています。

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日立は比較的自由な裁量を与えてくれ、興味関心のある分野を深掘りしていくことを支援してくれます。自分が面白そうだと思う研究にはモチベーションが上がりますし、後押ししてくれる人たちが周りにいます。業務成果は求められますが、チャレンジに対する日立の寛容さを感じます。また、LDSLに限らず、各分野の専門家がすぐ近くにいるので、自分の専門外のことを気軽に議論できる環境としては恵まれていると思います。

私は今、若い人たちの能力を引き出す立場にもなっています。自分が先輩たちにそうしてもらったように、若い人たちと一緒に自由な発想で研究できる環境を作っていきたいと考えています。何かあったら、こちらが責任を取るからと。すでに、自分の目が届く範囲の人には個性を生かした自由な発想で色々試してもらっています。仕事を始めた直後の高いモチベーションを維持して、楽しみながら成果を出してほしいですね。