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数理最適化とAIで研究とビジネスを融合。
LDSLトップデータサイエンティストの横顔

2021-03-31

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佐藤 達広

株式会社日立製作所 Lumada Data Science Lab.

シニア・データサイエンス・エキスパート

株式会社日立製作所が2020年4月に設立した「Lumada Data Science Lab.」(以下、LDSL)に集う一人ひとりに光をあてるインタビューシリーズ。今回話を聞いたのは、LDSLのシニアデータサイエンスエキスパート、佐藤達広です。工学博士でもある佐藤がどのようにして研究とビジネスの両面からお客さまや社会に価値を提供しているのか聞きました。

日立製作所に入社してからどのような仕事に取り組んできたのか教えてください。

1995年に日立製作所に入社して以来、23年間はシステム開発研究所(現・研究開発グループ システムイノベーション研究センタ)で研究に没頭していました。研究所では、数理最適化を使って、鉄道のダイヤや物流の配送計画などを作る計画最適化モデルの研究をしていました。

研究所時代の成果で一般の方に身近なものとしては、鉄道の遅れを表示するシステムがあります。列車に遅れが出たときに、駅の案内板に「何分後に到着」などとリアルタイムに表示されますね。あの仕組みの一部です。鉄道会社には運行管理システムがあって、すべての列車がどこを走っているかリアルタイムに情報を取得しています。その情報をもとに逐一遅れを計算するというものです。

他には水道のシステムにも関わりました。当たり前に使っている水道ですが、その需要は刻々と変化します。例えば、朝は炊事でたくさんの水を使いますが、昼間はそれほど使いません。需要の変化に応じた適切な量の水をポンプで送り出すために、ポンプの適切な稼働量を時々刻々と計算するというものです。

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2018年に研究所からAIビジネス推進部に異動されました。

それまでは研究者として後方支援をしていましたが、今は直接お客さまとやりとりをしながら数理最適化技術を使ってシステム作りに携わっています。お客さまは産業系の企業が多く、工場の生産計画などに計画最適化モデルと機械学習などのAIを応用しています。

システムを作るにあたってお客さまを訪問して生産計画の作成に関するノウハウを聞き出し、その情報をもとに数式化するのが王道ですが、AIも活用していきます。AIが活躍するのは、お客さま先で蓄積されている過去の生産計画データの分析です。それによって、これまでどうやって生産計画が作られたか、ルールやノウハウを抽出することができます。その内容を使って計画を立てていくわけです。

ほとんどの生産の現場には、熟練者の方々だけが持つ暗黙知があるものです。これまで生産計画はそういった熟練者の方々の努力と経験に依存していたとも言えます。

お客さまはその分野のプロフェッショナル。その分野で何をすべきかということは熟知されていますが、さらなる改善も希望されています。そのために我々のような外部の視点を持った人間が現場にお邪魔して、一緒に課題を抽出し、解決策を考えていきます。日立ではそのことを協創と呼んでいます。生産計画が自動生成できて、これまで生産計画を作ってきた方々の負担を減らすことができていますし、この取り組みを通して人財育成や技術伝承をしやすくすることにも貢献できました。

研究所に所属していた頃は技術面で貢献してきましたが、今は最終的に使っていただけるシステムでお客さまに価値を届けています。さらに満足していただくためには運用や保守にも関わっていくことが必要です。この部分には日立が培ってきた強みを生かせます。

結果としてコストの低減といったお客さまの経営指標の改善にもつながり、鉄道の利用者など一般の皆さんにとっても便利になることが実感でき、研究所時代にはなかったやりがいを感じています。

佐藤さんの仕事とLumadaの関係を教えてください。

私が取り組んでいる数理最適化を使った効率的な計画策定は、まさにLumadaが取り組んでいこうとしているデータサイエンスを使ったソリューションビジネスの一端です。

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世の中には、私が取り組んできた鉄道や水道などを含めてさまざまな活動があって、そこから色々なデータが生まれます。そのデータを吸い上げてAIで分析して、お客さまの価値につなげる。Lumadaとはそういった取り組みの総称だと捉えています。

現在は大阪大学で教鞭も取られていますね。社内で後輩たちに指導するのとは違いがありますか?

大学では学部の学生たちに企業の取り組みについて話しています。限られた講義時間の中で、教科書を読むだけでわからない苦労話なども伝えています。座学なので社会経験のない学生たちはピンと来ていないところもあるようですが、社会に出てから「あの先生が言っていたのはこのことか」と思ってもらえるように、長期的な視野で接するようにしています。

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一方、会社ではOJTを重視していて、若手にアドバイスをすることも多いです。プロジェクトに入りたてのときには苦労することも多いものです。作成した計画をお客さまに見せると、さまざまなご指摘をいただいて、なかなか課題解決が進まないということも当然ありますから。

そういう時は、プロジェクト内で課題の背景をディスカッションして、解決策を探っていきます。簡単ではないので正直きついと感じることもありますが、最終的に若い人たちがデータサイエンティストとして成長する姿を目の前で見られるのはうれしいものです。

今後、取り組んでいきたいことについて教えてください。

これまで日立は大規模なインフラや金融、通信など幅広い分野の現場で使っていただくシステムを手がけてきました。その経験から、他にも応用できるノウハウや事例のデータも蓄積されています。そうした情報や経験、知識を使うことで、さらに新たなお客さまと協創できる良い循環ができています。

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一方で、AIは難しいものというイメージがまだまだあります。お客さまはもちろんですし、社内でこれまでAIと関わりがなかった部署の人にも理解してもらう必要がありますね。AIは使いこなせれば非常に役に立つもので、お客さまに価値をご提供できます。作ったもの、考えたものをより使っていただきやすくするような活動も行って、AIの可能性をさらに広げていきたいと思います。AIが社会に浸透していくと倫理に関する問題も出てきますので、そういったところへの対応も今後は必要になってきますね。

日立ではデータサイエンティストを3,000人育成する計画が進んでいます。私が一人でできることは限られていますので、若手を育てながら、LDSL全体で研究とビジネスを融合させて、お客さまの課題解決に貢献していきたいと考えています。