現在の銀行システムは1980年代に設計・開発された「第3次オンラインシステム」が礎となっています。しかし、そこから約35年の時が経ち、開発要員の高齢化、システムの「ブラックボックス化」、業務プログラム構造の陳腐化により、昨今ではシステム構造の老朽化と硬直化が顕著になってきています。Fintechをはじめとする外部の新しい金融サービスが次々と市場に投入され、競争環境が激化するなか、はたして銀行の勘定系システムのあり方はこのままでよいのでしょうか。本稿では第3次オンラインシステムの歴史を紐解くとともに、移り行く時代に適した「次世代勘定系システム」について考察したいと思います。
第3次オンラインシステムが登場した1980年代といえば、スマートフォンはおろかインターネットすら登場していなかった頃のことです。当然ながら、今のようにいつでもどこでも自分の預金口座にアクセスしてお金を出し入れしたり、デビットカードとして電子マネー感覚で自分の口座から即時決済したりすることはできませんでした。
第3次オンラインシステムへの接続は、営業店端末やATMなど特定のチャネルに限られていたことから、限定的な取引をメインフレームで集中処理するというシンプルなシステム構造でした。それでも第2次オンラインシステムの頃に比べ、CPUの高速化やメモリ容量の拡張といったハードウェアスペックの向上により、プログラミング言語が従来のアセンブリから高級言語(PL/IまたはCOBOL)へと変わり、またホットスタンバイ機能による障害対策やジョブスケジュールによるバッチ処理の自動化が可能となるなど、第3次オンラインシステムは高い生産性の確保と信頼性が向上し、銀行業務の効率化に大きな貢献を果たしました。
ところが時が経つにつれ、ネットワークの大容量化やインターネットの普及など、情報通信技術は発展していきます。汎用端末からの接続増に加え、サブシステムが乱立したことで、勘定系システムの基本構造はそのままに、全体構成は急拡大・肥大化していきました。それにともない、システム対応も複雑化の一途をたどっています。
また、時代のニーズに応じて、銀行業務も拡大していきます。かつて平日8:30〜15:30のコアタイム内でしか行われていなかった銀行間の即時入金が、2018年の全銀モアタイムによって24時間365日いつでも可能になるなど、<場所やチャネルを選ばない取引の実現>が求められるようになっていきました。
次に、第3次オンラインシステムに生じている構造上の限界について見ていきましょう。
1960年代に第1次オンラインシステムが誕生して以降、10年ごとに刷新されてきた勘定系システムですが、バブルが崩壊した1990年代以降は既存の勘定系システムに手を加えながら新機能を追加するようになっていきます。
その一方で、人々の銀行との付き合い方は、時代とともに大きく変化していきました。駅や商業施設の構内、全国に広がるコンビニエンスストアなど、ATMの数が増えていくにつれ、自分の銀行口座からお金を出し入れする行為が身近なものに。そのうえ今ではインターネットバンキングサービスも加わり、スマホなどのモバイル端末の普及にともない24時間365日、どこからでも残高の確認や入出金明細の入手、振込や振替の手続きといった銀行サービスを受けられるようになっています。
こうしてATMやインターネットバンキングでの取引やサービスの種類が増えるがということは、システムを酷使していることに他ならず、勘定系システムでできることを増やせば増やすほど「ブラックボックス化」が進む一因となってしまいます。システムはモノである以上、いくらメンテナンスをしていたとしても、長年の改修で複雑化し、約35年という年月の積み重ねによる老朽化や経年劣化は避けられないのです。
そこで日立では、第3次オンラインシステムを取り巻く課題のポイントを洗い出しました。その中から次の3つをご紹介します。
第3次オンラインの勘定系システムは、チャネル取引単位に特化した処理構造になっているため、新規チャネルを追加するには、新規チャネル専用のプログラムを構築して、業務プログラムまで改修しなければなりません。さらに、多段構成になっていることから、新規チャネル追加のたびにゲートウェイサーバーの新設が必要であり、膨大な開発工数が発生してしまう問題もあります。
1990年代に入り、国内取引での手数料ビジネスが普及しました。しかし第3次オンラインの勘定系システムができた当時、銀行取引で手数料が発生するのは為替くらいしかありませんでした。したがって、個人と法人に向けた多様なチャネルサービスを広げるたびに、システム部門の技術者がその都度、手数料徴求や減免処理のシステム改修をする必要があり、勘定系システムの肥大化につながっています。
商品の追加や税制改正への対応など、業務プログラムの改修が必要になった際、第3次オンラインシステムの業務プログラムは、チャネルに依存した構造であったため、チャネルや科目ごとに個別処理ロジックを作り込んでいった結果、システムの肥大化と複雑化を招いているのです。
これらの第3次オンラインシステムが抱える問題をいち早く解消することは、あらゆる場面における生産性を高め、ビジネス革新につながります。これからの時代を見据え、「柔軟にチャネルや業務プログラムの追加ができるような再利用性の高いシステム」へと進化させるべき時が来ているのです。