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「キーパーソンに聞く」カーボンニュートラル実現に向けた日本のエネルギーミックスの現状と課題 第1回対談 (後編)

本連載企画では、「カーボンニュートラル(CN)実現」をテーマに掲げ、各界でエネルギー問題に取り組まれている有識者をお招きし、電力・エネルギーに関する政策提言に取り組む日立製作所 エネルギー経営戦略本部 山田竜也担当本部長との対談を通して、各業界での動向を紹介します。CN実現のプロセスやビジョンの策定、実現に向けた取り組み、環境整備など、さまざまな角度から議論します。

前編・中編では、国内外のエネルギー需給の課題や、カーボンニュートラルを実現するためのエネルギーミックスについて議論をしてきました。後編では、めざすべきエネルギーのベストミックスを実現するために、どのようなエネルギーシステムを構築していくべきなのか、またどのように原子力の再稼働を進めるべきなのかなど、政策に踏み込んだ議論となりました。

(前編はこちら)
(中編はこちら)

ベストミックスをシステム全体として実現するために

山田:ここまでお話しをお聞きして感じるのは、エネルギーそれぞれの特色と課題があるわけで、これらをうまくミックスさせてベストミックスの比率を考え、そこをシステム全体として系統も含めて最適化することがきわめて肝要ですね。しかし、そこが一番難しいところでもあります。

石川:おっしゃる通りですね。よく再エネ100%にすれば化石燃料はいらない、原子力発電も必要ない、という人がいますが、それは現実的ではありません。原子力があればもう化石燃料は必要ない、という人も同じです。
実は私は最初に通商産業省(現・経済産業省)に入った際に石炭部に配属されたのです。だから石炭の良さはよくわかっていましたけれど、一方で、石炭があれば日本のエネルギーを賄えるなどとは思っていませんでした。石炭では車は動きませんからね(笑)。そこは冷静な目で判断して、ベストミックスを探っていく必要があると思っています。

山田:太陽光にしても、今後どんどん増やすという見通しはあるけれど、つくりすぎても困るし、そもそも発電量が不安定なので、その調整は非常に難しいですからね。

石川:やはり太陽光については、将来的には系統には入れずに、ローカルに蓄電しながら使っていくのがいいと思います。業界用語では「しわ取り」と言いますけれど、太陽光や風力の不安定な発電量をきれいに整えるのは、簡単なことではありませんからね。何万世帯分もの太陽光を系統に入れて調整に苦労するくらいなら、全部電池に入れて蓄電したほうが効率的でしょう。

山田:そうしたことをエネルギーシステムとして実現していくには、やはり政策の力が不可欠ですね。いま問題なのが、市場メカニズムで再エネの比率が増えるなか、それらが系統にどんどん流れ込んできていることです。再エネですから当然、大きく変動するわけですが、こうした電源の比率が増えれば増えるほど、コントロールは難しくなる。つまり、電力の安定供給や安全保障の観点から言えば、単にその時に安ければいいというわけではないんですね。それらをうまく制御して安定供給に資する技術自体は日立も持っているけれど、なにしろ現状はルールがないので、どうしようもありません。

石川:私はやはり制度をつくって、系統を持つ大手電力10社の送電部門に全権を委譲するのがいいと思っています。現場の状況をよくわかっている人たちに任せるのが一番うまくいく。また、政策決定の審議会などには、そうした技術を開発している企業と電力の運用をしている企業が入るべきです。現場で技術をつくっている人と運用する人が中心になってルールを決めるほうが、効率的だし、事故も起こりにくいですからね。現状はそうなっていないのがきわめて問題だと思っています。

事業環境整備により安定的な発電事業を

山田:そうした意味では、いまこそ発電事業に関する環境整備が求められていると思います。つまり、原子力の再稼働や新増設に関してルールができ、技術もあって、国民感情もついてきたとしても、本当にビジネスとしてちゃんと投資を回収できるのか、ということを危惧しています。自由化市場の中で発電事業として安定的な経営をしていくための事業環境整備の観点というのは、これまであまり議論がされてこなかったのではないでしょうか。

例えば、今後、その瞬間に安い電源の電力からどんどん系統に入れていくということになると、たとえ再稼働が進んだとしても、原子力の運用が難しくなる、ということも起こるかもしれません。原子力の場合、一定出力で安定的に動かすのに向いている電源であり、いまは間に合っているので必要ないです、といっても発電を止めるわけにいきませんからね。市場メカニズムを活用しつつも、安定供給のために原子力をしっかり使っていくような仕組みが不可欠だと思っています。

稼働中の原子力発電所の設備容量
出典:資源エネルギー庁の資料 第6次エネルギー基本計画より作成 推定容量は原子力の設備利用率70%と仮定

石川:やはり原子力発電の扱いをはじめ事業環境整備については、法律できちんと決めていく必要があると思います。また、経済の原則に立つということも非常に重要な観点です。日本が原子力に頼らざるを得ないのは、化石燃料輸入国だからです。アメリカや中国のように自国の領土や領海で天然ガスや石炭を産出できるのであれば、価格という意味では原子力を躍起になって進める必要はないでしょう。日本の場合は、安全保障と調達コストの観点から、原子力が相対的に安いと考えられています。ですから実際に、現在、再稼働して原子力がフル稼働している関西電力と九州電力エリアでは、他の地域に比べて電気料金が安いんですね。

山田:経済性については誤解も多いですね。

石川:確かに、太陽光や風力への期待は大きいけれど、何度も言うようにこれらは変動する不安定電源なわけで、主力電源として使うのは難しいのです。もし本気で再エネを伸ばしたいのであれば、再エネから得られた電気はすべて蓄電池に入れるくらい本気で取り組まなければ、進まないと思いますよ。

山田:現状、蓄電能力としてもっとも高いのは揚水発電ですね。原子力発電所1基分くらいの電力を賄うことができます。

石川:余談ですが、2022年3月22日の電力需給逼迫を救ったのは、実は揚水発電なんですよ。3月16日に福島県沖で発生した地震の影響で、東北、東京エリアの火力発電所が一時停止している最中、気温が下がったことで停電が心配されましたが、揚水発電によりことなきを得た。余力が大事だと気づくのは、余力がないとわかったときなんですね。

山田:また再エネの活用には、この対談の冒頭で触れた広域系統整備への投資が不可欠になります。系統の増強のためには6~7兆円の投資が必要というシナリオが描かれていますが、石川さんはこれでは足りないと考えているわけですよね?

石川:資材の価格にもよりますが、オリンピックや万博の例を見てもわかるように、何割増かになってしまうと思います。そもそも、政府の予算というのは低く見積もりがちですからね(笑)。まぁ、低く見積もっておくことで、政策に柔軟性を持たせることができるという面はあります。いずれにせよ、エネルギー政策については、経済の原則に立ちながら、安全保障や余力なども含めて、バランスを見て取り組んでいくことが不可欠だと思います。

広域系統整備の長期展望 (ベースシナリオ)
出典:広域機関の広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)を基に作成

重要なのは原子力・火力・再エネのバランス

山田:エネルギー問題の解決、そしてカーボンニュートラルの実現については、単に技術だけではダメで、改めて経済の原則に立つことと政策の役割が大きいと感じました。

石川:カーボンニュートラルというのは、技術革新を進め、経済成長を促すための掛け声ですからね。単にCO2を減らすというだけでは夢は持てないでしょう。そして、カーボンニュートラルを実現しつつ、経済の原則に立つのであれば、いつでも再稼働できる状態にある原子力発電プラントがあるわけですから、これを動かさない手はありません。

そこを原子力規制委員会に丸投げではダメで、国政と原子力発電所を擁する自治体が主導しなければ動かないと思います。最終的には内閣総理大臣の決断がきわめて重要になります。実際に、2012年に福井県の大飯原子力発電3、4号機を再稼働させたのは、当時、総理大臣だった野田佳彦首相でした。

もう一つ苦言を呈しておきたいのは、「規制」と「取り締まり」は違うということ。規制機関は物事を動かすための機関です。一方、取締法があるように、取り締まりの場合は、やってはいけないことを示すためのものです。だから、規制が足枷になって、本来、動かすべきものが動かせない、というのはおかしいと思うのです。

山田:せっかくいい技術があっても、規制によってビジネスで遅れをとる、ということが日本では多いですからね。

石川:日本は前例主義で、なんでも一番でやろうとしないですからね。フランスの場合は、誰もやらないからやる(笑)。これは僕自身が役人時代に、フランス人から直接聞いた言葉です。ぜひ、そこはフランスを見習ってほしい。

また、日本は精神論に偏向しがちですが、もっとコスト論を前面に出すべきだと思います。国民も、それを判断する政治を揶揄しないで応援してほしい。一方で、原子力の必要性を説明し、国民を説得するのは政治家の役割です。原子力、再エネ、火力をバランスよく使うことでしか、この国の発展はありません。三つ全部がそろうことで普通の生活が叶うということを、ぜひ、多くの方に知ってもらいたいですね。

山田:本日はエネルギー政策の核心に踏み込んだ議論をさせていただきました。長時間にわたり、ありがとうございました。

石川 和男
政策アナリスト
1965年 福岡生まれ
1984年〜1989年 東京大学工学部 資源開発工学科
1989年〜2008年 通商産業省・経済産業省
  (電力・ガス自由化、再生可能エネルギー、環境アセスメント、国内石炭鉱業合理化、産業保安、産業金融・中小企業金融、割賦販売・クレジット、国家公務員制度改革などを担当)
  (退官前後より、内閣府規制改革委員会WG委員、同行政刷新会議WG委員、東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授、東京女子医科大学特任教授、専修大学客員教授などを歴任)
2011年〜 社会保障経済研究所 代表
  (これ以降、多くの企業・団体の役員、顧問などに就き、現在に至る)
2020年9月〜2022年9月 経済産業省 大臣官房 臨時専門アドバイザー
2021年4月〜 北海道寿都町・神恵内村 地域振興アドバイザー
2022年4月〜 BSテレ東「石川和男の危機のカナリア」アンカー
●現在、テレビ・ラジオ・ネット番組などでコメンテーター、クイズ番組回答者として出演多数
●実業として、幼児・小学生・高齢者向け脳育事業、ベンチャー投資など
●著書に『原発の「正しいやめさせ方」』(PHP新書)など

山田 竜也
日立製作所・エネルギー事業統括本部・エネルギー経営戦略本部/担当本部長
電気学会 副会長、公益事業学会 正会員
1987年北陸電力株式会社に入社。1998年財団法人日本エネルギー経済研究所出向を経て、
2002年株式会社日立製作所に入社。エネルギー関連ビジネスの事業戦略策定業務に従事。
2014年戦略企画本部経営企画室部長、2016年エネルギーソリューションビジネスユニット戦略企画本部長、2019年次世代エネルギー協創事業統括本部戦略企画本部長、2020年より現職。

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