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株式会社ノークリサーチ

前回はクライアントPC管理の重要性について解説した。

小さなトラブルでも発生箇所が多ければ業務への影響は無視できない点や、クライアントPC管理に取り組むユーザ企業が相対的に高い業績を示す傾向があることをご理解いただけただろう。
クライアントPC管理への取り組みが大切であることがわかったところで、今回は「具体的にどういった手段を取れば良いのか?」について考えていくことにする。

既存のクライアントPCをそのまま利用するケースが大半

まず、クライアントPCで発生する様々なトラブルを解消する手段として考えられるのは「クライアントPCそのものの在り方を変える」というものである。

そもそもクライアントPCで個人情報漏洩が起きるのは、個々の社員が利用するクライアントPCにデータが格納されているからだ。また、データを格納しようとするから記憶装置(ハードディスクなど)が必要となり、それに起因する故障などのトラブルも発生することになる。

こうした状況を打開するために「クライアントPCを単なる画面表示とキー/マウス操作の箱と見なし、データは全て安全な別の場所に格納する」という発想が生まれてきた。

それを実現する例が「シンクライアント専用機」と「オンラインデスクトップサービス」である。

シンクライアント専用機とは?

シンクライアント専用機とは通常のクライアントPCをシンプルにし、画面表示とキー/マウス操作だけを残したものである。データやアプリケーションは全てサーバなどの別の場所に格納され、ユーザが利用するシンクライアント専用機との間はネットワークで接続される。クライアントPCの本体とディスプレイ/キーボード/マウスが分離した形と思えば良いだろう。

オンラインデスクトップサービスとは?

昨今、メールやグループウェアといったアプリケーションをサービスとして提供するASP/SaaSが注目を浴びている。オンラインデスクトップサービスとはクライアントPCの環境(WindowsなどのOSを含めた丸ごとの環境)をサービスとして提供するものだ。
ユーザは通常のクライアントPCを利用するが、シンクライアント専用機と同様にデータやアプリケーションは全てインターネットを介したサーバ側に格納される。「DaaS(Desktop as a Service)」と呼ばれることもある。

これらはいずれも「クライアントPCにデータを格納しない」という点ではクライアントPC管理における根本問題を解決する対策といえる。しかし、その一方で様々なデメリットもある。

具体的には

シンクライアント専用機に関しては
 ・既存のクライアントPC機器を入れ替えなければならない
 ・データやアプリケーションを格納するサーバ側の投資も別途必要になる
 ・サーバ側の運用管理ノウハウを新たに習得する必要がある

オンラインデスクトップサービスに関しては
 ・月額課金となるため、場合によっては従来よりもトータルコストが高くなる
 ・ネットワーク接続ができない状況では業務の遂行が難しくなる
 ・まだ事例が少なく、運用管理ノウハウが蓄積されていない

といったものだ。また、両者に共通するものとして

 ・既に利用しているアプリケーションや周辺機器が利用できるかどうかの確認が必要

といった点にも注意が必要だ。

特にクライアントPCに直接接続する形で長年利用しているプリンタなどは上記の手法では利用できない可能性がある。シリアルインターフェースで接続するドットインパクトプリンタはその典型例だ。複写伝票印刷ではドットインパクトプリンタを利用するケースもまだ少なくないため、十分注意しておく必要がある。

このように「シンクライアント専用機」「オンラインデスクトップサービス」のいずれに関しても、必要となるコストや導入の手間という面では中堅企業にとってやや敷居が高いのが現状である。

以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業に対して「望ましいクライアントPCの形態」を尋ねた結果である。既存のクライアントPCを継続利用したいと考えるユーザ企業が多いことがわかる。

望ましいクライアントPCの形態

これらの結果を踏まえると、クライアントPC管理に取り組む際には「クライアントPCの形態を変更せずに、既存の環境をそのまま継続利用する」という方策が現時点では最善といえるだろう。

クライアントPC管理ソフトウェアの活用が現実的

次に「既存クライアントPCに対して、どのような管理手段を講じるべきか?」を考えてみることにしよう。ここでも幾つかの選択肢が存在する。

既存クライアントPCのままでシンクライアント的な効果を得る

最も一般的な方法である。
既存クライアントPCにクライアントPC管理ソフトウェアを導入して利用する。既存のクライアント環境を維持できるという点では最も確実で手軽な手法といえる。

デスクトップ仮想化やアプリケーション配信を活用する

デスクトップ仮想化についてはWindows Server 2008 R2で導入された「VDI(Virtual Desktop Infrastructure)」、ヴイエムウェアの「VMWare View」、シトリックス・システムズ・ジャパンの「Xen Desktop」などが代表例である。
実現できることはシンクライアント専用機に近いが、通常のクライアントPCでも利用が可能だ。
アプリケーション配信の代表例としてはマイクロソフトの「App-V」が挙げられる。アプリケーションを安全に利用できる形式に変換(パッケージング)してクライアントPCへ届けることで、アプリケーションの管理負荷を軽減することができる。

Active DirectoryなどOSの範囲内での機能を活用する

Windows OSを搭載したサーバとクライアントPCを利用している場合にはWindows OSが標準で備えるActive Directoryを活用するという方法もある。
グループポリシーと呼ばれる管理項目を設定することで、どのクライアントPCにどのような操作を許すかを制御することができる。Windows OSを利用するユーザ企業であれば、新たな費用をかける必要がないというメリットがある。

このように既存のクライアントPCをそのまま利用する場合でも、様々な選択肢がある。

では業績の良いユーザ企業はどの手法を採用しているのかを見てみることにしよう。
以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業に対して「検討中のクライアントPC管理手法」を尋ね、その回答別に「2009年5月時点と2009年8月時点を比較した時の経常利益の増減」を尋ねた結果である。

検討しているクライアントPC管理手順と業績との関係

「Active DirectoryなどOSの範囲内での機能を活用する」を選んだユーザ企業は「経常利益が10%以上増加」と答える比率も高いが、「経常利益が10%以上減少」の比率も高い。

Active Directoryの活用は新たな導入コストが不要である一方、ある程度の技術スキルが要求される。そのため十分なスキルを持った情報システム担当を擁するユーザ企業(業績の良い企業)と無償の範囲内で最低限の対応をしているユーザ企業(業績の良くない企業)に二極化しているものと推測される。

「デスクトップ仮想化やアプリケーション配信を活用する」を選んだユーザ企業は「経常利益が10%未満で増加」と答える比率が高く、「10%以上の経常利益減少」の割合も低い。

この結果だけをみると、「デスクトップ仮想化やアプリケーション配信を活用する」手法が最も理想的であるようにも見える。だが、この手法はまだ新しく、ノウハウも蓄積されていない。「デスクトップ仮想化やアプリケーション配信を活用する」という手法が業績改善においても有効というよりは、業績の良いユーザ企業が積極的なIT投資を行っている実例と捉えるべきだろう。つまり、現時点では大多数のユーザ企業が選べる手法というわけではない。

これらの結果を踏まえると、「既存クライアントPCのままでシンクライアント的な効果を得る」という手法が無難であることがわかる。つまり、既存のクライアントPCに運用管理ソフトウェアを導入するという選択が最も現実的であるということになる。

実際にどんな機能を持った運用管理ソフトウェアを選ぶべきか?については本コラムの第17回で詳述しているので参考にして欲しい。第17回でも取り上げたが、大企業における豊富な実績と中堅・中小企業の利用実態に即した使い勝手や導入のしやすさを実現しているという点で日立製作所の「JP1/Desktop Navigation」はその好例といえるだろう。

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