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株式会社ノークリサーチ

第8回では、現在一般業界においても注目を集めている「SaaS(Software as a service)」を取り上げる。

SaaSは「グリーンIT」や「統合化・仮想化」といったテクノロジーと共に重要な存在である。いわばASP(Apprication Service Provider)モデルのパラダイムシフトとして登場したSaaSは、06年以降一斉に関連メディアで取り上げられ、SaaSの代名詞的企業及び追随企業の攻勢、経済産業省や総務省など政策立案者による普及推進表明も追い風となっている。

話題として尽きることのないSaaSであるが、実際ユーザの視点に立つと、それがバズワードと認識されることも少なくない。

しかし、ここでは「ASP=ASPの名義変えとしてのSaaS」という短絡的な論理を持ち出すことはしない。かねてから弊社がSaaS普及のメルクマールと考えてきた「コモディティ化」、「セキュリティ」、「マッシュアップ」という3要素についてその是非を検証し、今後中堅企業にSaaSがどのように関わってくるかを展望してみることにする。

なぜSaaSか?

数多くのベンチャー企業が出現して盛り上がったASPは失敗に終わった。その原因は大きく次の3点にまとめられ、そのほとんどがASP提供側の問題であった。

(1) インフラ、アーキテクチャに起因した障壁
(2) ビジネスモデルに起因した障壁
(3) アプリケーション性能、操作性に起因した障壁

(1)については、技術的な話であり、具体例はいくらでも挙がる。
ブロードバンド環境の不備、データセンターの堅牢性、空調設備や各種防災設備、耐震構造、無停電電源装置、高度なセキュリティ管理、インターネット接続料金+通信費用+ASP利用料金でトータルコスト高、シングルテナント形式によるコスト高、ソフトウェアのバージョン管理、コードベースの混在など、普及のために解決すべき課題があまりに山積していた。

(2)については、ASPモデル構築には高額な初期投資が求められる割に、収益となる月額料金は低額という、ASP提供側の損失の上にユーザ企業の利便が圧し掛かる構図を脱却できなかったことを意味する。それ以前に不況下でのIT投資意欲低下という避けられない事情があったわけであるが。

(3)については、パッケージソフトを単にサーバに載せ、フロント部分をHTML化したに過ぎないサービスが主流であり、その操作性はおろか、利用価値そのものが疑わしいものが少なくなかった。

これらのうちで、特にブロードバンド環境の充実に伴いネットワークコストの低下が実現したこと、マルチテナント形式という技術進歩を見たこと、操作性向上とともに自社の既存システムを考慮の上カスタマイズが可能となったことによって、あえて「ASP」から「SaaS」という名義変更を経て、改めて「ソフトウェアは保有するものでなく今後は利用するものである」という論調が尊ばれるようになったのである。(図1)

SaaSは「グリーンIT」や「統合化・仮想化」といったテクノロジーと共に重要な存在である。いわばASP(Apprication Service Provider)モデルのパラダイムシフトとして登場したSaaSは、06年以降一斉に関連メディアで取り上げられ、SaaSの代名詞的企業及び追随企業の攻勢、経済産業省や総務省など政策立案者による普及推進表明も追い風となっている。

話題として尽きることのないSaaSであるが、実際ユーザの視点に立つと、それがバズワードと認識されることも少なくない。

しかし、ここでは「ASP=ASPの名義変えとしてのSaaS」という短絡的な論理を持ち出すことはしない。かねてから弊社がSaaS普及のメルクマールと考えてきた「コモディティ化」、「セキュリティ」、「マッシュアップ」という3要素についてその是非を検証し、今後中堅企業にSaaSがどのように関わってくるかを展望してみることにする。

図1.ASP/SaaS比較

SaaS普及の阻害要因は?

現在企業におけるIT環境は、かつての「集中から、分散へ」という流れから、再び「集中へ」という揺り戻し現象が起きつつあることを前回(第7回)指摘したが、この現象と同時にとりわけソフトウェアの利用環境にも変化が起ころうとしている。
それは「ソフトウェア自前主義」からの脱却だ。 自社のコンピュータに専用のソフトウェア環境を整え、適正に稼動するよう運用管理するという一連の流れで生じる「負荷」を第三者に委託し、コアビジネスに資源を集中させようという考えだ。そのテクノロジーとしてSaaSが担う役割が大きいと見なされているわけだ。

しかし、SaaSの利用率は07年時点で16.1%、検討している割合は29.8%である。過去2年の数値と比較してもさほど変化は見られない。(図2)

図2.ASP/SaaS利用率推移

早くもユーザ企業とSaaSの推進側とに温度差を認めざるを得ないのは、SaaS普及の阻害要因が依然として残されているからだ。 しかし、阻害要因は裏を返せば乗り越えることで普及の足がかりとも考えられる。
それが冒頭に指摘した「コモディティ化」「セキュリティ」「マッシュアップ」の3要素だ。

ITの「コモディティ化」(かつてはユビキタスと言われていた)は今になって求められる話ではない。
例えば、ERPであっても今でこそ中堅企業が等しく自由に選択できるだけのヴァリエーション、低価格化が進行したが、当初は大企業の占有物と見なされていたはずだ。もちろんこれはITに限った話でなく、商品市場の黎明期には独占、寡占状態がしばらく続くものである。
SaaS市場についても例外ではない。アーリーマジョリティとしてセールスフォースドットコムが一人勝ちのような状態だ。いずれ大企業からSMBへとターゲットが拡大するにつれて、多くのアプリケーションが揃うことになることに疑念はないだろう。

続いて「セキュリティ」であるが、セキュアなホスティングサービス/サポートが担保されることは言わずもがなの絶対条件である。ITの自前主義の脱却は同時にデータの外部保存をアクセプトする姿勢が要求される。ここに躊躇があることは大きな阻害要因となってしまう。 最もハードルの高い要素とも考えられるが、データセンターの堅牢性と「情報に向かう姿勢」はASP以降施行された様々な法律によっても堅実なものとなっているのは確かだ。

そして「マッシュアップ」であるが、我々はERPを始め、あらゆるITにおいて「システムの連携「「データの連携」を実現する技術を目撃してきたし、その恩恵こそITがもたらした革命とも考えてきた。 この状況でSaaSが単体のネットワークサービスに留まることは時代が要求するところではない。既存システムとの連携可能なメニュー(単体アプリケーションの提供ではなくマッシュアップ可能な先進性を持つ)が豊富に取り揃えられることも絶対条件である。

SaaSはWin-Win関係実現に一役買うか

以上見てきたような阻害要因を排除することは、中堅企業のIT環境の革新へ直結することになるだろう。これまでコアビジネスとは無関係な方向で発生していた「運用管理負荷」を軽減し、企業全体としてより効率的な資源配分を行うことが可能となるだろう。ITシステムの不断の稼動が目的化するという現在の閉鎖的、後退的な企業のIT環境を、開放的、前進的なそれへと導くことになるはずだ。

一方でSaaS提供側は、需要の高いソフトウェアのSaaS化によって一斉にマスを取り込むような戦略を立てなければならない。技術進歩がかつてのASPに比べ初期費用低下をもたらしたとはいえ、低価格な月額料金を基盤にした売上との兼ね合いで採算を取るには、実績あるソフトウェアとの柔軟な連携、換言すれば徹底的なパートナー戦略が要求されることになるだろう。

SaaSという言葉が独り歩きし、もてはやされる状況の裏には、一筋縄ではいかないビジネスモデルの変容がベンダに要求されている事実がある。「企業の戦略的なツールになるべき」というITの本来的な目的を忘れ、「如何にITという商品を売って儲けるか」ばかりを追求するようなご都合主義は金輪際通用しなくなるだろう。

ただし、ASPとの比較表現にはなるがSaaSはITによるユーザ企業の経営発展と同時に、既述の技術進歩を背景にSaaS提供側が利益創出のビジネスモデルをより自在に構築出来ることも示してはいる。かつてのASPでは技術的に追いつかなかったが故に夢に終わったベンダとユーザ企業のWin-Win関係実現、その媒介としてSaaSが一役買うことは間違いないだろう。

特記事項

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