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Hitachi

プラスチックのリサイクル材利用拡大に向け、
プラスチック成形プロセスの条件を自動で最適化するAI技術を開発

リサイクル材を射出する金型内に設置したセンサから、機械学習に適した特徴量の抽出に成功、
特性が変動するリサイクル材に対し成形品の品質を自動で安定化可能なことを実証

2022年3月31日
株式会社日立製作所

日立は、プラスチックのリサイクル材利用拡大に向け、プラスチック成形プロセスの条件を、自動で最適化するAI技術を開発しました。本技術により、リサイクル材の特性がロット間で変動しても、金型内に設置したセンサの情報を用いて成形プロセスを制御することにより、成形品の品質安定化が可能なことを実証しました。日立は本技術を様々なリサイクル材に適用することで、廃プラスチックを削減し、サーキュラーエコノミー実現に貢献します。

近年、プラスチックの大量消費に起因する温室効果ガス発生、石油資源枯渇、環境汚染等がプラネタリーバウンダリー*1に関わる重要な課題と認識され、プラスチックの3R*2が地球規模で推進されています。プラスチックのリサイクル材は多様な廃材から作られるため、不純物の混入などによりロットごとに特性がばらつく場合があります。特性が変動するリサイクル材を用いて新たなプラスチックを成形すると品質の制御が困難になるため、従来は、特性変動の少ないリサイクル材が使われ、他のリサイクル材の利用拡大が進まない問題がありました。ロットごとに特性が変動しやすいリサイクル材を利用するためには、プラスチックを成形する際に、熟練した作業者がリサイクル材の特性に応じて成形加工のプロセス条件を細かに調整する必要があり、実用化が困難でした。
日立は、リサイクル材を射出する金型内に設置したセンサの情報を用いて、リサイクル材の特性変動を、機械学習に適した特徴量*3として抽出することに成功しました。さらに、特性が変動するリサイクル材に対し、この特徴量を活用することで、プラスチック成形品の品質を作業者の熟練度に依存せずに自動で安定化可能なことを初めて実証しました。具体的には、ロット間で特性が変動するリサイクル材の5ロットに本AI技術を適用したところ、図1に示すように全てのロットにおいて、最適化後のプロセス条件で成形したプラスチックの重量が目標値に近づきました。

本成果の一部は2022年4月11日から15日に開催される37th INTERNATIONAL CONFERENCE of the POLYMER PROCESSING SOCIETYで発表する予定です。

図1 リサイクル材のロットごとに成形プロセスの条件を自動で最適化することで、成形品の品質変動(重量バラつき)を低減した実証結果

図1 リサイクル材のロットごとに成形プロセスの条件を自動で最適化することで、成形品の品質変動(重量バラつき)を低減した実証結果

開発した技術の詳細

今回開発したプラスチックの射出成形プロセス*4に対する自動最適化AI技術は、量産前に実施する学習モードと、量産中に実施する逆解析モードで構成されます(図2)。学習モードでは、学習データベース構築技術(後述)により蓄積された学習データを基に、リサイクル材の特徴量と成形プロセス条件から成形品の品質を予測するモデルを構築します。予測モデルの構築には、機械学習を活用しますが、複数の機械学習アルゴリズムを検討した上で、その中から最適なアルゴリズムを自動で選択します。また逆解析モードでは、成形品の品質予測モデルとリサイクル材の特徴量から、最適なプロセス条件をモデルの逆解析*5の手法により求めます。

図2 プラスチック成形プロセスの自動最適化AI技術

図2 プラスチック成形プロセスの自動最適化AI技術

成形品品質の予測モデル生成に必要な学習データベース構築技術

成形品品質の高精度な予測モデルの生成には対象に適した学習データベースの構築が必須であり、それには成形プロセスの制御に関わる高度な知識が求められます。今回、プラスチックの成形プロセス条件と成形品の品質(重量)およびリサイクル材の特性の関係を表す学習データベース(以下DB)を構築する技術を開発しました。学習DBは、プロセスDBと特徴量DBの二つを結合することで構築されます(図3)。まず、プロセスDBは、成形プロセスの専門知識(ナレッジ)に基づく実験計画法*6を用いて、成形プロセス条件とリサイクル材のロットを変更しながら成形を行い、成形プロセス条件と成形品の品質とを結びつけるデータを入力しました。次に、特徴量DBは、リサイクル材のロットごとに同じプロセス条件で成形しながら、金型に搭載した圧力・温度等の各種センサからリサイクル材の特性に相関する特徴量を抽出して入力します。プラスチックの成形誤差を補正する技術*7など研究開発を通して日立が培ってきた射出成形のナレッジを適用することで、センサデータから初めて本特徴量を抽出することができました。

図3 成形品品質の予測モデルに必要な学習データベース構築技術

図3 成形品品質の予測モデルに必要な学習データベース構築技術

*1
プラネタリーバウンダリー: 人類が生存できる安全な活動領域とその限界点を定義する概念。地球の限界、あるいは惑星限界とも呼ばれる。
*2
3R: 以下3つの語の頭文字をとった言葉で、環境配慮・廃棄物対策に関するキーワードである。 Reduce:減らす Reuse:繰り返し使う Recycle:再資源化。
*3
特徴量: 分析すべき対象物の特徴・特性を定量的に表した数値。機械学習による予測や判断の精度を高めるためには、必要な特徴量のみを適切に選択することが重要。
*4
射出成形プロセス: 樹脂を加熱して溶融させ、圧力を加えて金型に充填させて目標形状に成形する加工方法。
*5
モデルの逆解析: 説明変数Xから目的変数Yを予測するモデルY=f(X)に対し、Yの値からXの値を推定すること。
*6
実験計画法: 実験条件が複数考えられる実験において、効率のよい実験候補を設計する手法。
*7
成形誤差補正技術: https://www.hitachi.co.jp/rd/news/topics/2020/0226.html

照会先

株式会社日立製作所 研究開発グループ