計測データを高精度・リアルタイムに補正するアルゴリズムにより、簡便な機器でトレーニングの効果を点数化、モチベーションの維持とメニューの組立てをサポート
2021年11月26日
株式会社日立製作所
図1 トレーニング効果評価システムの利用シーン
日立は、誰もが心身ともに健康でいきいきと暮らせる社会の実現をめざし、老人ホームなどの高齢者施設において、楽しみながら転倒予防トレーニングを継続して行うことができるトレーニング効果評価システムを開発しました(図1)。本システムは、市販の三次元カメラを用いてトレーニング中の関節の位置を計測し、筋骨格解析*1に基づきパワー・柔軟性・瞬発力・持続力・疲労度の5つの観点*2で、トレーニングの効果を高齢者が実感できるように点数化します。その結果、運動機能向上への関心が高まり、楽しみながらトレーニングを継続できるようになります。また、本評価システムにより、トレーナーは高齢者一人ひとりに合わせたトレーニングメニューを組むことができ、トレーナーと利用者が楽しく会話しながら日々のメニューを実行することが可能となります。今後、日立は、様々なお客さまとの実証実験を重ね、本評価システムの精度を高めるとともに、利用者が心から楽しめるサービスとして広く提供することで、人々のQoL*3向上に貢献していきます。
高齢者に介護が必要となる原因の1つは筋力低下に起因する転倒・骨折であり*4、その予防には筋力トレーニングの継続が有効とされています。高齢者施設などでトレーニングを行うためには、設備導入のコストを抑え、高齢者一人ひとりに合わせたトレーニングメニューを組むことや、トレーニングに対するモチベーションの維持・向上が課題として挙げられます。日立は、市販の三次元カメラを用いてトレーニングの効果を高齢者が実感できるように点数化し、楽しみながらトレーニングを継続することで心身ともに健康を保てるトレーニング効果評価システムを開発しました。本システムの特長は、以下の通りです。
臨床研究やプロスポーツのデータ解析では、人の動作や関節位置を高価なモーションキャプチャシステムなどを用いて三次元で計測し、筋骨格解析により運動時の筋肉の活動を評価します。このような用途では、関節位置の計測にミリメートル単位の正確性が要求されます。一方、本開発では、老人ホームでも簡単に導入できるように、市販の三次元カメラを用いて関節位置を計測します。しかし、三次元カメラでは計測結果にばらつきが生じ、筋骨格解析の精度が低下する問題がありました。そこで日立はこれを解決するため、計測した関節位置を、人体の構造と生体力学的な特性に基づき高精度かつリアルタイムで補正する、骨格座標補正アルゴリズムを開発しました。本アルゴリズムでは、ヒトの骨は剛体であるため動作中に関節間の長さが不変であること、および、ヒトの関節位置は滑らかに移動することを制約条件に加えた最適化問題を解くことで骨格座標を補正します。本技術により、補正前と比べ、計測結果のばらつきを約3分の1に低減できます。また、市販の三次元カメラを用いることで、評価システムを簡便に低コストで導入可能になります。
転倒予防に効果的な筋力トレーニングの継続には、利用する高齢者のトレーニングに対するモチベーションの維持・向上が必要です。本評価システムでは、利用者の足元に置いたパネルの点滅に合わせパネルを踏むという楽しく簡単な動作だけで筋肉の活動を評価します。その際、筋骨格解析で得られた関節にかかる力やモーメント*5の時系列データを、パワー・柔軟性・瞬発力・持続力・疲労度の5つの観点で指標化します。また、本指標をもとにトレーニングの総合得点を算出・表示します。これにより、高齢者がゲーム感覚で楽しみながらトレーニングに参加できるとともに、現在の得点を過去と比較し日々の改善を実感することで、トレーニング継続のモチベーションを維持・向上できます。
実際に本評価システムを用いて、老人ホーム入居者のうち参加希望者6名に被験者となっていただき、3週間効果検証を行ったところ、被験者6名のうち5名においてトレーニング継続に対するモチベーションの維持・向上が確認されました(図2(1))。また、被験者に対するアンケートでは「またトレーニングしたい」という意欲的な回答も寄せられました(図2(2))。
図2 本評価システムの効果検証結果