2021年3月31日
株式会社日立製作所
日立は、快適な音環境づくりをめざし、3次元音響伝播モデルに基づいて新たに設計した27chマイクロホンアレイを用いて現場の音環境を収録し、HMD (Head Mounted Display)やマルチチャンネルスピーカなどで高臨場に再生する技術を開発しました。さらに本技術では、収録/再生に加えて、音の到来方向や強さを解析して可視化することができるため、音情報を360度カメラで撮影した全方位映像に重ねることで、どの場所から音が発生しているかなどの現場の状況を視聴覚的に体感することが可能です。今後、本技術と音響シミュレーションを組み合わせた音環境設計技術の開発を進め、都市空間や居住空間などに適用していくことで、例えば、相手の声が聞き取りやすく人とのコミュニケーションが取りやすいといった、人にやさしい快適な生活空間づくりに貢献していきます。
本成果は2020年8月17日~8月19日にオンライン開催された2020 AES International Conference on Audio for Virtual and Augmented Realityで発表。(タイトル:Tesseral Array for Group Based Spatial Audio Capture and Synthesis)。
本成果は、東京藝術大学の亀川徹教授、丸井淳史教授との共同研究により得られたものです。また、ひたちなか海浜鉄道株式会社殿のご協力により、鉄道車両の車内やプラットフォームの音環境を収録しました。
従来、音環境の設計のためには、音の到来方向に対して指向性を持たない全指向性マイクロホン(サウンドレベルメータ)で計測される音圧レベルを評価指標の1つとしていました。しかし、ヒトは指向性を持つ2つの耳で全方位から到来する音を聴取するため、音圧レベルと主観的な音環境の印象が異なるという課題がありました*1。本技術では、ヒトを中心とした3次元の音響伝播モデル*2に基づいて決定した、等軸晶系*3の幾何学配置を持つ26チャンネルの指向性マイクロホンアレイと、アレイ中心に備えられた1チャンネルの全指向性マイクロホンを用いることで、全方位から到来する音を収録する技術を初めて開発しました。これにより、収録した27チャンネルの音をマイクロホンアレイに相似の26.1マルチチャンネルスピーカ*4で直接再生したり、2チャンネルの音に変換してヘッドホンで再生したりすることで、まるでその場にいるかのような高臨場感音響を体験できるようになります。さらに、360度カメラを使って映像も収録することで、遠隔地の音環境を、視覚的情報も含んだ形で主観的に評価できるようになりました。
快適な音環境の実現に向けた施策を講じるためには、音の到来方向や強さなどの音の情報を理解することが不可欠です。しかし、音は目に見えるものではないため、相当に熟練した音の技術者による分析が必要でした。そこで、音の物理的な情報の理解をより簡単に行うため、収録した27チャンネルの音を分析して、音の到来方向と強さを解析し、可視化する技術を開発しました。本技術は、まず、等軸晶系の幾何学配置を持つ指向性マイクロホンアレイが球面状であることを利用して、複数の球面調和関数*5を用いて収録した音を再構成します。つぎに、それぞれの球面調和関数を重み付けし、特定の方向からの音の強さを求める鋭い指向性を構成します。そして、その指向性の方向を変化させて、全方位をスキャンすることで、音の強さを方向別に分解します。このようにして得られた音の強さの大小をカラーマップとして可視化するとともに、収録した360度映像に重ね合わることで、全方位の音の可視化を実現します。これにより、聴覚的な高臨場感音響の体感に加えて、音の到来方向や強さといった情報を視覚的に明らかにして、音環境に存在する音の物理的な情報が容易に理解できるようになりました。