熟練技能の暗黙知を見える化し、現場の生産性向上や技能伝承支援に貢献
2021年3月29日
株式会社日立製作所
日立は、現場の生産性向上と、溶接熟練者の世代交代に伴う人財不足の解決に向けて、溶接熟練者の高度なノウハウをデジタル化してロボットに搭載する自動化技術を開発しました。本技術では、溶接熟練者が有する暗黙知を見える化し、高精度でロボット動作に置き換えることで、これまで難しいとされてきた突き合わせる二つの部材の間に生じたギャップを埋めるなどの複雑な溶接作業を自動化できます。今回、溶接ロボットのプロトタイプを構築して作業を行ったところ、溶接熟練者とほぼ同等の品質で溶接できることを確認しました。今後、日立は、お客さまとともに本技術を活用した実証実験や技術開発を行い、製造現場の生産性向上や溶接熟練者の技能伝承に貢献していきます。
図1 溶接熟練者のノウハウデジタル化による自動化
本成果の一部は溶接学会21年度春季全国大会にて発表予定
溶接動作に伴うトーチ*1の動きは、溶接条件と並んで、溶接品質管理に重要な要素となります。従来では、カメラ画像などによりトーチの動作解析が行われていましたが、溶接ではアーク*2発生時に強い発光現象を伴うため高精度で計測することが難しいという課題がありました。そのため、溶接動作を高精度センシングする新たな手法が必要でした。今回、溶接者の視線やトーチを動かす位置、高さ、速度などの条件と、溶接部の状態を複数のカメラやモーションキャプチャでセンシングし、溶接作業を定量化する技術と、その定量化したデータを可視化する技術を開発しました。これにより、従来の画像解析などのmmオーダーの解像度に比べ、約±0.1mmの高精度での計測が可能となりました。
高精度で計測した溶接者の動きをロボットの制御に組み込むためには、その動きを制御に適用可能なモデルに変換する必要があります。そこで、溶接状態の変化に応じた溶接者の適応動作を計測し、その動きをモデル化しました。例えば、溶接する二つの部材の間(突合せ面)には、部材の寸法誤差や溶接による変形などによりギャップが発生しやすくなります。このギャップは溶接品質に影響する重要因子であるため、溶接者はギャップの変動に応じて、欠陥発生を抑制するために特異なトーチの動作を行います。そこで、ギャップを模擬した試験片に対し、溶接者の適応動作を計測することで、ギャップの変動に対応可能なロボットの制御条件のモデルを構築しました。
溶接者は目視で開先のギャップを検知し、その変化に応じて溶接トーチの動きを制御することから、その高度な動きをロボットで実現するには、この開先ギャップを高精度で検知し、その変動をロボットの制御に適応することが求められます。そこで、溶接部の近傍情報を、深層学習の画像処理手法を用いて、アークが発生する環境でも高精度で直接計測する技術を開発しました。
測定誤差の要因となるスパッタ*3を除去する、画像処理アルゴリズムを開発し、深層学習モデルを利用することで、溶接部の近傍情報をロバストに計測できるようになりました。
PC*4、PLC*5、溶接機、ロボットをソケット通信でリンクさせ、その情報を一元管理することで、溶接動作と溶接機出力を同期制御可能なフィードフォワード制御の溶接技術を開発しました。
これにより、溶接者の動作をロボットの自律制御で再現する自動化の基礎検討を完了しました。