充放電回数を最大60%増加、蓄電システムのライフサイクルコストの削減めざす
2021年3月23日
株式会社日立製作所
日立は、脱炭素社会のキーコンポーネントとなるリチウムイオン二次電池(以下、LIB)のライフサイクルコスト削減に向け、マテリアルズインフォマティクス*1(以下、MI)技術を活用して、難揮発性と化学耐久性を両立する有機固体電解質(図1)を開発し、長寿命なLIBの試作に成功しました。充放電サイクル試験*2を行ったところ、従来の有機電解液を用いたLIBに比べて、充放電の回数を最大で60%増加(寿命は約1.6倍に延伸)できる見通しを得ました。今後、日立は、パートナーとともに本電解質を用いたLIBの実用化や蓄電システムへの適用、普及をめざすとともに、自動車、鉄道などのあらゆるモビリティの電化、再生エネルギー連携グリッドの系統安定化を推進し、脱炭素社会の実現に貢献していきます。なお、本成果の一部は「リチウムイオン電池向け高耐熱電解質の開発」として、社団法人電気化学会 技術賞(棚橋賞)を受賞しました。
図1:長寿命有機固体電池概要
本成果の一部は、社団法人電気化学会 技術賞(棚橋賞)の受賞講演として、2021年3月23日にオンラインで開催の第88回大会にて発表
本研究の一部は、防衛装備庁安全保障技術研究推進制度委託事業[JPJ004596] の一環として実施されたものです。
有機固体電解質に用いるリチウムイオン伝導性液体は、安全性を担保するための難揮発性溶媒と高濃度のリチウム塩からなる濃厚溶液、スムーズな充放電反応を進行させるための低粘度化溶媒から構成されます。既開発の従来有機固体電解質を用いたLIBに対し高度分析を実行することで、充放電サイクル時に難揮発溶媒(テトラグライム、図2(a))と低粘度化溶媒(炭酸プロピレン)が電極上で分解することで電池容量が低下することを明確化しました。
続いて、劣化要因である難揮発溶媒の高耐久化をめざし、MI技術を用いて候補材料を選定しました。揮発温度の高い溶媒群に対し、分子軌道計算を用いて化学安定性パラメータを算出し、既開発材に比べ高耐久が見込める電解質材料を抽出しました。
1で抽出した電解質材料のひとつであるスルホラン(図2(b))を用いた有機固体電池を、横浜国立大らと共同で開発しました。横浜国立大が見出したスルホランに特有の分子間のLiイオンのホッピング伝導に着目し、これを有機固体電解質に適用したところ、選択的にLiイオンが伝導することを確認しました。その結果、Liイオンの高い伝導性を維持しつつ低粘度化溶媒を60%削減した有機固体電解質の設計・作製に成功しました。
図2:従来および新規電解質の模式図と特徴
以上にて開発した有機固体電解質を、リチウムイオン電池に適用したところ、充放電サイクル時の容量維持率を向上し、自社にて評価した有機電解液電池に比べてサイクル寿命が60%改善する見通しを得ました。さらに、その揮発温度が従来有機固体電解質(105℃)から140℃まで改善する*6ことから、LIBの耐熱性、安全性向上も期待されます。