悪路でも走破性の高いクローラー型走行機構で正確な位置制御を低コストに実現
2021年2月26日
株式会社日立製作所
日立は、走行しながら周囲の物体位置を記憶して地図を生成する技術と、走破性の高いクローラー型走行機構*1で屋内外で高い位置精度を実現する技術を組み合わせた自律走行ロボットを開発しました。本ロボットは、遠隔地や災害発生時、さらにパンデミックや人員不足などの影響で人が現場に赴くことが困難な場合に、巡視作業を代替することが可能です。本ロボットをインフラ設備の巡視に適用した場合、モデルケースで人手による作業量を約75%削減できる見通しを得ました。
本ロボットは2020年11月に開催されたHitachi Social Innovation Forumの紹介動画”日本企業初 WEF(世界経済フォーラム)より Lighthouse に選出された大みか事業所”で世界に紹介されました*2。
図1:開発したクローラー型自律走行ロボット
ロボットによる巡視を実現するためには、自律走行ルートを記憶した地図と、地図上におけるロボットの位置を推定する技術が必要です。自動車の自動運転に通常用いられる地図は、専用の高精度センサを搭載した車両を用いて生成するためコストを要します。日立は、ロボットが走行する領域および経路の情報を記憶することで自身で地図を生成する技術を有しているため、これを巡視用ロボットに適用し、追加コストなしで屋内外の巡視経路の地図を生成、および自己の位置を推定する技術を開発しました。具体的には、あらかじめ生成した巡視ルートの地図に記録された障害物の特徴と、実際の巡視走行時にロボットに搭載されたセンサから得られた周辺情報と走行軌跡を用いて生成された地図の障害物の特徴とを統計的にマッチングさせる方法を新たに開発し、巡視ルートへの追従を低コストに実現しました。
図2: 自律走行用の地図生成および自己の位置を推定する技術
地図に従い自律走行する際、地図上での位置を正しく把握することと、把握した位置に従い地図上のルートに沿って高い位置精度で走行することが必要です。自動車の自動運転では通常、地図上での位置の把握にGNSS*3やLiDAR*4といったセンサが用いられますが、GNSSは電波が届かない場所や屋内では利用できず、LiDARは周囲に特徴的な物体(ランドマーク)が存在しないと利用できません。また、今回採用したロボットは悪路でも高い走破性を実現できるクローラー型の走行機構を採用しており、駆動輪とクローラーベルト間の伝達遅れや、地面での滑り等による誤差が発生し、これまでは走行時の位置精度を高めることが困難でした。そこで日立は、(1)前述のGNSSとLiDARを融合することで屋内外の巡視ルート上での自身の位置を推定する技術、および、(2)巡視ルートからの位置ずれ量*5に基づいて屋内外の巡視ルートに追従可能な走行制御技術を新たに開発しました。さらに、駆動輪とクローラーベルト間の伝達遅れや滑りを補償するフィードフォワード制御およびフィードバック制御技術を開発しました。上記制御技術を実装し走行モデルルートにおいて目標と実際の走行軌道の誤差を測定したところ、誤差3.5cm以下での自律走行が可能であることを確認しました。この誤差量は、従来のクローラー型走行機構向け制御法の誤差の約5分の1という高い精度に相当します。
図3:クローラー型走行機構でも屋内外で高い位置精度を実現
図4:クローラー型走行機構