本田技術研究所のグローバルネットワークを支える
「日立WANアクセラレータGX1000」
製造業や金融業、放送業界など、グローバルに展開している企業では、3D-CAD*1や金融データ、映像ファイルなど、ビッグデータを国内外の拠点間で扱う需要が急増しています。しかし、データ通信の共通技術であるTCP/IP*2はWAN*3を使った長距離伝送において通信速度が大きく低下する課題があります。このような背景から、生産効率向上のためには、より高速なデータ通信を実現できる方式が求められていました。そこで株式会社 本田技術研究所(以下、本田技術研究所)は、日立との共同研究から生まれた「日立WANアクセラレータGX1000」を導入しました。既存のIT環境を変えることなく、日米間のファイル転送速度を高速化することで、生産効率を向上させています。また、将来的に企業内クラウドによるITインフラの革新も視野に入れています。
株式会社 本田技術研究所
四輪R&Dセンター 開発推進室
CISブロック 主任研究員
桜庭 俊典 氏
オートバイ、自動車、小型汎用(はんよう)エンジンなどの研究・開発機関として、常に時代をリードする技術開発と研究を展開してきた本田技術研究所は、日本のほか世界5つの地域(北米・南米・欧州・アジア・中国)に研究・開発拠点を置き、各地域のニーズと特性を踏まえた商品づくりを推進しています。このため、日本で開発した新型車のデータを米国や欧州に送り、現地でそれぞれの仕様に合わせた設計を進めていますが、情報の連携のためには各拠点どうしで設計・開発データを共有することが必要でした(図1)。
図1 グローバルに開発・製造・販売のビジネスを展開するHONDA
さらに開発現場では、2次元設計から3次元設計への移行により3D-CADやCGなどのビッグデータが盛んに利用されるようになってきました。それに伴い、「グローバルでもストレスなく大容量データを更新・共有できるネットワーク環境の強化が大きな課題になっていました」と四輪R&Dセンター 開発推進室 CISブロック 主任研究員の桜庭 俊典氏は語ります。
「WAN回線の帯域幅を増強する一方、WAN高速化装置(他社製)を各拠点に配置してきましたが、期待したほどの効果が出ず、3D-CADデータの転送にブラジルなどの遠距離拠点では数日かかることもありました」と桜庭氏は続けます。
株式会社 本田技術研究所
四輪R&Dセンター 開発推進室
CISブロック 研究員
新原 雄二 氏
長距離のWANでデータ通信速度が低下する要因としては、遅延の影響によるTCP/IP制御の効率低下があります。
「ネットワーク業界の方々にとって、TCP/IPの利用とWANでの遅延発生は常識かもしれません。しかし、その既成概念を超えたときに世界一の技術は生まれます。TCP/IPに制約されない装置であれば、WANを経由したデータ通信を高速化できると私たちは常々考えていました。そのための共同研究を国内外のIT企業に持ちかけたところ、同じ思いで賛同してくれたのが日立の中央研究所でした」と桜庭氏は語ります。
本田技術研究所からのリクエストは、「特定のアプリケーションに限定しない、汎用的に高速化できる技術であること、そして契約したWAN回線の帯域を使い切れることの2つでした」と語るのは、四輪R&Dセンター 開発推進室 CISブロック 研究員の新原 雄二氏です。多くのベンダーが、キャッシュや圧縮などの既存技術を使った対策を提案するなか、日立のみが、プロトコル改良によるデータ通信の高速化という方向性を示したのです。
「もし賛同してくれる企業がなければ、WAN帯域をフルに使える新しいプロトコルを独自に開発することも考えていた」と振り返る桜庭氏ですが、「世界中の拠点に新しい技術や装置を展開していくことを考えると、やはりネットワーク機器の専門ベンダーにお任せした方が、品質や保守、継続的な機能エンハンスの面で安心できるのは確かでした。その意味で日立さんが、“TCPプロトコル自体にメスを入れ改良するしかない”というわれわれの思いをきちんと理解して、一緒に技術を開発してくださると言ってくださったときは本当にうれしかったですね」と笑顔を見せます。
WANにおけるTCP/IP通信の課題を解決するための、本田技術研究所と日立による共同研究は2009年にスタート。プロトタイプに対する幾度もの評価・改善と、本田技術研究所のグローバル拠点における実環境での検証を経た成果は、2012年1月にリリースされた「日立WANアクセラレータGX1000」へと結実しました。
日立WANアクセラレータGX1000は、独自のアルゴリズムにより、WAN回線の物理帯域を最大限に活用する高速通信装置です。
キャッシュ技術を用いた方式と異なりTCP/IP通信そのものを高速化、往復遅延時間が長い長距離伝送での性能低下を抑え、効率的なデータ通信を実現します。そのため特定のアプリケーションに限定せず、3D-CADデータなど頻繁に更新されるデータに対して効果を発揮します。
またWAN回線の空き帯域をリアルタイムに推定し、回線の混雑状況に応じてきめ細かなデータ転送量制御を実施、パケット廃棄*4が発生しても、速度を極端に低下させることなく高速な通信を実現します。
この日立WANアクセラレータGX1000を各拠点に対向で設置し、WAN経由でGX1000どうしが独自アルゴリズムによる処理を行うことで、従来TCPとの接続性を保ちながら高速化を実現します。企業拠点やデータセンター内のネットワーク、サーバやクライアント端末などのシステム環境を一切変更することなく、容易に高速データ通信を可能とします。
本田技術研究所の国内拠点と北米拠点間の実回線を使った実証試験では、100MBのファイルを標準的なファイル転送の通信規格FTPで転送した結果、転送速度を従来TCP比で約15倍に高速化(従来の受信完了時間314.3秒を20.6秒に短縮)できることを確認。国内の拠点間でも300MBのファイル転送時間を約1/10に短縮する結果が得られています。
また、大容量のデータ転送だけでなく、グループウェアなどのメールに添付するドキュメントの表示や、リアルタイムでのアプリケーション操作などでも通信速度の向上効果を確認できたことから、本田技術研究所では、国内と北米に合計7台の日立WANアクセラレータGX1000を先行導入。すでに実業務での活用を開始しています。
なお、本田技術研究所向けの製品販売・サポートは株式会社 日立ハイテクノロジーズが実施します。
日立WANアクセラレータGX1000(2スロット国内モデル)
「日立WANアクセラレータGX1000を導入することで、日米間の時差を利用したスピーディな設計・開発が可能になり、業務の効率化に貢献できると考えています。例えば、日本時間の夕方に完成した新しい設計データを米国に送ろうと思っても、従来は現地の業務時間と重なり、転送に何時間もかかるデータを送ることはできませんでした。そのため、帯域が空く週末を待たざるを得ないケースが多々ありました。しかし今なら現地業務時間であっても短時間で間違いなく転送が終わるため、まさに“旬”なデータを使った業務展開が実現できるようになります」と、新原氏はその導入効果を説明します。
桜庭氏も、「WANの契約帯域をフルに使いたいというわれわれの要望が日立さんのご協力のおかげで早期に実現できました。データ品質の面でもまったく問題がなく、とても満足しています。日本から最も距離が遠いブラジルの拠点は、通信遅延が大きく通信速度が出ないため、これまでは契約帯域を最小限に抑えてきました。このため、自動車1台分のデータをWAN経由でブラジルまで送ろうとすると数日かかりました。しかし日立WANアクセラレータGX1000を導入すれば、回線増強により数時間での転送が可能になりますので、WAN回線利用のコストパフォーマンスも飛躍的に高まります。そのため、ブラジルをはじめとしGX1000導入予定地域のWAN帯域の見直しを進めているところです」と語ります。
「現在、すでに日立WANアクセラレータGX1000を配備した日本と米国に続き、2012年度中には南米や欧州、アジアなどにも順次導入を予定しています。当社を含めたグループの主要な製造拠点や開発拠点にGX1000を配備して、各種データのリアルタイムな活用と効果的な情報連携を進めていく予定です」と桜庭氏は語ります。
WANが高速になったことで、グローバル拠点の早期立ち上げやクラウド活用も視野に入ってきました。例えば小規模拠点を立ち上げる場合、これまでは拠点ごとに研究・開発用のサーバやストレージなどを設置し、メンテナンスする必要がありました。日立WANアクセラレータGX1000を導入すれば、小規模拠点にサーバルームが不要となり、主要拠点のサーバにアクセスするだけで業務に必要なデータをWAN経由で利用できるようになると期待されています(図2)。
図2 WAN高速化がもたらす効果(海外に小規模拠点を立ち上げることを想定した例)
「日立WANアクセラレータGX1000の適用により、クラウド活用への選択肢が広がります。これまではネットワーク遅延の問題から、3D-CADなどのビッグデータは、拠点間で長い時間をかけて転送した“コピーデータ”を業務に活用していました。その結果、データ管理が一元化できず、大規模のストレージ資源を浪費し、また、その運用工数も各拠点で重複して発生しました。しかし、日立WANアクセラレータGX1000を適用すれば、全世界の拠点から主要拠点に高速にアクセス可能になるため、データ管理の一元化とシステム運用の一元化により、業務効率が飛躍的に高まる可能性があり、ビッグデータを含むクラウド活用に大きく前進すると考えられます。われわれはこの理想型をめざし、数年後には日立WANアクセラレータGX1000を使ったITインフラの革新を実現していきたいと考えています」と桜庭氏は抱負を語ります。
図3 日立WANアクセラレータの機能拡充計画
日立は、本田技術研究所と共同開発した本製品のグローバル事業展開を進めていくとともに、幅広い業種のお客さまや市場ニーズに応えた機能拡充も行っていきます。2012年4月にはピークセッション性能を100Mbpsから300Mbpsへ強化。2012年度も継続してピークセッション性能強化に向けた研究開発を進め、国内・大陸内のディザスタリカバリなどテラバイトクラスのストレージバックアップの用途にも対応していきます(図3)。
100Mbpsから300Mbpsにセッション性能を上げることで、例えば東京―サンパウロ間では理論値で55倍以上の高速化を実現します(図4)。
さらに、お客さまの契約帯域に応じた製品モデルのラインアップを拡充し、さまざまなニーズへ対応していく予定です。
長距離拠点間のデータ通信速度を大幅に向上させるとともに、企業内クラウドにおけるビッグデータの利活用にも貢献する日立WANアクセラレータGX1000を、お客さまのビジネス価値向上に、ぜひお役立てください。
図4 日立WANアクセラレータ導入の効果(理論値)
株式会社 本田技術研究所
[本社] 埼玉県和光市中央1-4-1
[設立] 1960年7月1日
[資本金] 74億円
[事業内容] HONDAの研究・開発機関として、常に時代をリードする技術開発や研究を行いながら、新しいモビリティーの提供を通じ、次世代に人と地球と社会に積極的に貢献していく。
ネットワーク高速化の対応は、現在、下記のソリューション、製品にて継承しております。
ソリューション、製品の内容につきましては、リンク先のサイトを参照ください。
お問い合わせ、資料請求
本件に関する詳細など、お問い合わせ、資料請求は下記までご連絡ください。