さまざまな分野での活用で注目されるAI(人工知能)。いま、多くの企業ではAIとOCRの技術を融合させたAI-OCRの導入によって、これまで人の手作業で行っていた手書き帳票のデータ入力作業を効率化し、業務生産性を高める動きが加速しています。
本稿では、AI -OCRとは?OCRと何が違い、どんなメリットがある?という基礎知識から、AI-OCRの選定・導入時に注意すべき3つのポイントとその解決策、さらに具体的な活用事例について解説します。
OCRとは、画像データからテキスト部分を認識し、文字データに変換する光学文字認識機能のこと。AI-OCRは、AIの特徴であるディープラーニング(深層学習)により文字の補正結果を学習することで、従来型のOCRの弱点であった識字率(文字の認識精度)を向上することができます。
さらにAI-OCRは、従来のOCRでは難しかった手書きの文字列や、非定型フォーマット文書の文字の認識が可能といったメリットがあり、その適用可能な業務範囲の広さが、注目を浴びているのです。
一般的にAI-OCRは、従来のOCRと比較して以下の3つの活用メリットがあると言われています。
AI-OCRはRPA(Robotic Process Automation)との連携が注目されています。前述のようなこれまで人手で行っていた作業をソフトウェアロボットで自動化するRPAとAI-OCRとを組み合わせることにより、紙帳票からのデータ抽出~データ入力~集計・加工~出力といった一連の業務を自動化することが可能となります。
こうしたメリットから注目を浴びるAI-OCR。その市場規模は、コロナ禍におけるペーパーレス化と業務自動化、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)ニーズを背景に、伸長を続けています。2023年には「インボイス制度」も始まり、これまで紙が主流であった企業間の請求書のやり取りについても電子化が加速しています。
また、各調査会社による市場動向では、OCRソリューション市場は2019年から2年連続前年比120%と成長を続けており、中でもけん引しているのはAI-OCRと言われています。
これを裏付けるように各社から続々とAI-OCRツールやサービスが提供されており、今や業界を問わず多くの企業や組織で、AI-OCRを活用した業務効率化への動きが高まっています。
しかし、皆さんお気づきの通り、「AI-OCRであればなんでもOK」ではありません。実際にAI-OCRを導入した先行企業からは、「期待したような効果がなかった」という声も聞かれます。
ここからは、AI-OCRの選定・導入時に注意すべきポイントを挙げ、それに対する日立の解決策を解説していきます。
前述の通りAI-OCRは、AIの特徴であるディープラーニング(深層学習)によって文字の補正結果を学習することで、識字率(文字の認識精度)を向上しています。しかし当然ながらこの技術は各社さまざまです。また、実際の業務ではクセの強い手書き文字や走り書きの処理などもあり、そもそも「AI-OCRで100%の読み取りを行うことは、理論上不可能」と言われています。そうなると結局、AI-OCRが読み取った文字に間違いがないのかを人が確認し、間違いがあれば人手で修正する、といった作業が必要になります。
日立が提供するAI-OCR「帳票認識サービス」は、日立独自の技術に加えて他社の認識技術も併用。「定型」「非定型」帳票に最適なAI-OCRエンジンを選択することで、文字認識精度を向上させています。加えて、認識モデルをアップデート可能な学習機構を有しており、継続的な認識率向上を実現しています。
ビジネスにおいては自社の定型帳票だけでなく取引先からの見積書、注文書、納品書、請求書といった多種多様な帳票に対応する必要があります。AI-OCRを利用する際、さまざまな帳票のフォーマットを読み取るための「テンプレート」を選択する前処理が、意外と面倒で手間がかかります。「テンプレート」とは、帳票のレイアウト中の読取箇所が分かるように、システム上で帳票画像にマーキングすることです。これを行うことで、帳票の画像のどの部分を読み取りたいのかを、AI-OCRに伝えることができます。
AI-OCRを活用する際、この「OCRの前処理をどこまで自動化できるか?」は非常に重要なポイントです。
日立が提供する「帳票認識サービス」は、読み取り帳票を自動で分類し、テンプレートの選択まで行います。前処理機能が帳票の種類の確認、テンプレートの選択、画像補正などを自動で実施。利用者は文字を読み取りたい帳票を選ぶだけで多量の帳票の読み取りがスピーディーに行えます。
非定型帳票においても業務において認識対象としたい項目を指定するだけで、事前の位置指定なしに帳票から目的とする認識項目を特定できます。AI-OCRに読み取ってほしい場所を詳細に設定する必要がなく、多様な様式の帳票を自動的にAI-OCRが判断。帳票のフォーマットを問わない読み取りが可能です。
文字の読み取りを行う認識エンジンには、大別すると次に示すように2種類のエンジンがあります。「帳票認識サービス」では、日立製かどうかを問わず複数の認識エンジンが利用可能であり、さまざまな種類の帳票の読み取りに対応できます。
定型帳票認識エンジン
フォーマットが決まっている帳票のイメージデータを、高速・高精度にデータ化するAI-OCRエンジンです。ディープラーニング技術を活用し、活字文字に加えて、これまで自動認識が難しかった手書き文字を高精度に読み取れます。トレーニングデータの準備、または業界特有の言語モデルと連携することで、多言語対応や業界用語への拡張対応も可能です。
非定型帳票認識エンジン
さまざまな非構造なドキュメントから、情報を正確に抜き出して整理するAI-OCRエンジンです。フォーマットがバラバラな帳票にも対応可能で、さまざまな業務場面で活用できます。業務に合わせたトレーニングやチューニングを行うことで、人間のように文字を読み取り可能です。
前述の通り、AI-OCRに100%の認識率を求めることは困難ですので、認識結果は人の確認が必要となります。読み取り作業は自動化できたものの、読み取り結果をその都度人が確認しなければならないと、業務全体の生産性は高まりません。
日立が提供する「帳票認識サービス」は、AI-OCRの認識結果の“確からしさ”を、日立独自のアルゴリズムによる「確信度」というスコアとして提供します。さらにAI-OCR認識結果と確信度に対し、適用業務におけるチェックルール(桁数チェックや形式チェックなど)を適用して補正することで、AI-OCRの不読・誤読による誤ったデータ登録リスクを低減させています。
これにより、・認識結果が確信度「低」の場合は、人による確認を実施・確信度「高」の場合は、人は確認せずに自動登録という具合に、誤登録リスクと人的な確認工数を抑制しながら、帳票業務の自動化率を向上できます。
さらに、認識結果と別系列の業務データとの突合チェックを行い、突合チェック結果も確信度の補正に活用することで、誤ったデータ入力のビジネスリスクをさらに低減し続けることも可能です。
それでは次に、日立が提供するAI-OCR「帳票認識サービス」の実際の活用事例を見ていきましょう。
年間25万件、14,500時間の出納業務を自動化
作業時間を約5割削減し、DXを推進
日立グループは、財務部門の年間25万件におよぶ出納業務が取り扱う帳票の読み取りに「帳票認識サービス」を活用しています。約4,800種類の請求書と約200種類の社内申請書の読み取りを自動で行うだけでなく、結果の確からしさを「確信度」で評価して目視での確認作業を減らし、業務の大幅な効率化が期待されています。
帳票のセッティングや読み取り後の目視による全数確認作業などの人手による業務が大幅に削減されることで、担当者の負荷軽減および残業時間の削減、休暇の取りやすさなどの「働き方改革」にも貢献します。
金融機関の「手形・小切手 交換業務」を効率化
中核となるイメージデータ化のAI-OCR技術に日立 帳票認識サービスを採用
一般社団法人全国銀行協会(以下、全銀協)は、手形・小切手*1のイメージデータの送受信によって決済を効率化する「電子交換所」を設立、2022年に稼働しました。日立はシステム委託先業者に選定され、効率化の中核となる画像処理に「帳票認識サービス」が利用されています。
これにより、金融機関間の手形・小切手の現物搬送が不要となるため、紙での手続きを希望する利用者ニーズへの対応を維持しながら、金融機関における運搬費を含めた事務コストの削減、災害時の輸送トラブルなどのリスク軽減を図り、手形・小切手による決済業務の合理化を実現しました。
そのほかAI-OCRは、以下のような業界の業務を効率化することが可能です。
いかがでしょうか。本稿ではAI-OCRとは?活用するメリットは?という基礎知識から、導入・選定時に注意すべき3つのポイントについて、日立の解決策と具体的な活用事例を交えて解説しました。
AI-OCRを活用した業務効率の向上を実現するには、以下の3つの視点でのサービスの検討が欠かせません。
日立が提供するAI-OCR「帳票認識サービス」は、これら3つの課題に対し、日立独自の技術と他社の技術を組み合わせたサービスプラットフォームとなっています。
クラウドサービスとして提供するため、柔軟に拡張可能。取り扱う帳票の数量が少量かつ複数の帳票様式を扱う業務や、特定期間に事務処理が集中する業務などの個別ニーズにも適応できます。
「業務効率化、DX推進のためにAI-OCRを活用したい」という方はもちろん、「他社のAI-OCRを導入してみたが、思うような効果が出ない」とお悩みの方も、ぜひこの機会に日立までご相談ください。