平井 伸幸
株式会社 日立コンサルティング マネージャー
みなさんこんにちは、日立コンサルティングの平井です。
本コラムでは、以前のコラムにて解説した意思決定デザインと意思決定デザインフレームワーク(FW)で可視化した最適化ユースケースを数理モデルに変換する方法について、ビジュアルイメージを交えて解説します。
前編となる今回は最適化の仕組みについてアナロジーを使い簡単に説明し、イシューを視覚的に理解する方法について解説したいと思います。
また後半では、前半のビジュアルイメージを交えつつ意思決定デザインFWで定義したイシューを数理モデルに変換していくコツについて解説しようと思います。
本コラムは意思決定デザインと意思決定デザインFWについての知識が前提になりますので、まだ読んでいないという方は先に前述のコラムを読まれることをお勧めします。
最適化の仕組みを理解するために、ここでは羊飼いが羊を丘の上にある羊小屋に誘導する例を用います(図3-1参照)。図中で羊がいま立っている場所がアクション、立っている場所の標高が価値、柵がルール、柵のある場所や各地点の標高を参照情報と考えてください。
最適化においては柵(ルール)をはみ出すことは許されず、かつ柵の中にいればどこにいても構わないという考え方になっています。この柵の中の領域を解空間と呼びます。また柵の種類に優先度はなく、すべての柵の内側にある領域のみ移動可能(実行可能)で(図3-2a参照)、その領域の中で価値を最大化する(より高い場所に行く)ために羊を誘導することが最適化の求解プロセスになります。最終的に羊は小屋までたどり着きますが、そのたどり着いた地点が最適解となります。
また柵同士に重なり部分がない場合はルールを同時に満たせる場所が存在しないので、実行不可能となります(図3-2b参照)。
一部の手法ではこの柵が曖昧だったり、柵同士に優先度を設定することもあるのですが、今回は柵をはみ出さない手法を前提に解説を進めたいと思います。
先ほどの羊飼いの問題を意思決定デザインFWで表現すると図3-3のようになります。ここではその中のアクションに注目してイシューを視覚的に理解するコツをお伝えしようと思います。
以前のコラムでお話しした通り、意思決定したいアクションは5W2Hで定義します。羊飼いの問題ではWhere(x方向)、Where(y方向)のどの地点に羊を誘導するかが選択すべきアクションとなります。ここで問題を理解しやすくするためにそれぞれの地点をマス目に区切ると、方眼紙のような形で地図が表現されます(図3-4参照)。羊飼いの問題はアクションが2軸なので方眼紙の形でモデルが表現できます。
マスの1つ1つは「このアクションを実行する・しない」が表現されており、意思決定とはつまり全てのマスの「する・しない」を決めることであり、数理モデル上は「1/0」の値で表現することができます。このようなモデルの考え方は「Mixed Integer Programming(MIP)」と呼ばれ、数理最適化における代表的なモデリング手法になります。
同じ要領で以前のコラムでお話しした配送計画や生産計画を表現すると、これらは3軸の問題になりますので、立体回転パズルのようなモデルの形を取ります(図3-5参照) 。
こうしてイシューを視覚的に捉えておくことは自身の理解を助けるだけでなく、他のメンバーやエンジニアとのコミュニケーションの助けにもなりますので、意思決定デザインの最初の段階で行うことをお勧めします。
加えて羊飼いの問題では、求解プロセスの中で現在地の標高を見ながらより高い位置をめざし最終的に小屋という1地点に達することになるため、選べる地点の数は1つだけとするルールを設定する必要があります。それらのルール数式として表現する方法については後編で解説したいと思います。
今回は最適化の仕組みについてアナロジーを使い説明を行い、イシューを視覚的に理解する方法について解説しました。
第4回では今回お見せしたモデルのビジュアルイメージを使い、意思決定デザインFWで定義したイシューを数理モデルに変換していくコツについて解説しようと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました、またお会いしましょう。