DS-VDIを導入して業務改革を推進しているのが、日立産機システムだ。同社は空気圧縮機など産業機器の製造や販売などを手掛けており、国内に7つの製造/エンジニアリング拠点を持つ。ここではDS-VDIを導入している事業所として、清水事業所、相模事業所、土浦事業所の3つの事例を紹介したい。
DS-VDIの導入以前、日立産機システムの設計者はデスクトップ型ワークステーションで作業していた。仕事ができる場所が自席に限られるため、会議室などでCADデータを突き合わせる、社外での打ち合わせの際にCADデータを顧客に見せるといったことが難しかった。
ワークステーションは高価なうえ、数年おきのリプレースが必要だ。そのたびにソフトウェアのインストールもやり直す必要があり、管理工数がかかるのも悩みの種だった。
DS-VDI導入に伴う大きな変化について、日立産機システムの相模事業所に所属する貞方康輔氏(グローバルエアパワー統括本部 空圧システム事業部 DX推進部 主任技師)は「プロジェクトの進捗(しんちょく)や個人の働き方に合わせて柔軟に作業できるようになりました」と語る。「相模事業所は遠距離通勤者が多く、通勤時間の削減につながるリモートワークを歓迎する意見も多いです。また、時間に自由な働き方ができるということで子育て中のエンジニアにも好評です」。コロナ禍でも作業を止めることなくリモートワークで対応できた。
CADモデルの共有は、設計の手戻りを減らす面でも大きな効果があった。日立産機システムの清水事業所に所属する原島寿和氏(グローバルエアパワー統括本部 空圧システム事業部 DX推進部 部長)は「ノートPCでCADの画面を表示できると、社内会議で3Dモデルを用いて担当者間で組み立て性や整備性を詳細に検討でき、込み入った内容もリモート環境で実現できることは、大きな利点です」と説明する。
DS-VDIの導入により、設計者間で意見を話し合える設計体制も実現した。
作業環境のクラウド化は事業所間の業務標準化を後押しするなど、連携体制の面でも良い効果をもたらした。
日立産機システムの事業所はそれぞれ発祥が異なり、独自の手順やルールに基づいて設計業務を行っていた。日立産機システムの土浦事業所所属の松田浩一氏(グローバルエアパワー統括本部 空圧システム事業部 DX推進部 技師)は、「3事業所は、同じ空気圧縮機であっても圧縮方式や用途、仕様が異なり、使っているシステムやCADのソフトウェアが異なるため、もっと簡単に情報共有できないか模索していました」と振り返る。「図面」という単語1つでも意味合いが事業所間で異なっており、真意を確認する必要があり、情報交換をするのも一苦労だった。
DS-VDIを導入した結果、「人手が足りない事業所を他の事業所の人員がヘルプすることができる環境が整いました。人だけではなく、ライセンスやPCなども事業所の垣根を越えて融通できるようになりました。システムがDS-VDIで1つに統一されたことで、リソースを柔軟に運用できていると感じます」(原島氏)。
異なる事業所のメンバー間で話し合う機会も増えたという。日立産機システムの清水事業所に所属する伊藤雄二氏(グローバルエアパワー統括本部 グローバル開発統括部 清水開発設計部 主任技師)は「これまではお互いにシステムが違うので他事業所の課題を深掘りできず、協力して改善するという流れが生まれにくい環境でした。今は同じ方向を向いて検討できるプラットフォームが整ったと感じます」と実感を述べる。
DS-VDIの導入時も特に大きな問題は生じず、業務にスムーズに取り入れることができた。ただ、DS-VDIがデータセンターに構築されている影響で、ネットワークのトラフィック状況によっては3D CADの描画がカクつく、データの立ち上がりにタイムラグがあるなど、動作への影響は少しあった。「ローカル環境の素早い動きに慣れていた一部の設計者から、ネットワーク経由ならではのもたつきが気になるという声が上がったこともありました」(貞方氏)。これらは通信網やネットワーク規格の見直しによって改善する見込みだ。
リモート化するうえで懸念されるのがセキュリティ面のリスクだが、日立産機システム DX推進本部 IT戦略統括部 ITソリューション部の高畠凱氏は、DS-VDIの導入に際してこうした不安はあまりなかったと説明する。
「DS-VDI自体が閉じたシステム構成になっており、開発の初期段階から安心感がありました。接続方式はリモートデスクトップではなくCitrix方式で、通信の秘匿性が強固に担保されていると感じました」
DS-VDIの利用はIT部門の管理工数削減にも寄与した。設計者がワークステーションを使っている場合、セキュリティのアップデート時はIT部門の担当者が作業しなければならない。だが、DS-VDIならばその作業は不要になる。作業環境がDS-VDIで一元化されることで、トラブルシューティング時の対応コストを大きく軽減できる。
DS-VDIの導入に要した期間は1つの事業者当たり3カ月程度だ。導入コストについて原島氏は、「これまでは15台前後のワークステーションを用意していましたが、現在は30台分のDS-VDIのアカウントを用意しています。このため金額は少し増えましたが、管理工数の軽減を鑑みるとむしろコストは低く抑えられています」と述べる。
BOM(部品表)の共有化など、設計業務外のデータやシステムの共有化にも意欲的だ。松田氏は「モノづくりの観点から言えば、3Dデータに含まれる質量や強度などのデータを製造側でも活用できるようにしたいですね。生成AI(人工知能)を用いてBOMを作ってそれを共用化するなど、設計外のデータやシステムの共有化も取り組んでいきたい」と、設計の業務の枠を超えて製造プロセス全体の改革につなげていきたいと展望を語る。
設計のリモート化は、働き方改革の観点だけではなくサイロ化しがちな事業所や部門の壁を越えて柔軟で効率的な業務プロセスを実現するうえで重要だ。もちろん、セキュリティの確保も必要だ。これらを全て実現するDS-VDIを導入して、設計のリモート化を前進させてはいかがだろうか。
左から日立産機システムの伊藤雄二氏、貞方康輔氏、原島寿和氏、松田浩一氏、高畠凱氏
転載元:MONOist
MONOist 2024年3月28日掲載記事より転載
本記事はMONOistより許諾を得て掲載しています。