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2019年9月20日
株式会社日立製作所
ルーベンカトリック大学
標準的に利用されている暗号化技術に比べ、少ないメモリで高速処理を実現
株式会社日立製作所(執行役社長兼CEO:東原 敏昭/以下、日立)とルーベンカトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven、学長: Luc Sels)が共同で開発した、センサーやコントローラーなどの小型IoT機器向けメッセージ認証技術「Chaskey」が、ISO(International Organization for Standardization、国際標準化機構)での最終承認を経て、このたび、軽量暗号国際標準規格ISO/IEC*1 29192-6として採択されました。標準化は国立研究開発法人産業技術総合研究所(理事長:中鉢 良治/以下、産総研)協力のもと行われました。Chaskeyは標準的に利用されている暗号化技術よりも少ないメモリで高速処理を実現します。本規格により、重要インフラや車載システムを支える小型機器に基本的なセキュリティ機能の導入が容易となることから、システムの安全性が向上することが期待されます。
IoT技術の発展により、さまざまな機器がインターネットに接続され、情報を得られることで利便性が向上する一方で、情報漏えい防止やプライバシー保護などのセキュリティ管理の必要性が一層高まってきています。ISOでは、従来の暗号標準規格に加え、小型IoT機器向けに軽量暗号の規格ISO/IEC 29192の策定を進めており、日本でも軽量暗号技術の開発や標準化に向けた検討が行われています。 IoTシステムを安全かつリアルタイムに運用するためには、機器を制御する命令や判断の材料となるセンサー情報が改ざんされていないことをスピーディに保証する必要がありますが、小型IoT機器は情報処理を行うメモリなどのリソースが少ないため、暗号処理の省メモリ性と高速性の両立が課題でした。そこで、日立とルーベンカトリック大学は、小型IoT機器のデータが改ざんされていないことを、標準的に利用されている暗号化技術に比べ、1/2〜1/5の少ないメモリで、2〜7倍の高速で保証することができるChaskeyを開発し、このたび、軽量暗号国際標準として採択されました。Chaskeyの特長は以下の通りです。
Chaskeyでは、CPUで実装されている基本命令のみでデータ変換を行うARX設計法*2を採用しました。ARX設計法を使う方式は、表参照を行わないためメモリ使用量が小さく、また、特定のレジスタ幅のCPUにおいて高速性を発揮します。さらに、Chaskeyでは、小型IoT機器で使用されている8〜32ビットCPUで高速な処理を実現するため、パラメータの選定に着目しました。ARX設計法では、従来、適したパラメータの選定に時間がかかっていましたが、ルーベンカトリック大学が開発した評価ツールにより、短時間で適したパラメータを選定することができ、小型IoT機器で使用されている8〜32ビットCPUでも、省メモリで高速な処理を実現することができました。
IoTシステムでは制御コマンドやセンサデータなど、小さいサイズのデータを高速に処理することが求められます。暗号処理では、事前に秘密鍵を展開する初期化処理が必要ですが、複数のIoT機器が相互に通信するシステムでは、頻繁に初期化処理が発生し処理速度が低下する恐れがあります。Chaskeyは初期化処理のコストを最小限に抑えるEven-Mansour構成法を採用することで、小さいサイズのデータでの高速処理を実現しました。また、Even-Mansour構成法は本来ブロック暗号を作る方法ですが、さらにメッセージ認証機能を実現する用法(mode of operation)を開発し、その安全性を理論的に検証しました。
今後、日立とルーベンカトリック大学は、Chaskeyをはじめとする暗号技術の製品への適用など、安全なネットワーク社会を実現する技術の研究に継続して取り組み、重要インフラのセキュリティを向上させることで、安全安心な社会の実現に貢献していきます。
株式会社日立製作所 研究開発グループ
以上