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2018年4月16日
約6ヶ月間の実証試験を行い、尿中代謝物によるがん検査の実用化に向けた研究を加速
株式会社日立製作所(執行役社長兼CEO:東原 敏昭/以下、日立)は、尿検体を用いたがん検査の実用化に向けた、体外診断分野では初となる実証試験を2018年4月より開始します。この実証試験では、臨床情報(がんの有無)付き尿検体の回収から検体搬送時の温度のトレースや時間の管理、液体クロマトグラフ/質量分析計(LC/MS)*1によるバイオマーカー*2の定量分析、さらに、がん検査モデルの構築とそれに基づくがんのリスク判別、臨床情報と判別結果との妥当性検討など、一連の解析フローを半年間(繰り返し)実施します。なお、今回の実証試験では、LC/MSによる定量分析についてはシミックファーマサイエンス株式会社(代表取締役社長:小作 寛/以下、シミック)の、解析データの評価については名古屋大学医学部附属病院(病院長:石黒 直樹)の協力を得て実施する予定です。日立は、今回の実証試験を通して種々のデータを取得して技術課題を洗い出し、尿中代謝物によるがん検査の実用化に向けた研究を加速します。
現在、日本におけるがんの疾病費用(検査、治療費用の直接費用を含む)は間接費を含めると、約10兆円*3と大きな負担になっています。また厚生労働省は2017年度に閣議決定された「第3期がん対策推進基本計画」に基づき、がんの早期発見・早期治療につながる、がん検査の受診率向上を推進しています。そのために、従来の診断法の高精度化だけでなく、がんを早期に発見できる簡便かつ高精度の新しい検査法が求められています。
日立では、尿中代謝物を用いたがん検査の研究を2015年から開始し、2016年6月には尿検体による健常者とがん患者の識別に成功*4しました。しかし、実用化に向けては、健常者の代謝物と比較した際にわずかに存在量が増減するがんに関連するバイオマーカー候補を、効率的に抽出する方法の確立が課題となっていました。
そこで今回、尿中代謝物からバイオマーカー候補を効率的に抽出できる新しいがん検査モデルを開発し、実証試験のスキームを構築しました。検査モデルと実証試験に関わる技術のポイントは以下の通りです。
90%以上が水である尿中にも数千種の物質が存在し、この中でLC/MSを使うことで高精度に測定できる約2000種の代謝物に着目しました。ここからバイオマーカー候補となり得る物質を、ウィルコクソン順位和検定*5などの統計的処理とランダムフォレスト法*6などの機械学習を用いて数十種程度まで絞り込み、さらに診療情報解析や代謝経路解析など生化学的な観点を加味して最終的なバイオマーカー候補となる数個の代謝物を抽出します。
採取した尿は日立の総合解析センタ(東京都国分寺市)から代謝物の定量解析を行うために、シミックファーマサイエンス株式会社西脇ラボ(兵庫県西脇市)にいくつかの温度帯(マイナス温度、2〜8℃、35〜37℃など)で送付されます。本解析に必要となる各種管理を適切に行うための実証試験用ITシステム(検体管理システム)を開発しました。これは、搬送する際の温度管理を行うことができるだけでなく、尿検体の採取時間、採取場所、容器状態も同時に管理するITシステムとなります。将来の尿検体搬送では、検体の漏れ、採取時間、採取場所、搬送温度、搬送時間などの管理が必要になると考え、採取時にスマートフォンで撮影した位置情報付きの検体画像との連携や、GPSと温度情報を送信(1回/1分)する機能を備えた搬送ボックスによる搬送温度のトレーシングを行えるようにしたものです。
なお、がん検査モデルに基づくバイオマーカーの代謝物の定量解析において協力を得るシミックは、薬物動態解析を中心に高度な精度管理が必要となるLC/MSにおける高い技術力を有し、国内有数の解析能力があるGLPに適合した分析ラボを有しています。独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のGLP*7適合性調査では適合(A評価)を受けており、今回の実証試験のデータ品質を担保することができます。
日立は、今回の実証試験(2018年4月〜2018年9月を予定)を通して、種々のデータを取得して技術課題を洗い出し、尿中代謝物によるがん検査の実用化に向けた研究を加速します。
尿検体を用いたがん検査に関する実証試験のスキーム
株式会社日立製作所 研究開発グループ
以上