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2016年2月15日
株式会社日立製作所
国立大学法人東北大学金属材料研究所
従来比1.2倍の引張強度と1.7倍の孔食電位を備えた、複雑な形状部品の試作に成功
株式会社日立製作所(執行役社長兼COO:東原 敏昭/以下、日立)、および、国立大学法人東北大学(総長:里見 進/以下、東北大)は、金属用3Dプリンターを用いた、強度と耐食性に優れたハイエントロピー合金*1(HiPEACE*2)の積層造形技術を開発しました。従来の手法による金属用3Dプリンターでの製造と比較して、1.2倍の引張強度である1300 MPa*3と耐食性の指標である孔食電位が1.7倍となる0.85 V vs Ag/AgCl*4を備え(図1(B)から(C))、組成ムラ*5が無く、均質で複雑な形状の部品を製造することが可能です。今回開発した技術を適用し、複雑な形状を有する部品の試作に成功しました(図2)。強度と腐食耐性が要求される化学プラントなどの設備用部品を製造する際に本技術を用いることで、設備の長寿命化や稼働率向上に寄与します。
化学プラントや油井、ガス井掘削設備などの部品は、強い腐食性ガスにさらされる環境下で使用され、安全性を確保するために高い強度と耐食性が求められます。日立と東北大は、引張強度や耐摩耗性および高温酸化や酸・アルカリ環境下での耐食性に優れることが報告されているハイエントロピー合金に着目し、2014年より高強度・高耐食な部品製造技術の開発を進めてきました。ハイエントロピー合金は多種類の元素で構成されているため、鋳造*6時に組成ムラを生じ易く、高硬度のために加工が難しいという課題がありました。そこで、金属用3Dプリンターを用いる際、製造時に高硬度の金属間化合物*7を網目状に析出*8させることにより、鋳造時に比べて引張強度を1.4倍高めることに成功しました(図1(A)から(B))。しかし、実用化に向けて、さらなる引張強度と耐食性の向上が求められていました。
そこで日立と東北大は、金属用3Dプリンターを用いた製造工程のうち局所溶融・急冷凝固プロセスを最適化したハイエントロピー合金(HiPEACE)の積層造形技術を開発しました。
開発した技術の概要は以下の通りです。
3Dプリンターを用いた部品の造形は、平坦に敷き詰められた70µm程度の厚さの金属粉末に、設計図に基づいて電子ビームを照射し、必要な部分だけを溶融・凝固させて層を形成する工程を繰り返し行います。このとき、凝固速度が速くなるほど金属間化合物が微細になって均一に分散し、引張強度や耐食性が改善される事がわかりました。
そこで、電子ビームのエネルギーと照射時の走査速度*9に加えて、ハイエントロピー合金(HiPEACE)の粉末を完全に溶融させる前に低エネルギーの電子ビームを粉末全体に照射する予熱プロセスに着目しました。粉末の予熱温度を必要最低限に制御し、予熱温度と溶融温度の差を大きくすることで、凝固速度が速くなります。その結果、高耐食性を有するマトリクス相中*10に数10nm程度の高硬度な金属間化合物を均一に分散させることに成功しました(図1(C))。これにより、ハイエントロピー合金(HiPEACE)を材料として、従来の1.2倍の引張強度と耐食性の指標である孔食電位を1.7倍とすることの両立に成功し(図1(B)から(C))、組成ムラが無く均質で複雑な形状部品の製造が可能となりました。
今後、実用化に向けて、実使用環境における実証実験を進めていきます。
本成果は、2月14日から18日に米国テネシー州で開催される国際学会TMS (The Minerals, Metals & Materials Society)2016にて発表する予定です。
図1: 鋳造法と3Dプリンターを用いて製造した部品の組織と特性の比較
図2: 試作造形に成功した複雑な形状を有する羽根車
研究開発グループ 情報企画部 [担当:鈴木、黒澤]
〒319-1292 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号
電話 0294-52-7508(直通)
金属材料研究所 加工プロセス工学研究部門 [担当:千葉 晶彦 教授]
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以上