近年ではコンピューターの進化や普及にともない、
ソフトウェアで機能を実現する製品が増えた。
ソフトウェアはますます大規模にそして複雑化している。
ソフトウェアの開発で扱う情報量は膨大になり、
紙やディスプレイなどの二次元平面で
表示できる限界を超えてしまうほどだ。
では、三次元空間でソフトウェア構造を可視化できたら?
「日立ソーシャルイノベーションフォーラム2019」での
展示でも大きく注目された
「大規模で複雑なソフトウェアの構造を
VR空間で可視化する技術」。
それはどのように発想され、開発されていったか?
日立製作所 研究開発グループ 主任研究員 川上真澄と
企画員 堀 旭宏に話を聞いた。
(2020年4月1日 公開)
※所属、役職は公開当時のものです。
円筒形で階層化した建築物をイメージしたVR空間図。
赤、青、緑で示されたのが「部屋(関数のまとまり)」だ。
VRコントローラーでターゲットオブジェクトを選択すると、
空間にその関数の詳細が浮かぶ例。
球体面に沿ったオブジェクト(関数)配置。バネアルゴリズムによって、
それぞれのオブジェクトがなるべく離れるように自動調整される。
ソフトウェア内のエラーは、その異常を示すサウンドとともに
「赤く燃え上がる炎」
としてわかりやすく表示される。
本技術はハードウェアを選ばない。
VRゴーグル/VRコントローラーなど市販の汎用品で対応可能だ。
川上真澄(かわかみ・ますみ)
豊橋技術科学大学修士課程修了後、日立製作所入社。電力関連のシステム開発からキャリアをスタートし、デジタルテレビなど家電関連を経て、現在は自動車や鉄道のソフトウェアの研究開発に携わる。専門技術は、モデルベース開発、ソフトウェアプロダクトライン、テスト、プロジェクトマネジメントなど。
■私に影響を与えてくれた作品
著作『時を超えた建設の道』クリストファー・アレグザンダー
オーストリアの建築家、クリストファー・アレグザンダーの著作で「時を超えた建設の道」という本があります。これは良い街並みや建物をつくるための「パタン・ランゲージ(町・建物・施工など環境設計を表現した言葉)」を提案した建築分野の本です。後年にこの考え方をソフトウェア開発に応用してデザインパターンという技術が生まれました。ソフトウェアは目に見えない概念ですから、建築分野のコンセプトを使うことでソフトウェア開発をやりやすくしています。私は、もしソフトウェアエンジニアにならなかったら建築家になりたかったので、今回のような建築物のメタファを使ってソフトウェアを開発するコンセプトは必然だったのかもしれません。
堀 旭宏(ほり・あきひろ)
慶應義塾大学ではソフトウェアテスト自動化の研究を行い、修士課程卒業後、日立製作所入社。「大規模で複雑なソフトウェアの構造をVR空間で可視化する技術」を企画。
■私に影響を与えてくれた作品
映画『インセプション』クリストファー・ノーラン監督
レオナルド・ディカプリオ主演の映画「インセプション」では、主人公たちが夢の中に入り込み、さまざまなミッションをこなします。夢の中の世界では、豊富な想像力によって一瞬で建物を建てることができます。その建物は現実のものとは違い、どれも独創的で、特に周囲を取り囲むような湾曲した建物や宙に浮いた建物などは、建物をモチーフにしたソースコード可視化を行ううえで、大きなヒントとなりました。