サーバ仮想化やデスクトップ仮想化を実現する、日立の「Hitachi Unified Compute Platform」(Hitachi UCP)。Hitachi UCPでは、サーバ、ストレージ、ネットワークなどを特定の構成でパッケージングすることで、運用管理の簡単化を実現しています。今回の開発では、Hitachi UCP 4000シリーズのディザスタリカバリの設定項目を86%削減し、管理者の負担を軽減することに成功しました。
(2016年1月6日 公開)
寺山Hitachi UCPとは、サーバ、ストレージ、ネットワーク、仮想化ソフトウェアなどを統合し、ワンセットでお客さまにご提供する「統合プラットフォーム」です。Hitachi UCPを利用すると、お客さま先での仮想環境の構築や運用の負担が軽減され、短期間でサーバ仮想化やデスクトップ仮想化が実現できます。
坂田設定や管理を簡単化することでお客さまの負担を軽減しているというのが、Hitachi UCPの特長です。例えばHitachi UCPには、仮想ネットワークの設定に合わせて物理ネットワークを自動で設定する機能があるのですが、これは仮想環境の運用が簡単にできるという点でご好評を得ていました。
寺山日立のお客さまには、システムに高可用性を求めるお客さまが多くいらっしゃいます。そのため、ストレージの機能を利用したディザスタリカバリというのは、通常のシステムでも需要が多い機能の一つです。Hitachi UCPで仮想化システムを構築する際も、ディザスタリカバリによる高可用性というのは依然として求められます。
しかし、従来のHitachi UCPでディザスタリカバリを実現しようとした場合、一つ問題がありました。それは、ディザスタリカバリの設定が管理者の負担になっている、ということです。
坂田従来のHitachi UCPでディザスタリカバリを設定するには、仮想環境の設定の前にストレージの設定が必要でした。このストレージの設定というのは、仮想環境の管理者にしてみると非常に難易度が高い。そのため、ストレージの設定はストレージの専門知識を持つハードウェアの管理者にお願いする必要があります。そうすると、仮想環境の管理者とハードウェアの管理者の間で調整が必要となってきます。
仮想環境の管理者とハードウェアの管理者が会議を開いて、設定の変更について議論して計画を立てて、それから設定を変更して…。調整に掛かるこの時間が、現在のクラウド時代のスピード感に合わなくなっていました。
寺山クラウド時代のスピード感に合った操作性を実現するためには、仮想環境の設定とハードウェアの設定を、仮想環境の管理者が一括してできるようにする必要がある。これを実現するために、今回の開発では「お客さまのベストプラクティスに基づいた設定の自動化」と「仮想環境の識別子を利用したハードウェア層の設定」という2点を提案しました。
寺山仮想環境の管理者にディザスタリカバリの設定をしてもらうにあたり、まずはお客さまが実際に行っているディザスタリカバリの設定を分析し、これを「お客さまのベストプラクティス」として抽出しました。すると、たくさんある設定の一部は、どこのお客さまでもだいたい同じような設定だということがわかったのです。だったら、そういう設定は自動化できるのではないか、と考えました。
今回、このお客さまのベストプラクティスに基づいて、ハードウェア層の設定項目を必要最小限に絞り込みました。さらに、これらの設定項目を仮想化層の設定項目として設定できるようにしました。これによって仮想環境の管理者は、どのサーバに付いているどのボリュームをどこにコピー(フェールオーバー)するかという、仮想環境の管理に必要な情報を自分で設定できるようになりました。それ以外の設定項目については全部自動化し、設定項目数の大幅な削減を実現しています。
図1 従来のディザスタリカバリの設定
図2 自動化したディザスタリカバリの設定
寺山はい。仮想環境の管理者にハードウェア層の設定をしてもらううえで、ハードウェア層の設定項目をそのまま見せただけでは、やっぱり設定はできない、難しい、となってしまいます。そこで、ハードウェア層の設定項目を仮想環境の管理者が理解できるかたちで見せてあげるようにしました。つまり、サーバやボリュームといったハードウェア層の識別子をそのまま仮想環境の管理者に見せるのではなく、ハイパーバイザーやデータストアといった仮想環境の識別子を利用して、ハードウェアの設定ができるようにしたのです。
図3 設定項目数の削減
寺山従来はハードウェア層、つまりストレージの設定が18項目、仮想化層の設定が4項目、合計22項目の設定が必要でしたが、これを3項目にまで削減しました。割合でいうと、22項目から3項目、つまり86%の削減に成功しました。特にハードウェア層の設定項目数は0項目にまで削減しています。
坂田ハードウェア層の設定項目数が0になったということは、仮想環境の管理者だけでディザスタリカバリの設定ができるようになった、ということです。これで、これまで必要だった管理者間の調整が不要になりました。
今回の開発によって、オペレーションの体系が変わったというか、時間の感覚が変わったというか…。クラウド時代のスピード感に合ったタイムリーなハードウェア管理が実現できた、そういった点が非常に大きなポイントだと思っています。
坂田今回のように設定項目の大部分を自動化できたのには、実は理由があります。それは、Hitachi UCPの構成が非常に限定的だからなのです。Hitachi UCPは、このモデルの、このサーバストレージシステムで、こういうネットワークでというふうに、構成を限定しています。この「柔軟性と引き替えにした簡易性」が、Hitachi UCPの特徴でもあるわけです。
寺山単純にストレージ単体でのディザスタリカバリですとか、統合プラットフォームのディザスタリカバリというのは、ほかの製品でも提供しています。ただ、ディザスタリカバリの設定の簡単化、仮想環境の管理者だけで設定ができる、といった機能はHitachi UCPにしかない機能ですね。
坂田ディザスタリカバリの設定の簡単化は、最初ヨーロッパのお客さまに利用していただきました。ヨーロッパのお客さまには、新しいことにチャレンジしてくれるお客さまや、ディザスタリカバリの設定はしっかりやっておきたいというお客さまが多いですね。そこで利用していただいたところ、これが非常に好評で…。その結果は、アメリカとかアジアにも伝わっていきました。
ただ、「柔軟性と引き替えにした簡易性」という特徴が、国や地域によってすぐには受け入れられない、ということはありました。例えばアメリカの場合、お客さまによってはストレージの専門家がしっかりと運用している場合もあって、Hitachi UCPの特徴が合わない、ということがありました。けれどヨーロッパでの評判が伝わってからは、アメリカでの需要もグっと伸びてきている、という感じですね。
おもしろかったのは、このディザスタリカバリの設定の簡単化を売り出したらHitachi UCPが2台ずつ売れ出した、ということですね(笑)。
寺山ディザスタリカバリには、Hitachi UCPが複数台必要ですからね。2台、4台ずつ買っていってくださるケースがあって、それは非常に新鮮でした。
坂田今回、ディザスタリカバリ機能の開発を通じて、複数サイトを管理するコンポーネントを開発しました。将来的にはそのソフトウェアを利用して、世界中のHitachi UCPのサイトを管理できるようになれば、と考えています。例えば、世界各国または全国に多くの支店や拠点を持っているようなお客さまであれば、一括して拠点の環境を管理したり、拠点のデータを収集したりできるようにする…とか。
寺山あと、Hitachi UCPはエンタープライズ向けの機器で構成されていますが、最近はそういったベンダー独自のハードウェアよりもむしろ、標準化されたハードウェア…コモディティハードの需要が増えています。今後は、コモディティハードを使いながらも価値のあるソリューションをどう生み出していくのか、が重要になってくると思います。
坂田そうですね。現在マーケットには、仮想環境やクラウドを利用したさまざまなサービスやソリューションが広まっています。そういうコモディティ化がどんどん進んでいくときに、日立としての強みや価値を出せるような、差別化できるようなところを求めていかなければならないと思っています。お客さまはスケーラブルで信頼性の高い環境やサービスを使いたいと思っている。その中で、日立としてどういうソリューションを提供できるかということを、真剣に考えています。
寺山最近のマーケットは、ハードウェアやプラットフォームよりも業務やアプリケーションの関心が高まっているように思います。お客さまはハードウェアの管理をしたいわけではなく、もっとアプリケーションを開発したり、業務に使ったりする方にフォーカスしたい。しかし一方で、Hitachi UCPのようなハードウェアやプラットフォームがなくなるかというと、依然として存在してしまうわけです。コモディティ化が進む中で、いまは複数の環境が混在している状況です。そのような世界で、運用管理を簡単にしたりもっと使いやすくしたりして、お客さまにさらに良いものを提供していきたいな、と思います。