難揮発電解質を用いた電池容量130Whかつエネルギー密度600Wh/Lの電池で不燃を実証
2019年11月12日
株式会社日立製作所
日立は、揮発しにくい電解質材料を採用したラミネート型のリチウムイオン二次電池*1(以下、LIB)を開発し、安全性を担保しつつLIBに貯蓄できるエネルギー密度600Wh/Lを実現しました。このことにより、電池容量は130Whでサイズも当社従来比2/5となることを実現しました。今回開発したラミネート型のLIBに対し、圧壊試験*2や過充電試験*3など、IEC62660に準拠した安全規格試験を行い、発火に至らないことを実証しました。本技術により、LIBを搭載する自動車の車内空間を有効活用したり、再生可能エネルギー用の電力貯蔵電源が省スペースで設置することが可能となります。
図1 従来のラミネート型LIBの外観(左)および開発LIB(130Wh)の外観(右)
電池容量130Whかつエネルギー密度600Wh/L、サイズ2/5(図1(右))のラミネート型LIBを開発し、IEC62660に準拠した安全規格試験を実施し、発火に至らないことを実証。
本成果の一部は、2019年10月13日から米国Atlantaで開催された236th The Electrochemical Society Meetingおよび2019年10月28日から千葉で開催された3rd International Advanced Automotive Battery Conferenceで発表。
有機電解液を採用したラミネート型のLIBでは、電解液の揮発性が高く、揮発に伴う内部圧力の上昇により、LIBが破裂して電解液が漏えいし、中毒・引火の危険性が高まることが課題でした。日立は、国立大学法人東北大学と共同開発した難揮発性の電解質*4をシミュレーション解析技術等により改良し、低い揮発性と良好な電池充放電を両立する組成とすることで、100℃以上の揮発温度*5を実現し、加熱時の膨れ模擬試験*6における膨れ抑制を実現しました。
従来LIB(図2(a))では、気密性を保つために電池外周部にラミネート接着部が存在していましたが、蓄電に関与しない余剰スペースであり、エネルギー密度が下がる要因でした。1.で開発した難揮発性電解質を採用することで内部圧力の上昇を抑制し、ラミネート接着部を簡素化できるようになりました。その結果、エネルギー密度の高いLIB構造(図2(b))を実現しました。
図2 電池構造模式図 (a) 従来LIBの構造 (b) 開発したLIB構造
エネルギー密度向上のために、正負極間の絶縁を担う電解質層の薄膜化を検討しました。過度の薄膜化は電極間の短絡による発熱確率を高めて発火の原因となり、安全性の低下を招く恐れがありました。そこで、日立は発熱・発火メカニズムをモデル化し、電解質層の最適な厚み算出し、安全を担保しながらエネルギー密度も高める電池設計を実現しました。
以上の結果、エネルギー密度は当社従来比50%向上の600Wh/Lとなり、サイズも2/5を実現しました。開発したラミネート型LIBは、IEC62660に準拠した安全規格試験を行い、発火に至らないことを実証しました。本技術により、有機電解液を用いたLIBシステムで必要であった安全性を担保するため必要な補強材や冷却機構といった部材を削減することが可能となり、電池システムのコンパクト化、価格競争力向上が期待できます。
本研究の一部は、防衛装備庁安全保障技術研究推進制度委託事業の一環として実施されたものです。