社会インフラ設備の安定性確保への貢献をめざす
2018年11月12日
株式会社日立製作所
開発した目視型環境診断センサーの外観
日立は、社会インフラ設備の情報・制御機器向けに、薄膜干渉*1による発色現象を応用して銀薄膜の変色度合(腐食インジケーター)を目視するだけで、還元性硫黄ガス*2種(硫化水素H2Sと単体硫黄ガスS8)の特定と機器を設置したエリアの腐食性診断を可能とする環境診断センサーを開発しました。本技術は、情報・制御機器に搭載された電子部品の腐食による故障リスクをその場で診断できるため、現地スタッフがいつでも硫化腐食に対する機器の安全性を確認できます。
鉄道、上下水道、電力プラントなどのインフラ設備の情報・制御機器は、環境診断に基づく適切な硫化腐食障害の防止対策が求められています。特に持続的成長を遂げている新興国では工業化に伴うガス排出量の増大により情報・制御機器の硫化腐食障害が発生しているため、機器の安定稼動には、年々変動する環境を的確に捉えることが不可欠です。
硫化腐食障害に対して適切な対策を実施するためには、原因ガスを特定してそのガスの腐食性リスクを診断する必要があります。現在の腐食性診断では、その場で硫化腐食の原因ガスを特定することができなかったため、採取したガスを持ち帰り特別な装置で分析してガス種を特定する必要がありました。
そこで日立は、銀薄膜の変色精度を高める膜厚の最適化、腐食診断の信頼度を高める硫化腐食シミュレーションを開発し、銀薄膜の変色長さを腐食インジケーターとして目視するだけで還元性硫黄ガス種の特定と腐食性診断を可能とする環境診断センサーを開発しました。
今回開発した環境診断センサーの効果を国内下水処理施設の制御装置室で検証したところ、下水処理施設で発生する硫化水素の特定が可能であることを実証しました。また、室内環境の腐食性を国際規格(ISO11844-1)で定められている腐食性分類に従い診断できることを実証しました。
なお、本成果は、2018年10月30日に開催された電気学会「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウムで発表しました。
今回、開発した技術の特長は次の通りです。
腐食性ガス環境に暴露した目視型環境診断センサーの測定例
銀薄膜が腐食すると薄膜干渉により変色することに注目し、銀薄膜を腐食インジケーターとして還元性硫黄ガスの種類を特定する技術を開発しました。銀薄膜の膜厚を最適化することで黒色と黄色の2種類の変色精度を高めました。また、硫化腐食シミュレーションにより黒色領域の長さ(CI-1)がガスの拡散速度に依存することを明らかにしました。その結果、この長さ(CI-1)により下水や温泉由来の硫化水素(H2S)とゴム由来の単体硫黄ガス(S8)のどちらが存在しているかを特定できます。
黄色領域の長さが環境中に存在する還元性硫黄ガスの濃度に依存して経時的に伸長する挙動を硫化腐食シミュレーションにより解明し、黄色領域の長さ(CI-2)をインジケーターとして環境の腐食性を診断する技術を開発しました。さらに、シミュレーションと検証試験に基づきセンサー構造を最適化し、標準測定用と短期測定用の2種類のインジケーターを用意しました。環境診断マップを用いて暴露時間とインジケーターの長さ(CI-2)からその環境での機器の故障リスクを診断します。標準測定用インジケーターでは1か月ごとに2~3年にわたり連続診断することを想定しています。また短期測定用インジケーターを用いれは1か月以下でも環境診断が可能です。例えば設置実績がないインフラ設備環境や腐食障害が発生し対策が施された設備環境では、短期測定用インジケーターにより早急に環境診断して現状の防食対策の有効性を見極め、さらに標準測定用インジケーターにより長期にわたり環境診断して機器の安定稼動を確認します。
このトピックスは、以下の新聞に掲載されました。