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Hitachi

物体内部の温度を非破壊で計測可能な3次元X線サーモグラフィー技術を開発

機器内部の温度を実測することで、最適な熱設計への貢献をめざす

2018年9月26日
株式会社日立製作所


図1 ヒーターにより加熱された実験セル内の水の3次元温度分布像

  日立は、大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構(以下、KEK)と共同で、世界で初めて、物体内部の任意の位置における温度を計測可能な3次元X線サーモグラフィー技術を開発しました。この技術では、温度変化で生じる物体の密度変化(熱膨張)をX線により3次元的に計測して、温度を算出します。内部の温度分布を非破壊で実際に計測することで、より高度な熱制御が可能になります。今後は、パワーデバイス*1や熱電変換素子などを搭載した機器などの熱設計への本技術の適用をめざし、機器の安全性や信頼性向上に貢献していきます。

  電気・電子機器の高密度化や小型化などに伴う発熱量の増加により、機器の安全性や信頼性を確保するために熱設計が重要になっています。最適な熱設計を行うためには、機器の内部を含む任意の位置の温度を実測することが必要です。しかし、赤外線などを利用する従来の一般的なサーモグラフィーでは、測定できるのは物体表面に限られるため、物体内部の温度はシミュレーションにより推測するしかありませんでした。
  物体内部を非破壊で観察する手法として、医療などの分野で幅広く利用されているX線CTが挙げられます。X線CTでは物体内の密度を計測するのですが、温度の変化によって生じる密度の変化(熱膨張)から逆に温度を検出するという着想に至り、日立は、2016年よりKEKと共同でX線を用いたサーモグラフィー技術の開発に取り組んできました。
  2017年には、日立が独自に開発してきたX線位相イメージング法*2を用いて、実験セル中の水をヒーターで加熱しながらその温度分布を2次元かつ経時的に可視化することに成功しました*3。また、同様のテストでアルミニウムなどの金属にも有効であることを確認しました*4。そして今回、新たに3次元温度計測セルやCT撮影用の回転機構を開発し、KEKに常設されている位相イメージングシステムに組み込むことで、加熱した水の3次元の温度分布を可視化することに成功しました。

  今後、日立は、本技術をパワーデバイスや熱電変換素子などを搭載した機器などの熱設計への適用をめざし、高度な熱制御による機器の安全性や信頼性向上に貢献していきます。

  本成果は、英国科学誌「Scientific Reports」オンライン版に2018年8月23日付(英国時間)で発表されました*5

技術の詳細な説明

1. 密度変化から温度を検出するための技術

  温度の変化によって生じる密度の変化(熱膨張)は1℃あたりわずか1/10000以下というとても小さな変化です。従来のX線CTに比べて軽元素に対して1000倍以上高感度な日立独自の結晶干渉計を用いた位相イメージング法(X線干渉計*6を用いて位相シフトを検出する方法、三次元密度分解能サブmg/cm3)を適用することで、密度変化から2℃の精度で温度変化を検出できるようになりました。

2. 3次元温度計測のための技術

  3次元温度計測には、計測中の物体の状態(温度)を安定させること、及びさまざまな角度からX線を照射するために物体を最低半周(180度)以上回転させることが必要でした。そのために内部セルと外部セルの二重構造を持つ3次元温度計測系を開発し、この課題を解決しました。外部セルは金属製(銅とアルミ)で下部に設けたヒートシンクで定温に保持される構造とし、内部セルは円筒のポリプロピレン製で加熱用セラミックヒーターを上部に装備する構成とすることで、計測中の温度を安定化しました。また、内部セルを外部セルから独立させることで、X線に対して180度以上回転させることを可能にしました。

3. 計測時間短縮のための技術

  使用するX線のエネルギーを最適化したり、X線の照射面積を試料サイズに合わせることで、当初は数時間を要していた高分解能の3次元温度計測の計測時間を半分以下となる50分に短縮することに成功しました。


図2 X線位相イメージングシステムに組み込んだ3次元温度計測系

確認した効果の詳細

1. 3次元の温度分布

  上記のシステムを用いて、内部セル内の水の温度を3次元的に可視化することに成功しました(図1)。ヒーター近傍の温度が最も高く、離れるに従って指数関数的に温度が低下すること、動径方向には温度差がほとんどないこと、及び最高温度がヒーターの出力に依存することなどを確認しました。また、本条件における測温精度は2℃であることがわかりました。

2. 経時的な温度変化

  ヒーター加熱に伴う水の経時的な温度変化を時間分解能1.3秒で計測し、その結果が有限要素法を用いた数値シミュレーションとよく一致することを確認しました。加熱を開始すると、ヒーター上面から高温領域が柱状となって上方に広がり、上端(水と空気の境界)に到達すると横方向に広がる様子や、その温度状態も一致しました(図3、セル内拡大像)。これにより、原理通りに本法でも正確に温度を計測できることが確認できました。


図3

*1
パワーデバイス:電力変換器に用いられる半導体素子
*2
X線位相イメージング法:物質をX線が透過する際に生じる位相の変化(位相シフト)をコントラストとして3次元画像にするイメージング技術。従来の医療用、産業用などで普及している吸収コントラスト法によるX線CT技術は、X線が物質を透過する際の透過率(吸収率)の変化をコントラストとして3次元画像にする。位相コントラストX線CT法は、軽元素(水素、炭素、窒素、酸素等)で構成されている試料に対して、数mg/cm3という非常に高い密度分解能で、かつ非破壊で3次元可視化が可能。
*3
Yoneyama, A. and Hyodo, K., Feasibility study of X-ray thermography using phase-contrast X-ray imaging in International Conference on X-ray Optics and Applications 2017 (XOPT2017) p8-21 (2017)
*4
Yoneyama, A. and Hyodo, K. Feasibility study of X-ray thermography using X-ray interferometricimaging in The 13th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation (SRI 2018) PC1-05 (2018)
*5
www.nature.com/articles/s41598-018-30443-4
*6
X線干渉計:シリコンの単結晶でできた光学素子により、入射したX線を分割・屈折・結合して干渉させる干渉計

照会先

株式会社日立製作所 研究開発グループ

関連リンク

掲載先

このトピックスは、以下の新聞に掲載されました。

2018年12月7日