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生体認証&FINANCE

安全性の高い生体認証ビジネスを追求

日常生活のあらゆるシーンで広がりを見せる生体認証技術。日立は「生体認証統合基盤サービス」を通じて、生活のさまざまな場面における本人認証を “手ぶら”で行える、安心・安全・便利な社会の実現に向けた取り組みを加速させています。そんな生体認証ビジネスを牽引する御三方にお話を伺いました。

真弓 武行

真弓 武行

金融第二システム事業部 金融デジタルイノベーション本部 第三部 ビジネスプロデューサー

入社以降、都銀営業店チャネル、為替・印鑑システム他サブシステムプロジェクト、メガバンクシステム統合プロジェクト、金融チャネルソリューション事業などに従事。2019年より業種横断での生体認証事業の創生、事業化を重点に活動。手ぶらでのキャッシュレス決済サービスをはじめとした生体認証クラウドサービスのプロジェクト取りまとめを担当。

森下 沙耶

森下 沙耶

金融第二システム事業部 金融デジタルイノベーション本部 第三部 技師

地銀向け資金証券システムに従事し、複数の地銀へのシステム適用や保守を経験。2020年に生体認証事業部署へ異動し、以来生体認証統合基盤サービスの拡販・適用を担当。現在、手ぶらでのキャッシュレス決済サービスなどのサービス企画を推進。

金子清志

金子清志

(株)日立システムズ 金融事業グループ 金融DX事業部 第一本部 本部長

プロジェクトマネージャーとして、流通系やネット銀行系会社のクレジットカード決済システム構築、海外市場向けファイナンスシステムの企画・開発および販売支援など、金融システムのソリューション事業に従事。2019年より生体認証事業の事業化を推進。特に中長期的な地方創生の取り組みに力を入れている。

インタビュー風景

日立の生体認証は「PBI」だから安心・安全・便利

今回、日立システムズの金子さんにもお越しいただいておりますが、日立製作所(以下、日立)と日立システムズ(以下、HISYS)の関係性を教えていただけますか。

真弓:

2019年に我々が日立の生体認証技術を生かしたビジネス展開を検討していたところ、クレジットカード会社のお客さまから「生体認証技術を使ってみたい」とお声がけいただいたのがきっかけです。私はもともと銀行の営業店システムをメインに担当していたので、クレジットカード業界の知識が不足していました。そこで、HISYSでクレジットカード業界の知見がありクラウドサービスを立ち上げておられた金子さんに、「指にクレジットカードを紐づけてみませんか?」と声をかけたんですよね。

金子:

そうです。最初は数人でスタートしたプロジェクトでした。クレジットカード業界は国際的なレギュレーションがあるので、それをしっかりと遵守しなければなりません。何度も集まって議論を重ねながら、しっかりと基準に準拠した「生体認証統合基盤サービス」をつくり上げていきました。

まさに“One Hitachi”で進めて来られたのですね。改めて、生体認証統合基盤サービスとは、どのようなものでしょうか。

真弓:

生体認証技術とPKI電子署名技術(Public Key Infrastructure)を掛け合わせた、「PBI(Public Biometric Infrastructure)」という特許取得済みのセキュリティ技術を活用した、安心・安全・便利な生体認証を実現するクラウドサービスです。

インタビュー風景

PBIについて、もう少し詳しく教えてください。

真弓:

PBIは日立独自の技術で、生体情報をそのまま保管するのではなく、生体情報から生成した“公開鍵”だけを保管します。生体情報を暗号化した“秘密鍵”はどこにも保管されませんので、万一、情報漏えいが起きたとしても、生体情報を復元して悪用することはできません。要は、鍵と鍵穴があるときに、鍵穴だけを保管しておき、鍵は認証するごとに生成するイメージです。PBI以外の生体認証は生体情報そのものを暗号化しているだけのため、暗号化キーを解読されると生体情報に復元可能であり、悪用されることで利用者個人に被害が及んでしまいます。それに対しPBIは一方向性変換であり、仮に情報漏えいしたとしても生体情報に戻すことができないため、非常に安全性が高いと言えます。

「PBIによる本人認証」を中核として、生体情報の入口となる「認証方法」と出口となる「付加価値サービス」の3層構造になっています。入口を制御する認証方法では、対応端末や対応モーダルを複数の選択肢の中から選ぶことができます。日立の得意とする指静脈認証をはじめ、顔認証もPBIに対応しており、マルチモーダルを実現しています。今後ほかの生体認証もPBI対応を検討しています。また、出口となる付加価値サービス(=生体認証の活用方法)は「決済連携」「チェックイン/アウト」「ログイン管理」のほか、データ利活用やAPI外部連携まで、業種業態を問わず、目的に応じて多種多様なものを組み合わせていただけます。VUCA*1の時代だからこそ既成概念を取り除き、さまざまなニーズへの対応が必要と考えています。今は自治体向けに地域活性化のためのサービスに注力して活動しています。

*1:「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取ったもの。将来予測が困難な状態を意味する。

インタビュー風景

実証実験で見えてきた生体認証の真価

生体認証統合基盤サービスのユースケースを教えていただけますか。

真弓:

まずは2021年5月から娯楽業界とのコラボレーションとしてゴルフ場施設での実証実験を始めました。ゴルフ場のチェックインやプレー費用の決済にPBIの指静脈認証を用いて、その有用性を確かめるものです。

森下:

氏名・住所・電話番号などを毎回手書きで記帳していたチェックインを指静脈認証にすることで、あっという間にチェックインが完了します。決済で利用する際も同様で、店員が金額を入力した後に認証するだけで、登録済みのクレジットカードで決済が完了します。
お客さまからは「ゴルフ場に来たらすぐにプレーを始められるのが素晴らしい」という感想をいただいており、スタッフの方からも「手間がなくなって、とても楽だ」との声を頂戴しています。

真弓:

この実証実験は、当初2021年の10月末で終了予定だったのですが、当初100人弱だった登録者が、今では400人近くにまで増えています。これまでの利用者からの好評を受け、現在も延長してご利用いただいています。

インタビュー風景

地域活性化からリモート診療まで、あらゆる場面へ広がる活用シーン

チェックインや決済の他には、どのようなところで活用されていますか?

真弓:

地域活性化にむけては、地域通貨やクーポンと連携させた地域振興に役立てたいと考えています。2022年1月から大阪府の河内長野市で実証実験を開始しています。

金子:

河内長野市には、市内加盟店で利用可能な電子地域通貨「モックルコイン」というものがあり、そこに生体認証をつなげてみようという試みです。まずは手始めに、地域で開催されているラジオ体操の出欠管理を指静脈認証で行えるようにしました。

ラジオ体操の参加者は、手ぶらで会場に来て、指静脈で「ピッ」と認証すると、健康ポイントとして1回の出席あたり50円分のモックルコインが付与される仕組みです。今後は、市内加盟店での買い物だけではなく、例えば地域の公園を清掃するとモックルコインで対価が支払われたり、地域循環バスの運賃支払いにも使えたり、といった地域生活のさまざまなシーンに広げようという話も出ています。モックルコインの利用が循環することで地域の活性化に繋がっていくといいなと思っています。

真弓:

電子地域通貨の決済だけでなく、将来的にはオンライン診療や処方薬の受け取り、災害時の本人確認や被災者支援といった、とてもデリケートな個人情報を取り扱う必要があるシーンでも、PBIを使った生体認証であれば安全・確実に本人を特定できるため、安心して活用してもらえます。河内長野市では、住民にとってより良い行政サービスを提供するため、生体認証の活用を前向きに推進されていますので、日立としてもぜひ技術でご支援したいですね。

ラジオ体操に参加される方は、高齢者が多いのではないかと思いますが、指静脈を登録することに抵抗感はなかったのでしょうか?

金子:

心象として「顔を登録するのは、ちょっと…」と抵抗を感じる方も多いようですが、指静脈であれば、あまり抵抗感なくご登録いただけていますね。

森下:

「スマートフォンはうまく使えないから、むしろ指静脈のほうが便利で良い」とおっしゃる方も多いです。

真弓:

スマートフォンは落としたときのリスクがありますし、電源が入っていなければ使えません。何も持たずに手ぶらで利用できる生体認証が、高齢者の方にとって最もシンプルで手軽ですよね。今後は福島県の玉川村でも、スマートフォンやITに不慣れな方々のデジタル化、キャッシュレス化をめざした実証実験を始める予定です。玉川村では、環境対策や人材育成、産業や観光など多方面において、デジタル技術を活用した地域振興を推進しようとされており、その第一弾として、玉川村の地域商品券をデジタル化し、お店で指静脈認証をすると購入済みの地域商品券の残高から決済される仕組みを用いた手ぶらでの買い物を実施します。

高齢社会における地域振興や健康促進にも寄与できるということですね。

真弓:

はい。他にもPOSベンダーさんと一緒に、非接触での年齢確認やセルフレジ完全無人化の実証実験を始める予定があったり、愛知県の豊田調剤薬局さんでは、HISYSが開発した、利用者がただ座るだけでバイタル情報を自動的に測定できるIoTチェアを活用したリモート診療で、本人を確認する実証を始めていたりします。ゆくゆくはマイナンバーカードとも紐付けて、健康保険証や診察券がなくても診療が受けられるようにするなど、構想は広がっています。

最後に、将来の展望を教えてください。

真弓:

今回ご紹介した以外にも、さまざまな業種業態のみなさまとともに協創しながら付加価値の創出をめざす取り組みが、どんどん増えてきています。コロナ禍で停滞していた時期があったものの、緊急事態宣言が解除された2021年の10月以降、一気に加速し始めた印象があります。

デジタル社会で私たちの生活は豊かになります。その一方、デジタル化された情報が他人に利用されては困ります。デジタル社会で豊かな生活になっても、「人」が社会の中心であることには変わりありません。そんな利便性と安全性の両立を図るカギとなるのは、生体認証であると考えます。

生体認証統合基盤サービスでは、生体情報を一度登録するだけで、他の連携したさまざまなサービスを横断して利用することができ、利用できるサービスが増えれば増えるほど、生活者のQoLは高くなっていきます。誰もがいつでもどこでも安心・安全・便利に暮らせる豊かな社会の実現に向けて、生体認証統合基盤サービスを社会インフラ基盤として確立することをめざしていきます。

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