DXの阻害要因になっていませんか?
DX推進では、デジタルサービスが生み出すデータを迅速に分析し、そこで得た洞察をビジネスに生かせるかどうかが重要だ。サイロ化したデータを統合し、柔軟に活用するには、どのようなデータ基盤を構築すべきなのか。
株式会社 日立製作所 マネージドサービス事業部 デジタルサービス本部 データマネジメント プラットフォーム部 主管技師 市川 和幸
「データの何がやっかいかというと『そろっていない』『取っていない』『取ったはいいが抜けていた』『抜けているだけでなく捨てていた』といったことが頻繁に起こることです。分析する手法はあってもデータがないので取り組みが進められない。そこでデータを取り始めても、成果が出るのは1年後といった具合ですから、そのときには必要なデータが変わっていたということが起こります」
データ活用に関する顧客の悩みについて、こう語るのは、日立製作所の市川和幸(マネージドサービス事業部 デジタルサービス本部 データマネジメントプラットフォーム部 主管技師)だ。日立製作所はメインフレーム向けRAIDシステムやオープンシステム向けSAN(Storage Area Network)/NAS(Network Attached Storage)といった、データの置き場になるストレージを長きにわたって提供してきた。DX推進やデータ活用においても、顧客の課題を解決すべく多様な支援を展開している。
市川によると、最近は、データにまつわる課題がさらに多様化しており、「置き場所」「判断基準の変化」「活用の仕組み」の3つに集約できるという。
1点目は「データをどこに置けばいいのか」という課題だ。データを活用する現場に近い場所に置くのが理想です。ある拠点で「Microsoft Excel」を使って分析するなら、クラウドではなくその拠点のローカルPCにあった方がいいし、クラウドで活用するならクラウドストレージにあった方がいい。
株式会社 日立製作所 ITプロダクツ統括本部 ソリューションストラテジー本部 ハイブリッドクラウドビジネス戦略部 担当部長 内山 秀一
「データを簡単に移動して、活用できればいいのですが、移動できる仕組みが整っていない状態だと、本社のデータセンターや拠点のストレージ、従業員のPC、クラウドなどに分散して配置されることになり、データはサイロ化します」(市川)
2点目は「どのデータを使うか、ニーズや状況によって判断基準が変わる」という課題だ。例えば、製造業では、死活監視のためには機器の稼働データが必要だが、予兆保全には故障データなども必要になる。セキュリティでも、成功したログイン記録だけでなく、失敗した不正アクセスログが対策を講じる分析に有効であることが多い。
「どのデータをどう取得すればいいか、データの価値をどう判断するかはビジネス目的や状況によって変化します。難しいのは、取得したデータが10年後に重要になっているかどうかは誰にも分からないことです。分からない中でデータをためていかなければならないのです」(市川)
3点目は「バラバラに配置されたデータを、活用しやすいように統合して管理する仕組みをどう作るか」という課題だ。日立製作所の内山秀一(ITプロダクツ統括本部 ソリューションストラテジー本部 ハイブリッドクラウドビジネス戦略部 担当部長)は、次のように説明する。
「データサイズは年々増加し、今ではPB(ペタバイト)クラスのデータを保有している企業も珍しくありません。データはクラウドやオンプレミスに散在していることが増えていますが、無計画に散在したわけではなく、データの特性に応じて配置されてきた結果なのです」
市場データから見る最新のITインフラ利用
具体的には、機密性が高く、「絶対に漏えいしてはならない」というデータはオンプレミスに、仮にトラブルによってなくなったとしても許容することができ、顧客接点で活用できそうなデータはクラウドに保存するといった具合だ。
「もっとも、こうした区分けがずっと最適解というわけではありません。基幹システムのデータこそ企業に価値をもたらす源泉であり、他のデータと合わせてクラウドで分析すべきデータかもしれないからです。DXを突き詰めていくと、こうした区分けが障壁になるケースも今後出てくるのではと考えています。」(内山)
こうした代表的な3つの課題に対しては、これまではおおむね正しい判断の下、対策が講じられてきたという。
1点目のデータの置き場所については、利用するアプリケーションに近いところへデータを配置することが対策の一つだ。
2点目の判断基準の変化については、目的が変化したときに必要なデータを素早く見つけることができるように、データを連携させる仕組みを作り、データカタログなどで「どこに何があるか」を追跡できるようにするという対策が講じられた。
3点目の活用の仕組みについても、クラウドに統合データ基盤を作り、データマネジメントやデータガバナンスに取り組むことが増えている。
「必要ないデータは捨てる」から「データはとにかく捨てずにためておく」という判断が当たり前になり、必要なときにデータを活用できる仕組みが求められるようになった。
一方で、こうした対策だけでは不十分という状況に変化しつつある。生成AIの登場で、データとの向き合い方が根本的に変わる可能性があるからだ。
生成AIは、ビジネスの現場で活用が始まり、成果も確認され始めている状況だ。データの関係性については、以前のAIと比べて大きく変わってきている。
数年前はAIに対する評価はさまざまで、活用がうまくいっている企業もあれば、うまくいっていない企業もあった。「AI活用に向けてデータをためるのもいいが、AIでは使えないデータもあるのだから、取捨選択すればいい」といった理解が標準的だった。
AI活用に必要ないとして捨ててきたデータは多い。例えば、勘定系システムでは、入出金に関するログやデータは必ず取得しているが、オンラインバンキングへのログインやログアウト、入金しようとして途中まで進んでブラウザーを閉じたログなどは捨てることも多かったという。
「こうしたエラーログを取得しておくと、サイトをうまく利用できていないユーザーや、パスワードを忘れたユーザーを把握し、ユーザーインタフェースを改善できる可能性が出てきます」(市川)
ユーザーインタフェースを改善すると、オンラインの利用者数が増えたり、窓口業務が減ってコストダウンにつながったりすることで、企業価値を向上させることができる。
一方で、生成AIが普及すると、必要な理由が説明できないものの取っておいた方がいいデータが増えるという。これまで捨てていたエラーログ、監査ログなどのシステムログ、イベントデータだけでなく、社内にある議事録、営業報告書、修理報告書など一定期間保存はしているが、分類や整理が難しく活用できていなかったテキスト/書類データまで活用できる可能性が出てきたからだ。
「生成AIがデータの価値を引き上げ過ぎてしまい、データ基盤を作るときも『このデータをためるが、このデータは捨てる』といった線引きができなくなっています。『全てのデータが大事』と言うしかなくなってしまったのです」(市川)
データ活用やAI活用、さらに生成AIの活用を踏まえ、企業はどのようにデータ基盤を構築すればいいのだろうか。
「現在の企業が直面している、データのサイロ化などの課題に対応しながら、生成AIといった予測できない動きも包含できるプラットフォームを作ることが求められます」(内山)
そのためのデータ基盤として日立製作所は「Hitachi Virtual Storage Platform」(VSP)と、VSPのクラウドストレージサービス「VSP on cloud」を提供開始している。
VSP on cloudは、日立製作所のストレージ技術や運用ノウハウをAmazon Web Services(AWS)上に適用することで、機密性の高いデータを保有するシステムの移行やシステム配置/変更が容易なハイブリッドクラウド環境を提供するサービスだ。
日立のハイブリッドクラウドソリューション
具体的には、VSPに備わるコピーやレプリケーション、スナップショット、イミュータブルバックアップなどといった機能をオンプレミスとクラウド間、クラウド上でも活用することで、データの堅牢(けんろう)性や可搬性を保証しながら、機密性の高いデータから価値を引き出せるようにするという。これは、日立が長年培っていたストレージの仮想化技術を、クラウド上にも拡張したことにより実現している。
「生成AIでは、学習させるデータの信頼性が活用する際のポイントの一つになります。今は『どんな活用の仕方ができるのか』というアウトプットの部分が注目されていますが、より重要なのは『どのようなデータを学習させるか』というインプットの部分です。日立のストレージの仮想化技術を使えば、オンプレミスとクラウドをシームレスにつなぐことで、オンプレミスにあるデータをまるでクラウド上にあるかのように扱えたり、逆にクラウドのデータをオンプレミスで活用できるようになります。データがどこにあっても自由に使えるようにすることが私たちの目標です。加えて、機密データが安全に利用できる状態かどうか、データが改ざんされていないかどうか、必要なデータを素早く収集し、適切に配置できるかどうかといった問題の解決を、日立製作所が培ってきた経験や技術で支援しています」(内山)
データを活用するためには、ここまで紹介したようなデータ基盤の整備だけでなく、運用の効率化や人材育成、データ活用の文化の醸成なども必要になる。日立製作所は、そうした取り組みについてもサポートする。
「インフラは線路の下の枕木のようなものです。普段、利用者はその存在に気付かないものですが、取り組みを続けるためになくてはならない。ミッションクリティカルな取り組みで培ってきた日立製作所の技術やノウハウ、経験でお客さまを支え続けます」(内山)
「一方で、先が見通せない中で重要なのは、お客さまの声に耳を傾け、手を携えて取り組みを進めることです。お客さまと力を合わせてデータ活用の課題を解決していきます」(市川)
転載元:ITmedia ビジネスオンライン
ITmedia ビジネスオンライン 2023年11月15日掲載記事より転載
本記事はITmedia ビジネスオンラインより許諾を得て掲載しています。