江川氏は、「地図アプリのように、点在する情報を1つのインターフェースで使いやすくしたのがCognite Data Fusionの本質」と語る。
Cognite Data Fusionでは、製造現場を構築してきたさまざまなシステムのデータをすべてCognite Data Fusionに吸い上げて集約し、データの関連付けである”コンテキスト化”を行う。たとえば、製造現場におけるP&ID(配管計装図)に、機器IDや計装タグ、機器の時系列データや機器の属性情報、機器にひもづいている作業履歴などを関連付ける。これにより、P&ID図面を中心とした産業向けナビゲーションビューの世界を実現できる。
製造現場では、トラブル発生時に複数システムをまたいで情報を集め、仮説を立て、対応策を決めるまでに多大な時間とスキルが必要だった。このような、一人ひとりのデータを探すという能力に依存してしまう状態をCognite Data Fusionは解消し、P&ID図面を起点とした情報の見える化により速やかな仮説立案と検証が可能になる。
アジャイル型で取り組み、「まずは一部のデータ、一部のライン、一部のプロセスから始めて、成果が出たら徐々にスコープを広げていくことが可能」なため、スモールスタートで始められることも、Cognite Data Fusionの特徴の1つである。
さらに「どういったことが整理されれば製造業のDXが進むのか、現場で聞きながら作り上げてきたのも、Cognite Data Fusionの特徴」と江川氏は語る。日立自身が製造業の会社であり、製造業におけるO&Mの経験や、お客さまが抱くDXに対する課題感を共有できていることも、一般的なシステム会社との違いといえる。
Industrial Data × AIをを活用したユースケースは多岐にわたる。
1つ目は「運転 × AI」のユースケース。化学メーカーDIC株式会社さまとの共創で、樹脂製造における反応工程の終点予測をAIで実現。これまでベテラン技術者に依存していたノウハウを、センサーデータや制御データを用いて理論モデルを構築し、現場負荷を軽減した。これまで現場を支えてきたベテラン技術者のノウハウを継承しながら、省人化による人手不足問題に対応した事例といえる。
2つ目は「保全 × AI」のユースケース。ダイキン工業株式会社さまでは、熟練技術者の知見を生成AIで再現し、グローバルな製造拠点間のスキルギャップを埋める取り組みを進めている。新しい設備導入に伴う保全の考え方や故障時における問題箇所の特定などにおいて、スピードアップと精度向上を実現した。原因特定精度90%、レスポンス時間10秒以内という成果をPoCで実証済みだ。
3つ目は、Cogniteの「RCA分析エージェント」の取り組み。トラブルシューティングのAIエージェントが、ユーザーの問いかけに対して根本原因の候補を提示し、関連技術文書の提示、作業手順の提示、さらに作業指示の自動発行までを担う。「仮想社員」としての役割を果たし、将来的な技能継承にも資するソリューションとなっている。
日立は、こうした産業AIとDataOps基盤を用いて、製造業のO&Mの高度化を推進している。馬場氏は「お客さまと一緒に現場で悩み、改善してきた経験が強み」と語る。
その一例が、バッテリー高機能材の製造プロセスにおける短サイクル化支援である。原材料からの品質設計や設備データの活用、保全計画の最適化を通じて、研究開発から商用運転までの期間を大幅に短縮する試みを進めている。
馬場氏は、「私たちがめざしているのは、製造業のフロントラインワーカーを支援すること」と強調する。1,400を超えるLumadaユースケースを通じて得られた知見を、業種を超えて転用可能な形で蓄積・再現し、汎用的なソリューションとして提供している。
「生成AIとDataOpsの融合により、データを『つなぐ』『活かす』『任せる』というステージまでもっていける。その力で、製造業の課題を根本から変えていきたい」と馬場氏は締めくくる。
日立は今後も、テクノロジーと製造現場の知見を融合させたO&M高度化に挑み続ける。