製造業ではデジタル化の取り組みが進む一方で、収集したデータを十分に活かせていないケースが少なくない。現場に散在するデータをいかに統合し、実際の業務に結びつけるかが、DXを深化させる鍵となる。日立はこの課題に対し、Cognite社と連携し、産業向けデータ統合基盤「Cognite Data Fusion(CDF)」を活用。AIとデータの力でO&M(operation & maintenance : 生産と保全)の高度化を支援し、製造業の変革に挑んでいる。
馬場俊行 氏
Chief Lumada Business Officer
株式会社日立製作所
インダストリアルAIビジネスユニット
インダストリアルデジタル事業統括本部
現代の製造業は、かつてないほどの社会的潮流と構造変化に直面している。株式会社日立製作所 Chief Lumada Business Officer の馬場 俊行 氏は、「今、製造業が直面しているのは、大きく分けて3つの社会潮流です」と語る。
江川 亮一 氏
Cognite株式会社 代表取締役社長
第一は不確実性の増大。直近15年で不確実性は3倍に拡大し、地政学的リスクや保護主義的政策により、グローバルな事業運営は常に変動にさらされている。第二は労働人口の減少。2020年から2050年にかけて、日本ではマイナス32%という深刻な労働力の減少が予測されており、現場の人材不足は待ったなしの課題だ。第三は環境配慮である。2050年ネットゼロの達成、温暖化1.5℃抑制に向け、カーボンフットプリントの義務化が2026年には一部企業に適用される見通しだ。
このような状況下で、製造業には生産性の維持と企業成長の両立が求められている。「ソリューションはAI、デジタル、サーキュラーエコノミーと多岐にわたりますが、どれをどの順序で使えばいいかという道のりは簡単ではありません」と馬場氏は強調する。
Cognite株式会社 代表取締役社長の江川 亮一 氏は、こうした背景を踏まえて「システムの導入がデジタル化のゴールと捉えられてきましたが、今後はAIが人の作業を模倣しながら業務を支援遂行するフェーズに入っていく」と語る。減少するベテラン人材のスキルを補完し、現場の負荷を軽減する手段として、デジタルトランスフォーメーション(DX)の本質的な実現が急がれている。
製造業の次世代プラント化を進めるにあたり、日立が活用しているのが「成熟度モデル」である。このモデルは、レベル1の可視化(各製造現場の状況を数値化)から始まり、レベル2のデータ連携(取得したデータをつないで製造フローを可視化)、レベル3の制御(データに基づく手順の見直しや運転制御)、レベル4の問題把握と対策(あるべき状況と対比しながら改善すべき点を特定し対策を実行)、レベル5の予見、レベル6のサプライチェーン全体の連携へと段階的に進む構造だ。
「各フェーズの中でも、レベル2=つなげるは、現場の4M(huMan、Machine、Material、Method)データを統合する重要なフェーズ。データ統合プラットフォームを用意してデータを1カ所に集約するところで、多くの企業が苦戦している」と馬場氏は指摘する。ここをどう突破するかが、DX成功の鍵となる。
こうした文脈の中で注目を集めているのが、ノルウェー発の産業向けデータ統合基盤「Cognite Data Fusion(CDF)」である。Cognite Data Fusionは、ノルウェーの北海油田を中心とするエネルギー産業各社がDX化を迫られたことに端を発して、現場で使いやすい形でチューニングを重ねながら開発されてきた実績豊富なソリューションである。DataOpsという概念のもと、異種データの統合と活用を容易にする。
あらためて、「製造業のDXを進めるには、レベル2の“データをつなげる”段階が最も難しい」と馬場氏は指摘する。ここで求められるのが、huMan(人)、Machine(機械)、Material(材料)、Method(方法)といった4Mのデータを、リアルタイムかつ整合的につなぐ技術だ。
従来はデータ整備だけでも1〜2年を要していたため、費用対効果を確認するのに時間がかかってしまい、社内の理解を得にくいという課題があった。Cognite Data Fusionの導入にあたっては、ウォーターフォールではなくアジャイル型を採用しており、早ければ3カ月、長くても半年で結果を確認できる状態に到達する。短期間で効果を実感できる点は大きなインパクトをもたらす。
また、デジタルツインにも対応可能で、360度カメラ画像や3D点群データも統合できる。「現場の方々からは、『これまで、絶対につながらないと思っていたデータがつながっただけで、業務がここまで変わるとは』という声をいただいています」と江川氏は語る。